ママのお味噌汁

部屋の扉がノックされた。


「はい」

「ルナちゃん、よく眠れた?」

「うん」

「朝食、ご飯がいいかパンがいいか、よくわからなかったから両方用意してもらったよ」

「すぐに着替える」


 ダイニングテーブルに着くと、メイドさんが運んできてくれたお味噌汁のいい香が

した。わかめに豆腐、なめこまで入っている。

 

「ママのお味噌汁と同じ味がする」

「シェフの中根さんが、ルナちゃんのママに連絡とって、ルナちゃんの好みを聞いてくれたみたい」

「ああ、それで」


 テーブルの上にはふわふわオムレツやブロッコリー、エビ、ゆで卵のサラダがある。小さなおにぎりも。


「うわあ、ルナの好きなものばかり」

「ただしトーストのジャムはビンごと出さないようにだって。ルナちゃん、ジャム好きなの?」


 キャッハ


「今日の入学説明会には、ぼくはついて行ってあげられないけど、執事の八木橋さんが行ってくれるから心配いらないよ」

「ひつじさん」


 ハハハッ


「白い髭で確かにそんなイメージだけど」

「羊は控えておりますよ」


 テーブルの奥の方で新聞を広げコーヒーカップを手にする白髪に白い髭をたくわえた男性が座っていた。


「おやじたちは明日帰って来るんだろう?」

「そのように伺っております」

「ワシントン郊外の施設って言っても自分のための施設に、おばあちゃんが住んでいるんだ」

「自分のための施設?」

「今度一緒に行こう。あっ、僕はもう行かなくちゃ。じゃあ、行ってきま~す」


 ルナはカップを置くと、手を振った。


「行ってらっしゃい」


「ルナさんもそろそろ行きましょうか」

「はい。カバンを取って来ます」




 八木橋の運転する車の後部座席に座り、車窓からボストンの街並みを眺めた。




「ルナちゃん、何があったか知らないけれど、てっきりうちの良雄と一緒になってくれると思っていたの」


 あまりにもミオママの表情が真剣そのものだったから、ルナの顔から笑顔が消えた。


「良雄には子供の頃から我慢ばかりさせてきたから、良雄には幸せになってほしいの。本当に好きな人と一緒になってほしいの。ルナちゃん、若いんだからいろんな経験をするのはいいことだけど、この気持ちだけは覚えておいてね」


 こちらに来る前にミオママから言われたこと。

 ヨッシーとは遊園地以来会っていなかった。

 体育大学に推薦入学し、スイミングのコーチのアルバイトに忙しいヨッシーが休みを見つけてルナを訪ねて来ても不在のことが多かった。

 






 

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