2枚のセーター
「まずい、非常にまずい」
「どうしてだよ、好青年じゃないか」
「だからまずいと言ってるんだよ。それに医学部だぜ、将来医者だぜ」
「ああ、ヨッシーに安請け合いしてしまって困ったね」
うーん。
遼平が唸った。
「ミミーランドのことが裏目に出てしまったか。ルナの変わり身の早さには驚いたよ。本当にそれほどヨッシーのこと好きじゃなかったのかな」
「本人も自分の気持ちに気が付いてないのかもしれないし」
一之介が呟くように言った。
「いっそのことヨッシーもオトちゃんに乗り換えてくれたらいいのに」
「そんなにうまいこといくわけない」
「ところで、あのふたりどこで知り合ったったんだ」
「慶應義塾って言ったらフミヤさんの関係じゃない」
「それでね、カズさんがね」
「ヨッシーロスが終わったと思ったら、今度はカズさん、カズさんって」
「ねえ、聞いて、聞いて」
「うん、聞いてるよ」
「あれ? 何だったけ」
ルナは大きなエビフライに齧りついた。
「ルナ、最近お昼ご飯がっつり食べるよね」
「うん、おっぱい食べて胸を大きくしたいんだ」
「ああ、それで」
つっこみもしないで頷くカエデとミカだった。
「進学先、提出した?」
「うん、このままエスカレーターに乗って行くつもり」
「カエデちゃんは?」
「同じく」
おでんのコンニャクを齧りながら、ミカが手を挙げた。
「わあ、また一緒だね」
「大学でもヨロシク」
3人は水の入ったコップを高らかにあげた。
「私たちの前途にかんぱーい」
「あら、珍しい、お洗濯しているん?」
「ママ、セーターはぬるま湯でアクロスで洗うのよね」
「うん、押し洗いしてね。よくすすいだら軽く絞ってバスタオルに包むんよ。洗濯ネームに洗濯機OKだったら……」
「ううん、手洗いしたい」
「あら、あら、よほど大事なセーターやのね。まあ、頑張って」
ルナは柔軟仕上げ剤で丁寧に洗濯を終えると、白と少し大きなブルーのセーターを並べて干した。
「いい香り」
春のそよ風に泳ぐ2枚のセーターをいつまでもうっとりと眺めていた。
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