第8話 お茶会(1)
次の週の休日。
サービール王国の
この国での私の”自宅”である。
そこにユーフィアとニグム様をお招きして、お茶会の開催です。
「「………………」」
どうして顔を合わせると不機嫌になるんだろうか……このお二人は……。
空気悪……。
「それで、まさか本当にフィエラシーラと交際しておりますの?」
「俺本人はそう思っているが?」
ちらり、とユーフィアとニグム様から私の方に視線を向けられる。
ちょ、そ、そんな……なんという……! 答えづらい!
あ、ちなみにユーフィアもフラーシュ語は話せるので、言語はフラーシュ語です。
「えっと……結婚についてはまだ、考えたいと言いますか、その……もしニグム様と結婚することになると、王妃ですよね? 勉強不足ですので、覚悟が決まるまでは待っていただきたいと言いますか……」
「ほーーーーら! まだフィエラは結婚する気がないんですって。つまり交際もしていないってことですわよね!」
「む……」
ああ、そんな表情で見ないでくださいませ。
だって本当に自信がないんですもの。
「君が望むなら王位は弟に譲ってもいい。だが、兄弟が王位に就いたら王にならなかった兄弟は家臣に降下しなければならないから、君の研究を進めさせるには王妃の立場がいちばんいいだろう。君が嫁いできてくれるなら、俺も王になる覚悟を決める。君を幸せにしたいからな」
「え」
急な発言にボッと顔が熱くなる。
なんかとんでもないこと言われた思ったら、ユーフィアが「ぐぬぬ」という表情になってしまう。
けれどそこは一国の王女。
すぐに持ち直して扇子を開く。
「あら、王太子という立場でありながら、まだ王座に就く覚悟がなかったのですか? そんな調子でフィエラを幸せにするなんて片腹痛いですわ。わたくしのお兄様たちは、みんな国を支える覚悟ですわよ」
と、追加で煽るユーフィア。
え? 待って? このままギスギスのまま進むの?
私、この空気のお茶会を続けるのしんどいってぇ……。
「確かにそのつもりはなかったな。興味がなかった。弟たちが優秀なら王太子の座なら譲ってしまえと思っていたが、フィエラシーラ姫のためなら王になろう。彼女の研究が進む手助けもする。彼女の研究は我が国だけでなくきっと、世界で苦しむ人を救ってくれるだろう。俺も女性と交際するのは初めてなので、彼女に俺の気持ちが伝わっていない部分はあるかもしれないだろうけれど、それなら伝わるまで伝える」
「は、はわわわわ……」
なんでそんなこと言うのーーー!?
しかもコキアとハゼランのにんまにんま顔よ!
ユーフィアのむぎぎぎぎ、という表情にユーフィアの侍女たちが肩をプルプルさせている。
笑ってるじゃん。
「でも、ニグム様はハーレムを作られるのでしょう? 王のハーレムは女性が唯一人権を得られる立場ですもの。フラーシュ王国を始めとする南国は、女性に人権を与えておりませんものね。顔や肌を見せないどころかおしゃれもお茶会許されないなんて、そんな自由のない国に、フィエラが嫁いで幸せになれるとは思えません」
ま、まだ続けるの。
若干「ユーフィア、そろそろ……」と言いかけたけれど、ハーレムの話は私自身も懸念点だった。
ユーフィアがこの話をするためにニグム様につっけんどんな態度を取っていたのだから、ある意味ここが本題なんだろう。
私がちらりとニグム様を見るとものすごく嫌そうな表情。
「俺はハーレム制度は嫌いだ。フィエラシーラ姫の功績を大々的に扱い、女性の立場を向上させ、中央や東部の女性活躍を手本に服装などの文化を積極的に取り入れていく。そもそもハーレムの女性の数が多ければ、子も多く生まれるという前提は間違っている。確かに王のハーレムは女性の自由を確保する意味でも用いられていたことだが、俺にはそれを反対している守護獣フラーシュの姿が見えている。それは俺の考えを、守護獣フラーシュが支持しているなによりもの証だ。父にも守護獣フラーシュの意思は伝えてきた。卒業までに改革の体制を整えると約束してくれた。そのために俺はこの国に留学し、女性の立場がどんなものなのかを学ぶつもりなのだから」
「まあ……」
え、ハーレムってそういう女性保護の側面もあったんだ。
へー、と感心していると、ユーフィアが扇子を閉じる。
これは自分に優位なことを聞いた時の、ユーフィアの癖のようなもの。
今の話のどこにユーフィアにとって益になる話があったのだろう?
「体よく国から追い出されたんですわね?」
満面の笑み。
それに対して私もニグム様もハッとする。
ニグム様としては言語学習と女性の扱いを向上させるべく、他国の女性がどういう生活をしているかを学ぶために留学。
けれど守護獣フラーシュ様の意思を伝えられた現王陛下側から見ると、「なんか面倒なことを言い出した王太子を追い出した」ようにも見えるのだ。
フラーシュ様がニグム様の肩に現れる。
なにか言いたげだ。
「フラーシュ様……?」
『いやー、このお姫様の言う通りなんよ。ニグムがわいを見れるのは、見えない連中からすると嘘やろ~~~、って感じみたいでなぁ』
「国内にフラーシュ様が見える方っていないのですか?」
『いないんよ』
「まあ……」
じゃあ、本当にニグム様が守護獣フラーシュ様の意思を伝えるふりをして女性の立場向上派閥の傀儡になっていると思われているのね?
でも、守護獣様のご意向だと騒がれるのは面倒くさいから、適当な理由をつけて国外に出してしまえばいい、と。
それって、ニグム様が留学している間に「体制を整えておく」って言葉の意味が変わってくるんだけれど……。
「え?」
「え?」
「フィ、フィエラ、だ、誰とお話しておりますの?」
「え? ニグム様の肩にいるフラーシュ様と」
「待って!? 本当に守護獣様と一緒にいますの!?」
「ええ。フラーシュ様はふわふわもふもふですごく可愛いの。私、動物アレルギーがひどいけれどふわふわもふもふの生き物には憧れがあってついお声がけしてしまって……。そうしたら、守護獣様と言われて驚いてしまったわ」
『え、なになに、わいのこと抱っこしたかったん? なんやねん、もっと早う言ってくれればもふもふなでなでさせまくったんに。ほーれ、好きなだけもふもふなでなでしてええんやでー』
「よ、よろしいのですか!?」
ニグム様の肩からフラーシュ様が私の膝の上に飛び込んできた。
は、は、はわあ~~~!
感動を覚えながらも恐る恐るお腹に触れてみる。
前世から、ぬいぐるみでしか撫でられなかったもふもふ……。
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