片思いしてる大好きな彼がギルドを追放されたので男のフリして成り上がらせます！

旧）第24話 好きだから

（二人で乗馬とか、生きた心地しないんですけど……背中広すぎない？　べったりくっつくのは変だよね？　いやいや、女の子だってわかったんだから……あり？）

　二人はバルザが天馬山に行くために手に入れた馬に跨り、丘に挟まれたなだらかな道を進んでいた。

　リドは迷ったがバルザの後ろに乗ることにした。

「しっかり掴まれよ、大丈夫か？」

「は、はい！」

「前に乗せたほうがよかったか……」

　心では「バックハグなんかされたら気絶する！」と叫びながら、「いやー、前見えなくなっちゃうよ」と、笑って答える。

「そうだな」と、バルザも笑う。

（気楽に話せてるなぁ、嬉しいなぁ、仲良しじゃーん）

　バルザから姿が見えないのをいいことに、リドは終始ヘラヘラしていた。乗馬中は姿勢を正していないといけないのにふにゃふにゃだ。

「そうだ、リディア」と、呼ばれて背筋が伸びる。「お前の両親が心配して、お前を探してるって」

「あー、そうか……そうだよね」

「言わずに来たのか」

「止められたくなかったんだもん。っていうか、バルザ、うちの親に会ったの？」

「いや、グレンが相談されたんだ」

「なんでグレンに？」

「マルダ村で困り事といったら、みんなグレンに頼むだろ？　あいつは昔から優等生だったし、親は農業管理人だし……というか、断るのが下手なんだよな、あいつ。だから俺みたいな厄介者を押し付けられたし、増えてくギルメンの頼みを全部聞いちまうし……」

　思わず余計なことを言ってしまって、バルザはため息をついた。

　思い出の中のグレンはいつも困って、疲れている。なんでも要領よくこなしているように見せていたが、顔に「面倒臭い」と書いてあった。

「優しいんだろうな……」

と、呟くと、黙って聞いていたリドに腰紐を引っ張られた。

「断れないのと、優しいのとは、違うよ。グレンが本当に優しいなら、どうしてバルザが傷ついてるの？」

　『バルザ至上主義』のリドには承服しがたい話だった。

　一理ある話ではあるが、バルザとグレンとの付き合いは十年以上で、複雑な感情や多くの事情が絡まっていてそう簡単には語りきれない。

　こんなところでする話でもないと思ったバルザは、

「一応、俺の恩人だからな」

と、釘を刺して終わりにすることにした。

　言い過ぎたと思っていたリドも、「ごめん」と素直に謝ったが、最後に伝えなくては気が済まなくて、もう一度腰紐を引っ張った。

「バルザも自分のことそんなに悪く言わないで。厄介者だなんて……」

　ほんの少し振り返ったバルザは何も答えなかったが、きちんとその言葉を受け止めていた。

「とにかく、親に連絡してやれよ」

「うん。グレンに『元気に冒険者やってましたよ』って報告してもらう！」

「お前もグレンをパシらせようとしてるじゃねーか」

　本気ではないバルザの叱責に「えへへ」とおどけて返す。

　ところでバルザにはどうしても確かめておきたいことがあった。ここまで二人の心が通い合ったのだから、聞いても怒られることはないのではないかと思うが、柄にもなく緊張して言い淀む。

「それで、グレンが、お前の部屋に入ったって……」

　バルザの緊張を背中越しにキャッチしたリドは、なんでだろう、と少し考えて、思い出して馬から落ちそうになった。

「なんで俺のポスターなんか……」

「なんでって！　そんなの！」

　真っ赤になって大声を出してしまい、馬が嫌そうに首を振る。

「はずかしい！　むり！」

　慌てて両手で頬を押さえてしまい、本当に落馬しそうになって思わずバルザの背にしがみついた。それは、いくら偶然だったと言っても信じてもらえないほど流れるような動作の見事な密着だった。

「好きだからに決まってるじゃない……」

　リドは耳まで真っ赤だ。

「……なんで」と、心底意味がわからない様子のバルザが呟く。

　バルザは自分が誰かから好かれるという状況など考えたことがなかった。

　リドも、彼の出自を知った今、その不安や疑問を理解できる。

「小さい頃、バルザが森で精霊たちと遊んでるの見たの。キラキラしてて楽しそうで、素敵だった。それで、この人だ！　って」

　バルザを一目で好きになった瞬間を思い出す。

「でも、好きになるのに理由なんかいるのかしら。なんだかいいなーって思って、ずっと見てたの。いつか仲良くなりたいなって思って……だからいいところも、悪いところも知ってるよ。今もどんどん知っていくの。イヤだなって思うところもあるけど、そういうところも可愛いかもって思っちゃって、また好きだなーって思うの」

　リドは臆面もなく話した。彼女は常に心に真っ直ぐなのだ。

　バルザの方は「嫌なところってどこだろう」という不安の種が増えてしまっていた。

「とにかく、今は一緒にいられてすごく嬉しい」

「俺が悪かった。話題を変えよう」

「変えても好きですけど……」

　バルザは照れたのか鼻で笑った。

「これからどうする。呪いを解くための生贄を探すか？」

「うーん。呪いは一旦放置でいいかも。そんなに不便してないし」

「男になっちまったんだぞ？　大変だろ」

「力強いし、背も伸びたし、馬鹿にされないし、悪くないかも！」

　それは本心だった。リディアは非力で背が低く、いくらこちらが親切にしても「若い女だ」と言ってからかってくる人もいた。

　元の姿に戻りたいし、悲しくもあったが、もう少し前向きに取り組んでみようという気持ちになっていた。

「無理してないよな」

「もちろん。無理になったら泣きつくよ」

　バルザは「そうしてくれ」と笑った。

「バルザは、どうしたい？」

　そう言われると、〝自分がどうしたいか〟いままで少しも考えてこなかったことに気がつく。どうにもならないと思って、自分のことを他人に丸投げしていたのだ。

「俺は、話すのが苦手だ。愛想もないし頭も悪いし……でも、もっと人と話してみたいって思うようになった。お前のおかげだ」

「へへ、そんな……」

「キレーナやソットやペッパと、もっと話してみたいんだ。一緒に戦ってみたい」

「じゃあ街に着いたらみんなに連絡するよ。私も精霊師としての腕を磨きたいし、ギルド再結成かな」

「それから……救援隊に入隊したい。方法も知らないけど」

　リドの声はいつでも陽気で優しくて、バルザは安心して打ち明けることができた。

「それならきっとキレーナが知ってるよ。彼女、試験を受けたことがあるらしいから」

　自分の途方も無い夢を否定することも呆れることもなく受け入れてくれたリドに、バルザは心の中で深く感謝した。

　一方のリドは、別方向に有頂天になっていた。

（新情報ゲット！　救援隊になりたかったのか！　だから、その文字だけ読めたのね！）

　バルザマニアとしては今すぐ手帳に書き留めたかったが、宿に戻るまで我慢することにした。