消えた屋敷の秘密
八月光
June 2018
プロローグ
この記録は、わたしが過去(1986年)に経験した、極めて特異な事件についてのものである。 ここに記載された内容は全て真実であり、わたしを含めた関係者が入手した資料と、事件に関わったとされる人々から、直接得た証言に基づいている。
知りえた事実と記載順序が前後している場合があるが、話の整合性を考慮しての順序であるため、御了承いただきたい。
あの事件から三十年以上が経過した。
今にして思えば、あの事件は私にとっては、超現実的であり、回想するたびに、まるで醒めない白日夢の中をあてもなく彷徨っているような感覚に囚われる。しかし、あの時の映像だけは、わたしの心の中では、あまりにも鮮明であり、抽象的ではなく、具現的だ。
そういった意味では、まさにダリの絵画の中に体ごと入り込んだ感覚、という喩えが、わたしの感覚に近く、それを表現できる、現時点では最も適した表現だと思う。しかし、それは、あくまでも表現としては現時点で最適というだけの意味でしか無く、では実際にわたしの感覚そのものか、といえば、それは非常に大きな解離があり、僅か百分の一の整合性も満たしてはいないだろう。
いっぽうで、わたしにとってあの体験は、 今までは非常に主観的なものであって、 客観的な記載が不可能であった。 思い出すだけで、身を切られるような痛さを覚えたのだが、今ではそういったことも少なくなった。事件を事実として、客観的に語ることができるようになった。
そして何よりも重要なこととして、あの事件についてわたし達しか知らない事実がある。 本来であれば、 事件直後に 、知り得た事実について、すみやかに警察に報告すべき事項もあったと思われるが、実際にはそうはしなかった。当時のわたし達としては、それが妥当であると判断した訳だが、その判断が正しかったか、については、読者の判断に委ねたい。その反響に対するすべての責任は、著者であるわたしが負う。
そしてもうひとつ、この物語を記載する動機は、わたし自身のためでもある。あれから長い時間が経過したが、時の流れとともに変化していったことも多い。わたし自身もその例外ではない。
わたし自身の過去を清算する意味もある。いや、過去を呼び戻そうとしているのだろうか。恐らくその両方の意味があるだろう。
最後に。わたしのこの声が、あの二人に届くことを願っている。
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