旧)第27話 互いのために
「というわけで急遽このギルドの目標は、俺を月間ナンバーワン冒険者ってやつにするってことになりました」
恒例となったウワバミ亭での朝食の席で、バルザは集まったギルメンにリディアのこれまでの状況を全て伝えた。呪いについて初めて聞かされたウォリーはとても驚いていたが、流石に神官の子、人の不幸に対しそれ以上の動揺は見せなかった。
魔術師一家に生まれた双子の方が驚きを隠せないようだった。
「そ、そんなもの対価にできるの?」
「さあ、呪いは完成したようだから、できたんでしょうね……」
目を見張るペッパに、リドは恐縮して背を丸めて答えた。
「そのタイトスって魔術師は、相当凄腕かもしれない」
と、ソットも珍しい呪いに興味津々だ。
「あの、じゃあ、個人成績で一番を狙わないといけないってことですよね」
ウォリーが本題に引き戻すと、バルザは首を傾げた。
「個人? ギルドなんとかは?」
「ギルドと個人のランキングがあるんです。ギルドならみんなで協力できますが、年単位なので、もう今年のランキングは確定してしまっていて……。個人の方は満月ごとにリセットするので、チャンスはたくさんあります。でも長年上位に君臨している猛者とかもいるので……ギルドランキングより厳しいかもしれません」
申し訳なさそうに説明を終えたウォリーに礼を言ったバルザは、改めてリドの方を向いた。
「お前、やっぱりとんでもない呪いだったな。それも自分から……」
「だってバルザが女の子と話してるところ見たことなかったんだもん! ギルメン女子とも仲悪いみたいだったし」
「バカ言うな、俺は男とだってまともに話してこなかった」
「……そっか。それは見誤ったなぁ」
二人の応酬は、双子のソットとペッパのように気が合っている。他のメンバーも笑うしかない。
「個人成績ってのは、どうやって上げるんだ?」
バルザは先ほどの続きというようにウォリーに視線を戻した。
「はい! モンスター討伐数、ダンジョン攻略ポイント、アシストポイントなどを加味して総合的に判断します。ただし先ほども申し上げましたとおり、満月ごとにリセットなので、成績の繰越はできません」
ウォリーはまるで優秀な秘書のように答えてくれた。ギルド本部職員のようだ。実家の教会で信者に対応するときの癖だろうか。
「弱い敵を倒しまくるのと、難しいダンジョンひとつ攻略するのだと、どっちが確実だろう……」
質問を次々思いつくバルザに、キレーナは感心していた。言われたことしかできなかったり、言われたことの意味が理解できず、疑問も浮かばないようでは救援隊になどなれはしない。キレーナは、バルザは頭が悪いのではなく、準備が足りないだけだと確信できた。
質問にはリドが答えていた。
「討伐数には敵のランクボーナスがあるから、強い敵ほど加点されるの。難関ダンジョンで強めの敵を倒して、ダンジョン攻略ポイントも稼ぐのが定石かな」
と言ってから、おずおずと作戦を提案した。
「姑息かもしれないけど、みんなで敵を弱らせて、バルザにとどめを刺してもらうことで討伐数を稼げないかな……」
それには全員賛成だった。
「チームだからこその手だね」
「俺たちはポイントとかいらないしな」
「そうそう!」
「助け合いましょう! 僕はご一緒できるだけで光栄です!」
バルザも頷いた。
「とっとと呪いを解くぞ」
その姿があまりにも格好良くて、リドは卒倒しそうだった。
それから六人は、どのダンジョンをどう攻略するか話し合った。そして最終的に選んだのは、因縁の『滅びた黄金遺跡』だった。一度同じメンバーで潜ったことがあるという強みがあり、強敵が無尽蔵に湧いてくるという利点もある。七日後の満月、ランキングの切り替わりを待って出発することになった。
リドには不安が二つあった。
ひとつは、女に戻ったときバルザの好みのタイプじゃなかったらというとても個人的なことで、ふたつめは神官の息子であるウォリーが、バルザが墓守だと知ったときどう思うかということだった。
(うちは典型的な農家で信心深くなかったから、その辺のことよくわからないんだよなぁ……バルザを差別してた人たちだって、なんでそうしてるのかわからなかったんじゃないかしら……)
こういうとき、リドは問題を抱えたままにできない
もちろんウォリー問題の方だ。
(バルザが可愛いって思ってくれるかは実際に会うまでわかんないし……うう、つらい。怖い……)
ウォリーとはちょうど二人で魔道具屋に行く約束をしていたので、何気ない会話の隙間に挟むことにした。
「ウォリー、ちょっと聞いてみたいことがあったんだけど」
「はい、なんでしょうか」
「私の生まれたマルダ村というところには、墓守たちが住んでいたの。私の両親は、そういうこと教えてくれなくて。墓守が神様に嫌われてるって、最近知ったの。本当なの?」
「嫌われているというか……」
ウォリーは物色していた聖水の小瓶をいじりながら考え込んだ。
「敵対しているという方が正しいかもしれないです」
「え? 神様と?」
「神様って皆さんが呼ぶのは創造神ガイアのことで、ガイア信仰ばかりが広がっているのですが……」
と、ウォリーは辺りを気にしながら小声で話した。
「実は僕は、今の状況を良くないと思ってて……」
「神官の子なのに?」
リドの驚いた顔にウォリーは、こくんと頷いた。
「ガイア信仰を広めるために国と神官は長い間、死の神ケイオス下げに徹してきたんです。ケイオスは死んだものの魂を空に、肉体を大地に返す役割を担っているのですが、それは命を生み出すことと真逆で、忌むべきことだという物語が作られました。二つの神は敵対しているってことになったんです。付随するように、ケイオスに代わって実際に死を扱う墓守は良くないものだということになりました。墓守は毎日のようにケイオスへの祈りを唱えますからね」
「なにそれ、ひどいじゃない」
「僕も歴史や神話を学ぶうちに、釈然としない気持ちになってきて……実際どんなふうに信仰されているのか気になって、それで王都を出たんです」
二人は思わずため息をついた。
「マルダ村で墓守は、みんなに無視されたり暴言吐かれたりしてた」
「それはひどい。奴隷の方がマシかもしれないです」
「どれい?」
「そうか、王都にしかない制度ですね。罪人や借金した人などが奉公するんです。厳しい仕事もあったりして危険なんですが、いつか終わりますから……」
バルザが墓守だと、勝手に伝えるのは良くないことだと思い、リドは話題を変えることにした。
「いつか王都にも行ってみたいな。きっと全然違う世界なんでしょうね」
「ええ、それはもう。僕も王都の外に出て驚きました」
ひとつ不安が解消され、リドの気持ちはほんの少し軽くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます