旧)第25話 ギルド再結成

 街に戻ったリドは、さっそくペッパとソット、キレーナにDMを送り、飛空艇には乗らなかったことを伝えた。


「バルザに行き先を伝えなかったのは、もちろん『気持ち悪い』って言われて絶交中だったからだよ」

と、意地悪く言ってみると、バルザも負けずに、

「そりゃ気持ち悪いだろ、なんだよ『成り上がらせてあげたい』って、言葉変だろ」と、やり返す。


 リドが唇を尖らせて黙っていると、バルザの方が折れた。


「俺のことを思ってくれてたのは、わかってるよ。ありがとな……」


 気恥ずかしくて声は先細ったが、リドには十分届いた。


「うん!」

と、満面の笑顔を向けられたバルザは、ぶすくれて顔を背けてしまう。


「ところで、どうやって私の居場所がわかったの?」

「双子を探して聞いたんだ。呪いのことも」

「ふーん」と、リドは腑に落ちない。


 観念してバルザは口を割った。


「お前が押し付けてくるから、アイフォも少しは使えるようになったんだよ。それで連絡できた」

「やった。私、役に立ったね!」

「お前、調子に乗りやすいな……。そうだよ、助かった」

「どういたしまして」


 リドがニヤニヤしてる間に、ソットから返事がすぐに来た。予定どおり森でウルフ種が発生するのを探して回っているというので、西の森の入り口で合流することになった。


 再会した途端、ペッパは飛びついて喜んだ。


「リド! 不安だったんだ! 呪いがうまく解けなくて、あのまま会えなくなるんじゃないかって」

「ありがとう。私も不安だったよ」

「さあさあ、皆さん、ウルフツアーへ参りましょう!」


 陽気なソットの号令で、五人は瘴気溜まりを探して森を歩き始めた。


「キレーナ、昨日『国家救援隊』の試験を受けたことがあるって言ってたけど、どんなものなの?」


 早速リドがキレーナに質問するので、バルザも身を寄せた。


「興味があるのか? あれはちょっと特殊な集団だからなぁ……まず体力検査がある。王都の後ろにそびえる『剣山つるぎやま』を登り、指定されたモンスターを倒して三日以内に戻るんだ」

「大きい山?」

「上の方は雲で見えない」キレーナはニヤリと笑った。「そのあとは知識の審査だ。モンスターや薬草や、地理や怪我の治療法、とにかくあらゆることを知っている必要がある」

「それは……大変そう……」

「全部完璧じゃなくていいんだ。なにか秀でたものがあれば、足りないところはチームで補い合えるからね。その後の実地訓練で協調性も確認される。救援隊は常にチームで動くし、弱った人を助けるから、人当たりが良くないと務まらない」


 そこまで言って、リドの不安げな視線に気づいたキレーナは微笑んだ。


「あたしが不合格だった理由は、知識がどれも中途半端だったからだ。実地訓練までいかれなかった」

「試験は毎年、二度あるだろ?」


 バルザが横から質問すると、キレーナは彼の目を見て、入隊希望がバルザであると直感した。


「そうだよ。夏至と冬至に行われる。すでに隊員になってる者も、数年に一度は試験を受けなきゃならない。体力が落ちた者や、仲間とうまくいってない者は除隊になる」

「再挑戦しなかったのはなんでだ」


 バルザの直球の質問にリドは面食らった。なにか理由があるだろうから触れない方がいいのでは、と思ったのだ。


「救援隊になろうと思ったのは、息子が一人前になって手を離れたからで、一度しか試験を受けなかったのは、その息子が死んで落ち込んだからだよ」


 キレーナは微笑んだままだった。


 リドは言葉に詰まった。何を言っても薄っぺらいように思える。


「……悪かった」


 バルザはすぐに謝罪した。


「ずいぶん昔の話だから、気にするな。ありがとう」


 バルザは初めて、自分から他人に歩み寄ろうと努力していた。そして、まだおぼつかないそのコミュニケーションを、キレーナは寛大な心で受け止めてくれていた。


 そのとき、ペッパの口笛が響いた。


「あそこに瘴気が漏れ出てる。ウルフが大量に生まれそうだ」


 それを聞いたキレーナが指示を出す。


「バルザ、せっかく来たんだ、あんたがワントップで行きな。リド、バルザの支援を。こぼれたのをあたしたちが引き受ける」


 バルザは真剣な眼差しで頷いた。


 反してリドはいまだにふにゃふにゃだった。


(かっこいいー可愛いー、頑張って団体行動してるー、バルザー)


「リド、聞いてる?」と、ソットに目の前で手を振られやっと正気に戻ったほどだ。


 ペッパの予想どおり、藪からは次々ウルフ種が現れた。


 瘴気溜まりから出現するモンスターは地形や温度など周辺環境によって種類が決まる。強いモンスターほど固有の素材を落としてくれるので、五人は敵が強く成長するのを待つこともした。


 数種類のウルフの毛皮を抱えて街へ帰ると、一級の食堂で全員が食事できるほどの金額を手に入れることができた。


「バルザ、あんた救援隊に入りたいんだろ?」


 大きな肉を切りながらキレーナが聞いてくる。バルザは小さく「ああ」とだけ答えた。


「体力検査は問題ないだろうな。戦うことにかけては才能がある」


 それを聞いて、バルザよりリドが喜んだ。


「そう思う? 私もバルザはすごい戦士になると思ってたの!」


 本人に恋心を知られてしまった今、彼に怖いものはない。隠す必要はないのだから。


 バルザが恥ずかしそうに顔をしかめたから、キレーナは笑ってしまった。


「あんた一応、いまは立派な男の子なんだから、もうちょっと落ち着きな」

「女の子だったら落ち着かなくていいの?」


 リドの率直な感想に、キレーナも「確かに」と考え込んでしまう。


「ペッパは立派な男の子だけど、落ち着いたりしないよ!」

「そうだな、お前は生まれてこのかた落ち着いたためしがない」


「……俺は」と、黙っていたバルザがやっと口を開いたので、全員口を閉じた。

「知らないことだらけだ。それを、やっと〝知りたい〟って思えるようになった……今は救援隊より、いろいろ学びたい。もしよければ、みんなに教えてほしい」


「いいよ!」と、バンザイしたペッパが立ち上がると、ソットも立ち上がって肩を組んだ。


「楽しくなるぞ! ギルド再結成だ!」

「あたしも、もちろん参加するよ」


 そう言ってキレーナがリドを見ると、彼はなぜか泣いていた。


「え、ちょっと、どうしたの」と、キレーナが驚いてその背中をさする。

「だって……みんな、優しくて……」


 四人は顔を見合わせて笑ってしまった。


「ねえ、ギルドの紹介文考えた! 『困ったことがあったらご連絡ください! 人命救助、遺失物や失踪人の捜索承ります』ってどう?」


 涙を拭ったリドが元気に提案すると、なるほど、とキレーナが指を鳴らす。


「救援隊にならなくたって、人助けはできるものね。あたしたちはランキングやポイントに興味がないからピッタリだ」


「いいね、それ、楽しそうだ!」

「落とし物を探すのも、ドラゴンを倒すのも、俺たちにとっちゃ同じことさ」


 ペッパとソットは肩を組んだまま左右に揺れて賛成した。


「バルザはどう?」


 リドが覗き込むと、バルザは驚いたように身を引いた。


「俺も、いいと思う……」


(なんか、いま、照れた? バルザ、私にドキドキしてる? やったぁ! いや、やってない! 顔も体も私じゃないじゃん!)



 

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