第18話

 と言う事は、だ。

「二人して、俺をからかっていたって訳か」

「まぁ、そうなるわね」

「すまんな、少年。君の反応が面白くて、つい意地悪をしてしまった」

 あっさりと認めた二人に謝られては、もはや何も言う事は出来ない。

 そもそもこのグループの中で立場の一番弱い俺では、迂闊に文句を言う事すらできない。

「それじゃあ、結局ミーアはマチルダをどうするつもりなんだ?」

 仕方なく話を進めると、ミーアはマチルダの方へと視線を向ける。

「あなたがお金を出してくれると言うのなら、こちらとしては願ってもない提案よ。でも、ただ借りを作るつもりはないから」

「私だって、貸しを作るつもりはないさ。初期投資は、会社として軌道に乗った後でコツコツ返してもらえればそれで良い。もしもうまくいかなかった場合は、債権を放棄する誓約書を書いても良い」

「そう。……それなら、お願いするわ」

「それは良かった。いつまでも無職で居る訳にはいかなかったから、こちらとしても助かるよ」

 そう言って握手を交わす我が社のトップと新入社員。

 いや、会社の初期費用を負担してくれるんだからスポンサーにもなるのかな。

 ともかく話はまとまったみたいで、ここからは俺の口を出す領分ではない。

 会計担当はミーアだし、決定権を持つのもミーアだ。

 すっかり冷めてしまったコーヒーを飲みながら、俺は様々な話し合いを始めた二人をただ眺めるしかない。

 そうして話し合いが終わったのは、俺が追加のコーヒーをゆっくりと飲み干してしまった頃だった。

「とりあえず、お金の話はこれで終わりね」

「そうだな。ここからは、少年にも話し合いに加わってもらうぞ」

「俺も? でも、俺には難しい事は分からないよ」

 だいたいの事はミーアに任せっきりだったし、コールドマンである俺は未だにこの時代のルールの全てを把握している訳でもない。

 しかし、二人はそんな俺の心配に小さく首を振って答えた。

「大丈夫よ、そんなに難しい話じゃないから」

「会社としての役職と、艦内での役割を決めるだけだ。それと、足りない人材の把握もだな」

「なるほど、それなら俺にもできるね」

 納得して頷くと、早速ミーアが口を開いた。

「とりあえず会社としての役職はほとんど飾りみたいな物ね。社長と、それから副社長くらいで良いんじゃない?」

「社長はミーアで良いじゃないか。ちなみに私は平社員で良いよ」

 役職に興味はない様子のマチルダがそう呟き、ナゴミと俺もミーアに向けて頷く。

「……じゃあ、私が社長ね。それと、副社長はリックにお願いするわ」

「良いけど、そんなに簡単に決めて良いの?」

「簡単に決めるも何も、ここにはあなたの他にマチルダとナゴミしか居ないでしょ。それに、なんだかんだ言ってもリックは付き合いが長いから、私の事を分かってくれてるし」

 信頼してるわ、と付け加えながら微笑まれると、なんだか胸の奥が熱くなってくる気がする。

「分かった、引き受けるよ。それじゃ、次は艦内での役割を決めるんだね」

「だったら、それは私に任せてくれないか? 一応、君たちよりも艦内活動については詳しいつもりだ」

「そうね。お願いするわ」

 俺たちに異論などなく、二人同時にマチルダに向けて頷く。

「それじゃ、私の独断と偏見で役割を決めよう。艦長は少年に任せたい」

「俺が艦長? そう言うのは、社長の役目じゃないの?」

「会社としての役職と艦内での立場は、全く別物だよ。人命に関わる事は、適材適所が良いと私は思っている」

「それもそうね。そもそも艦長って結構面倒そうだから、リックに任せるわ」

 どうやらミーアは納得してしまったらしく、そうすれば俺も納得するしかない。

「どうやら分かってくれたらしいな。一応補佐として私も手伝うし、あまり堅苦しく考える必要はないよ。……それと、少年にはパイロットと雑用係も兼任してもらう。人手不足は、個々人の労力でカバーだ」

「分かった。つまり、艦長兼パイロット兼雑用係って訳だね」

「そうなるな。次にミーアだが、操舵と外渉係を頼むよ。操舵はこれまでの経験から、そして外渉は綺麗で若く聡明な君に向いているからな」

「ふふ、分かったわ」

 褒められてまんざらでもない様子のミーアは、微笑みながら頷いた。

 どうやらマチルダは、すでにミーアの扱い方を学習したらしい。

「それじゃ次はナゴミだ。君には射撃管制とレーダー管制、それとシステム管理にオペレーターもお願いしよう。ヒューマドロイドなんだから、それくらいは余裕だろ」

了解イエス、ミス・マチルダ。誠心誠意、努力します」

 スカートの裾をチョンっと摘まんで、ナゴミは小さく一礼する。

 その姿を見て、マチルダは満足そうに微笑みながら頷く。

「最後に私だが、装着装甲ドールスーツ乗り兼艦長補佐をしようと思う。それと、少しだが修理の真似事もできるぞ」

「それでも、修理スタッフは必要だよね」

「そうだな。それは足りない人材の話だ。他にも、さっきはナゴミに任せたがオペレーターとシステム管理も一人欲しい。それと、パイロットなどの戦闘要員は居て困る事はないぞ」

「それは要らないわ。私たちは、戦いに行くわけじゃないんだから。リックだって、そんなに危ない事なんてさせないから」

「過保護は良いが、それでは男は育たんぞ。たまには、危険な目に遭わせてみるもんだ」

 マチルダの言葉に、ミーアは冷たい視線を彼女に向ける。

 そのまま二人のにらみ合いが始まってしまう前に、今回の俺は先手を打つ事ができた。

「とりあえず、パイロットは必要ないんだよね。それで、修理スタッフやオペレーターに心当たりはない?」

「……システム管理の人材なら、私に知り合いがいるぞ。来てくれるかは分からんが、声を掛けてみよう」

 俺の言葉でミーアはマチルダを睨むのを止め、マチルダも口角を上げながら答える。

「なら、とりあえず必須なのは修理スタッフか。心当たりもないし、どうしよう……」

「だったら、俺を雇ってくれよ」

 掛けられた声に驚き振り返ると、そこには一人の見知った男が立っていた。

「ギルバート、どうしてここに?」

 ドナルドさんの息子で、今は彼を手伝っているはずのギルバートは、親指を立てながら満面の笑みを浮かべていた。


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