旧)第16話 新人救出に仲間が集結

 リドが町外れの民宿で新人冒険者ウォリーからのDM、ダイレクト・マジックメールを受け取ったのは、もう街の明かりが灯り始めた頃だった。


 バルザが帰ってくるかもしれない場所には居づらくて、彼の荷物を残して別の宿に移動したのだ。


『助けてください! 要件はお会いしてからお話しします』


「すごい一方的……」


 多少迷ったが、話を聞くだけでもと思い呼び寄せた。


 ウォリーは血相変えて走って来た。息がつけず、しばらく話ができないほどで、お互いに困ってしまった。


「新人研修をしてくれているギルドに入ったんですが、あまりにも人数が多くて、僕とアンドリは引っ込み思案なので全然ダメで……」

「急ぐんだろ? 要点は?」

「はい! アンドリが、先輩たちとダンジョンで行方不明なんです!」


「は?」と、つい大声が出てしまって、リドは頭を抱えた。「救援要請は?」 


「したんですが……出払ってて、明日の朝にならないとわからないって言われました」

「明日にならないと、助けに行かれるかもわからないの? なんてこと……どこのダンジョン?」

「『滅びた黄金遺跡』です」


 ウォリーの返答にリドは再び轟沈した。


「ごめん、俺も入れないよ、そんな高難易度のダンジョン……もう少し腕の立つ人を探さないと」

「バルザさんがいるじゃないですか! 上位ランカーギルドにいた人ですよね!」

「俺たちだけじゃ……」

「僕も頑張りますから! お願いです! 助けてください!」


(なんて頼んだらいい? 私の話なんて聞いてくれる?)


 リドは小さく唸ってから、「よし!」と決心した。


「バルザに頼んでみよう。それから何人か、バルザくらいの手練れを探すよ」

「ありがとうござうまひ!」


 ウォリーはボロボロ泣いていた。


(きっとこの子のためなら、聞いてくれる気がする……)


 それで二人はウワバミ亭へ走ってきたのだ。


 ことの次第を聞いたバルザは躊躇なく承諾した。


「どんな場所だかは知らないが、案内しろ。他に人が来るなら、俺は装備を変える」

「ありがつおあごまし……」

「泣くのは後にしてしっかり準備しろ」


 また号泣するウォリーをバルザは一喝した。


(はぁ、かっこいい……)


 うっとりとバルザを見つめていたリドの後ろから、低く通る声が響いた。


「あそこは危険だ。あたしも行くよ。槍術士、キレーナだ」


 立ち上がるとバルザと並ぶほど長身の彼女は、ボロのマントを羽織った中年女性だった。短い黒髪のせいもあって、リドは一瞬男性だと思ってしまった。


 彼女と一緒に酒を飲んでいた双子みたいな細身の青年たちもジョッキを掲げて仲間入りを告げた。


「『滅びた黄金遺跡』なんて罠だらけだ、ペッパが絶対必要だ。ペッパは腕利の鍵師だからね」


 腰の鍵をジャラリと鳴らしてバンダナ頭のペッパが笑う。どうやら自分を名前で呼ぶようだ。


「その代わり宝箱は独り占めだろ? よくねーな。俺がコイツを見張るよ。弓術師のソットだ」


 長い髪を三つ編みにし、髭をたくわえたソットが笑うと、二人はハイタッチして同時に立ち上がった。


「ペッパとソットは双子の案内人さ!」

「地図ならまかせな。今夜は特別、無料でご案内差し上げます」


 並ぶと鷲鼻がそっくりだった。まるで劇でも見ているようで、リドは目を輝かせた。


「ありがとうございます!」


 三人に礼を言うと改めて自己紹介した。


「精霊師のリドです」

「し、新人のウォリーです。あ、あのし、せ、聖学者です!」


 ウォリーが頭を下げるとソットとペッパが「おお」と反応した。


「それじゃ、神官の子か?」

「はい!」


 なにやら盛り上がりそうな雰囲気を察して、リドがバルザを肘でつく。バルザは舌打ちしてから背筋を伸ばした。


「バルザだ。俺はただの、冒険者だ」

「噂は聞いてるよ、バルザ。同行できて光栄だ」


 キレーナの言葉にバルザは「ああ」と曖昧に返事した。


「西門で集合しよう。ペッパは馬車を調達してくる!」

「できるだけ早いやつだぞ。俺は食料を調達する。深い迷宮だから長くかかるはずだ」


 鍵を鳴らしてペッパが走り出し、続いて短弓を背負ったソットが出ていった。


 リドは前衛二人に向き直る。


「バルザ、キレーナ。私たちは装備が薄いけどみんな詠唱時間はかからない。二人とも攻撃的前衛で押し上げていいと思うんだけど、どうかな」


 その提案に三人が頷く。


「バルザは盾戦士と登録してるけど、あたしはアンタの剣の腕を買ってるよ。あたしに盾は必要ないしね」

「時間がない。それでいこう」


 バルザとキレーナは装備を預けている倉庫へ走り、リドとウォリーは先に西門で待つことになった。その間にリドは詳細の聞き取りをした。


 次に到着したのは食料を抱えたソット。続いてすぐに馬車が現れると、そこにはバルザとキレーナが乗っていた。


 六人は風のように街を出発し、北西の山裾にある『滅びた黄金遺跡』へ向かった。


「中に入ったのは五人で、盾、剣、槍、魔導士、学士だって。盾戦士と魔導士が上級者で、他はほとんど新人」


 リドが揺れる馬車の中でアイフォを操作しながら状況確認をしていくと、キレーナが呆れて天を仰いだ。


「学士なんて、まだただの〝物知り〟だろ?」

「友人のアンドリです。先輩たちは『ついてきたら経験値が入るから』って……」


 ウォリーが消えそうな声で訴える。


「剣士も戦士からジョブアップしたばっかりか……あの、ところで、これ回復役は?」


 リドは行方不明者全員のステータスを確認してから、恐る恐るウォリーを見た。


「ぼ、ぼくです」


 全員が息を呑む。


 回復役の主な役目は傷や怪我を治すこと、戦闘員の気力や体力を回復させること。聖なる力で装備品を修復できるようになる人もいる。


「この難易度のダンジョンで、回復なし……」

「ごめんなさい! 途中まで一緒だったんです! でも、足を滑らせて罠が開いて、床が」

「生きてたか?」


 バルザが素早く反応する。


「もちろん全員無事でした! お前も来いって言われたのに僕、怖くて……そしたらみんなのところに敵が来て、アイフォは動かなくて、僕は外に……」


 そこでソットが身を乗り出した。


「あそこは大昔に魔術師が築いた迷宮で、罠が移動する厄介なダンジョンなんだ。魔術師はモンスターを作り出すことに成功したが、その装置を止める前に死んじまった。それで今も化け物が湧き出し続けてるんだ。その上そいつの魔力が残ってるらしく、アイフォや一部の魔術が使えない……」


 見た目の頼りなさとは裏腹に、ソットは本当にダンジョンに精通しているようだ。


「そんなの聞いたことない」と、リドは驚いた。


「あのレベルのダンジョンに行くような冒険者は、隠し要素がないと退屈するからさ……」


 そう言ってからソットは、視線を泳がせて続けた。


「つまり、迷子の連中の主力アタッカーである魔導士が、使い物になってない可能性もある」



 

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