第13話
「はぁ、はぁ……。これで、最後……」
ドッグで借りたフロータートラックの荷台からジャンクの山を降ろし終えた俺は、息を切らしながら呟く。
「ご苦労様。少し休んでて良いわよ」
「うん。そうさせてもらうよ」
ミーアからの許可も出た事だし、荷台の上に寝転がって身体を休める事にした。
「マスター、お疲れ様です。お飲み物を用意しました」
「ありがとう……」
ゆっくりと近づいてきたナゴミから手渡された缶を見て、俺の表情が曇る。
「よりによって、人工サトウキビジュース……」
「お嫌いでしたか?」
「いや、嫌いじゃないけど……。大丈夫、ありがとう」
目を伏せて悲しそうな表情を作るナゴミに気を遣うように手を振ると、プルタブを起こして中の液体を一気に口の中に流し込む。
そうすると、ねっとりとした甘さが口いっぱいに広がり、何とも言えない風味と香りが鼻から抜ける。
普段ならともかく、疲れて喉が渇いている時にこの味は少しきつい。
それでも気合で飲みきると、空になった缶をナゴミに返す。
「美味しかったよ。これ、捨ててきてくれる?」
「
出来るだけ顔を顰めないようにしながらそう告げると、すっかり元の表情に戻ったナゴミは音もなくゴミ箱の方へと歩いていく。
どうやら、さっきの表情はただのプログラムだったらしい。
「……気を遣って、損したかな?」
とは言え、女の子を悲しませるのは好きじゃない。
例えそれが、ヒューマドロイド相手だったとしても、だ。
だからこれで良かったんだと強引に自分を納得させていると、ジャンク屋の中からミーアの怒声が響いてきた。
「ふざけるんじゃないわよっ! これだけ良質なジャンクがこんな安い訳ないでしょ! もっと良く見なさいよっ」
「ですが、これがきちんとした査定額ですから」
「ウソだわっ! こっちがカラスだからって調子に乗ってると、出るとこ出るわよ!」
「では、そうなさってください」
どうやら買い取り価格で揉めているらしい。
それでも店主は、どうせ最後は納得するしかないカラス相手だからか強気な態度だ。
だけど、今回ばかりは相手が悪かったかもね。
「分かったわ。……リック、軍に連絡して」
「えっ?」
「えっ、じゃない! 善良な市民が悪徳業者に食い物にされそうになってるんだから、取り締まってもらうのよ。リックが嫌なら、ナゴミに頼むわ」
「では、セレスナディック支部に通報しますか?」
「ええ、お願い」
ミーアが頷くのを確認した後で、ナゴミは本当に軍に向けて通信回線を繋いだ。
静まり返った空気の中に、乾いたコール音だけが響く。
「え? 本当に通報したの?」
「好きにしろって言ったのはアナタでしょう」
「そんなっ!? ……分かりました。査定し直しますから通報を止めてください」
「最初からそう言えば良いのよ。リック、軍に繋がったら適当に誤魔化しておいて」
「はぁっ!? ちょっと待ってよ!」
精子の言葉も聞かずにミーアが店の奥へと消えていくのと、コールに応答してアナウンスが聞こえてきたのはほぼ同時だった。
『こちら、宇宙連合軍セレスナディック支部です。要件をどうぞ』
「えっと、揉め事があったみたいだけどもう解決しました。スイマセンッ!」
それだけ言って素早く通信を切る。
「よろしかったのですか?」
「うん。……これからは、こういう時には本当に通報しないで」
どっと疲れが襲ってきた俺は、もう一度荷台に寝転がって空を眺める。
「こういう時とは、どういう時でしょう?」
首を傾げながら呟かれたナゴミの質問に聞こえないふりをしながら、俺はゆっくりと目を瞑った。
────
「よぉ、帰ったか? とりあえずの点検は終わったぜ」
ドッグに戻ると、ドナルドさんは待ち構えていたように俺たちに声をかける。
「それで、どうでした?」
「どうもこうも、この戦艦はロストテクノロジーの塊みたいな代物だ。中に搭載されてる戦闘艇もアンティークで、その筋のマニアに売れば新型輸送艦を買ってお釣りがくる。……お前ら、本当にどこから拾ってきやがった」
その視線は、暗にどこかから盗んできたんじゃないかと疑っていた。
「いつものジャンクステーションに流れ着いて来てたのよ」
そんな視線の意味に気付かず、予定よりもジャンクが高く売れて最高に機嫌の良いミーアが明るく答える。
そんなミーアの様子を注意深く観察していたドナルドさんだったけど、しばらくして納得した様に小さく頷いた。
「そうか。まぁ、そんな事もあるだろうな。普通はないだろうが、そう言う事があったんだろう」
まだ半分以上疑っているような言い方だが、どうやら盗んでいないと判断してくれたようでホッと一安心する。
いくら懐の広いドナルドさんでも、たぶんこれだけの高級品を盗んできた奴を許しはしないだろう。
まぁ、最悪の場合には通報されてもクレイヴ大佐に話を繋げば良いのだけど。
「……それで、どうするんだ?」
「どうって?」
「この戦艦を修理して使うのか、それともこのまま売っ払うのかって話だよ」
つらつらとそんな事を考えていたからか、ドナルドさんの質問の意味が分からない。
そんな俺に対して少しだけイラついたようにドナルドさんが丁寧に質問すると、未だに機嫌の良いミーアは平然と答える。
「売る? そんな訳ないじゃない」
まるで当然と言ったような口調に、今度はドナルドさんが目を丸くする番だ。
「だったら、どうするんだよ? まさか、カラスの仕事にこんな馬鹿デカい戦艦を使うなんて言うんじゃねェだろうな」
ドナルドさんの問いを、ミーアは指を揺らしながら否定する。
「ちっちっちっ、舐めてもらっちゃ困るわ。……私に考えがあるの」
ミーアがそう言うと、この場に居る全員の表情が困惑に包まれた。
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