ビジネスクラス

「ああ、本当にルナ行っちゃったね」

「まさか本当に行くとは思わなかったよ」


 一平は腕時計を睨んだ。


「おい、成田空港の駐車料金はばかにならない。早く出よう」

「ああ、そうだね」


 バンに乗り込み言った。


「昼飯食って帰らないか?」

「パパが奢ってくれるなら異論なし」

「おい、遼平、社会人になってもまだそれか」

「だって給料安いんだよ」

「何が食べたい?」


 遼平と一之介の声がハモった。


「肉う」

 


 炭火焼きのいい匂いが立ち込めている。


「ママは見送りに来なくて良かったのかな?」

「ああ、泣いてしまうやんって言っていた」

「それにしても、よく許したね」

「こんなチャンスは一生のうち二度と巡って来ないとルナに言われたんだそうだ」

「大学休学して語学留学かあ」


「全部、カズさんの家でもってくれるんだろ」

「それくらい出してやろうと思ったが、あちらに出してもらった方がルナに覚悟が出来るだろう」

「そんな金、うちにあるの?」

「ああ、哲おじさんが奨学金と言って預けてくれた」


「哲おじさんはお坊さんか」


 肉のジュージュー爆ぜる音がする。


「おい、焼けたぞ。食え食え」

「「ルナは今頃、ビジネスクラスで雲の上か」

「やっぱり、男は金だな」


 アチチチと言いながら肉を頬張る一平。


「おい、旨いもの食いながら景気の悪い顔をするな」

「金はあるし、ハーバードに編入出来るし、あとは何だ?」

「女運が悪い」


 一之介のツッコミに笑いが弾けた。


「まさか、もう戻らないなんてことはないよな」

「ビザが切れたら帰って来るだろう」

「そのうち入籍したりして」


 この冗談には誰も笑えなかった。





 クッシュ。


「ルナちゃん、寒い?」


 カズが立ち上がり、天井の空調を調節して毛布をかけてくれた。


「不安か?」

「ううん。カズさんがいれば平気」

「もうルナちゃんは可愛いなあ。ステーキは美味しかった?」

「うん、お腹いっぱい」

「少し眠るといいよ」


 自分のリクライニングも倒したカズはメガネを外し胸ポケットにしまい、毛布にくるまりルナと手を繋いだ。


 ハーバード大学に編入が決まったカズから一緒に行かないかと誘われノコノコついて来てしまった。

 一番の心配は費用のことだったが、全額もってくれると言うので、こんなチャンスは二度とない。

 すぐにトランクを引っ張り出した。


「おい、ルナがアメリカへ行くって本当なのか?」


 一平がナオに訊いた。


「もう荷造り始めてもうたわよ」

「驚いたな。ルナはてっきりヨッシーと一緒になるものと思っていた」

「お揃いのセーター洗濯していたの、てっきりヨッシーのかと思うたら違ったん」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る