第14話
結構長い間一緒に居たはずなのに、俺にすらミーアが何を考えていたのかが分からない。
それなら、ドナルドさんやギルバードが分かるはずもない。
それくらい、ミーアという少女は時々常人では考えつかないような突飛な事を言い始めるのだ。
そうやって告げられる提案と言う名の決定事項に振り回された回数は、きっと両手の指では数えきれないだろう。
そうやって困惑する俺たちの中でナゴミだけはいつも通りだったけど、彼女の場合は分かっていようがいまいが同じような反応をするだろう。
「ねぇ、ミーア。考えって何?」
とりあえず俺が代表して質問すると、彼女は真っ直ぐに俺を見つめる。
「前にも言った事があったと思うけど、私の夢はいつか自分の会社を建てる事なの」
「うん、知ってる」
その為にコツコツ貯金している事も、節約の為にマシンのパーツや俺のお小遣いをケチっている事も良く知っている。
だけど、今どうしてそんな事を言うのかが良く分からない。
困惑を深くしていると、ミーアはまるで出来の悪い子供を見るような視線を俺に向ける。
「まだ分からないの? まったく、これだからリックは……」
そう言って深くため息をついた後にミーアが宣言したのは、俺たちの想像を遥かに超えたものだった。
「私は今までカラスだなんて呼ばれる、世間の嫌われ者な人生に甘んじてきたわ。だけどこれからは違う。もう、残飯漁りなんて呼ばせない! もう、可愛い顔してるのにもったいないなんて思われない!」
言っているうちに興奮してきたのか、ミーアの声はだんだん大きくなっていく。
そして右手は、力強く拳を握りしめている。
「私は、今ここに清掃業者『スケアクロウ・スイーパーズ』の設立を宣言するわっ!」
言葉を失う俺たちをよそに、ミーアは右の拳を天に掲げて叫ぶ。
「わーっ。ぱちぱちぱちっ」
ただ一人ナゴミだけが、そんなミーアの宣言に反応して棒読みで盛り上げようと試みていた。
結局、その行為は俺たちの沈黙を更に深くしただけだったけれど……。
いったいどこから突っ込めばいいか分からない。
かと言っていつまでも黙っている訳にもいかず、俺はミーアに向けておそるおそる手を挙げた。
「はい、リック」
そうするとミーアは、まるで学校の先生さながらに僕を指差して名前を呼ぶ。
「えっと、清掃業者ってなに?」
まずは、一番気になっている事を聞こう。
会社を設立するつもりなのはなんとなく分かるけど、それでなぜ清掃業者なのだろうか。
質問をぶつけると、ミーアは露骨な溜息と共に肩を竦める。
「なんだ、そんな事も分からないの? これだからリックは……」
「いや、たぶんこの場に居る全員が分かってないと思うよ」
助けを求めるように見渡すと、同意するような頷きが返ってくる。
そんなみんなの姿を見て溜息を深めながら、ミーアは渋々と言った様子で説明を始めた。
「まったく、しょうがないわね。私の言ってる清掃業者ってのは、なにも街のゴミ掃除をしようって言ってるんじゃないの」
「うん。それは分かってるよ」
もしそうなのだとしたら、そもそもこのタイミングで言いだすのがおかしい。
「ここで私が言うゴミってのは、宇宙に浮かぶデブリの事よ。ちょうど、このコロニーの近くにも浮かんでる奴ね」
「それをどうしようってんだ?」
「だから、それを拾って掃除するのよ。この戦艦で」
ミーアの指差す先には、いまだ外装を作業用ドローンが忙しなく動き回っているヤタガラスの姿。
確かにこれだけの大きさなら、一度に大量のデブリを拾えそうだけど。
「でも、ゴミなんて拾ってどうするんだ? あれって、カラスすら拾わない正真正銘の無価値資源だろ」
俺たちを代表して、ギルバートが首を傾げる。
そうすると、ミーアの指先はヤタガラスからギルバートの鼻先に移動した。
「そこが肝よ。その無価値資源を価値のある物に変えられれば、そこにライバル企業は居ないもの」
「でも、それが一番の問題なんじゃ?」
無価値資源は、その名の通りどんな手段を講じても無価値な物だ。
拾えば感謝はされるだろうし、場合によっては謝礼も貰えるだろうけど、コストパフォーマンスが割に合わない。
聞いた話によると、依然それをやろうとした人は貰った謝礼以上にデブリの処理費がかさんで倒産したらしい。
だとすれば、たとえ俺たちが初めても彼の二の舞だろう。
誰も手を付けていない事業と言うのは、誰も手を付けないだけの理由があるという訳だ。
「だから、別にデブリをそのまま使わなければ良いのよ」
「どういう事?」
「デブリを処理すれば、実弾くらいは作れるでしょ」
「そりゃあ作れるけど、まさか……」
いきなり話を向けられたドナルドさんが、頷いた後で納得したような表情を浮かべる。
そして、ミーアのその言葉で俺たちもやっと理解する事ができた。
「つまり嬢ちゃんは、デブリを回収して謝礼を貰いながら弾薬費を浮かせようって魂胆なのか?」
「そう言う事。それで、そのついでに他の仕事もすれば採算は十分取れるはずよ」
腰に手を当てながら胸を張ると、ミーアはさっそくドナルドさんにヤタガラスの改造の依頼を始める。
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