第12話
『戦艦? そりゃあ直せるけど、それがどうした? まさか、戦艦を持ち込もうってんじゃないよな』
「そのまさかです。今から2時間後くらいに行きますけど、大丈夫ですか?」
そう告げると、ウィンドウの中でドナルドさんはポカンと口を開けている。
『お前ら、ついに戦艦なんて買いやがったのか。修理が必要って事は、中古だな』
「買いませんよ。ドナルドさんだって、家の財布の紐が固いのは良く知ってるでしょ」
『だから驚いてるんだろう。……買ってないって事は、どっかから盗んできたのか?』
「もっとないですよ。拾ったんです」
『拾ったぁ? ウソつくんじゃねぇよ』
「ウソじゃないって証明してみますよ。じゃあ、2時間後に行きますから」
『おお、待ってるぜ。ホントに戦艦を持って来たら、修理代をまけてやるよ』
「その言葉、忘れないでくださいね」
豪快に笑うドナルドさんに向けてニヤッと笑いながら、俺は通信を切る。
「聞いた? 修理費をまけてくれるって」
「ええ、聞いたわ。お手柄よ」
振り向いてミーアに問いかけると、彼女は操舵パネルを操作しながらこちらに向けて親指を立てた。
「good jobです。マスター」
そんな彼女を真似るように、ナゴミも無駄に良い発音で俺に向かって親指を立てた。
「なんか、発音が良すぎて腹立つな」
「すいません。言語機能を改悪します」
「そこまでしなくて良いって。ミーアも、笑ってないで止めてよ」
結局俺は、ドナルドさんのドッグに着くまでナゴミを説得し続ける事になってしまった。
────
「ホントに持ってきやがった。マジでどうしたんだよ?」
「だから拾ったって言ってるでしょ。そんな事より、約束通り修理費はまけてよね」
「しょうがねぇな。まぁ、男に二言はねぇぜ」
腰に手を当てながら微笑むミーアに苦笑を浮かべながらも、ドナルドさんもなんだか楽しそうだ。
「それにしても、戦艦を手入れするなんて何年振りだ? 最近は、湿気た仕事ばっかでほとほと嫌気がさしてたんだ。無茶な依頼を持ってくるのなんて、嬢ちゃんくらいだぜ」
そう言ってニヤリと笑ったドナルドさんは、その視線をナゴミの方へと向ける。
「そんで、このヒューマドロイドの嬢ちゃんはどうしたんだ?」
「この艦の中で眠ってたんです。起動したら、所有者認定されちゃって」
「ナゴミと申します。以後、よろしくお願いします」
「おう。壊れたら、いつでも修理してやるぜ」
深々と頭を下げるナゴミに、ドナルドさんは豪快に笑いかける。
「いや、ヒューマドロイドって専門家以外は修理しちゃダメでしょ」
「固い事言うんじゃねぇよ。ドナルドさんは、人間関係以外は何でも直せるんだぜ」
「マシンは専門外って、ついさっき言ってたじゃないですか……」
呆れた口調で突っ込んでも、ドナルドさんは堪えた様子はない。
と言うか、すでに興味は戦艦の方へと移ってしまっていた。
「それにしても、でけぇ戦艦だなぁ。セドリック級か?」
「軍の人もそう言ってました」
「なんだ。もう軍に行ってきたのか?」
「当たり前でしょう。申請しないと、修理にも出せないわ」
「俺の所には、申請前に修理に持ってくる奴が山ほど居るけどな」
「それは、違法行為でしょう」
「通報しますか?」
「いや、しなくて良い。今後、俺かミーアが指示するまで勝手に通報はしない事」
「
今にも軍の回線につなごうとしているナゴミを止めていると、ドナルドさんがこっちを見て笑っていた。
「なんだ。その嬢ちゃんは融通が利かねェのか?」
「笑い事じゃないでしょう」
もう少しで自分が通報されかけたって言うのに、なんとも呑気なものだ。
「ねぇ、無駄話は良いから早く始めてくれない」
さっきから我関せずと言った様子で腕を組んで立っていたミーアだったけど、ついに我慢の限界を迎えたのかイライラした口調でドナルドさんを急かす。
トントンとつま先で地面を叩いているし、かなりイラついているようだ。
「おっと、嬢ちゃんが怒っちまったか。じゃあ、ぼちぼち始めるとするか」
茶化すように肩を竦めながら、ドナルドさんは戦艦に向かってゆっくりと歩いていく。
「おいっ! さっさと来ねぇかっ、このドラ息子がっ!」
「分かったって。もうちょっと待ってくれよ」
途中で奥に声をかけると、若い男の声が聞こえてきた。
そして数秒後、慌てた様子で奥から現れたのは作業着を着た若い男。
「おう、ミーアにリック。それと、初めましてのお嬢ちゃんも居るな」
「やぁ、ギルバート。相変わらずだね」
「本当に、あの親父は怒りっぽくて駄目だぜ」
少し寝癖の付いた頭を掻きながら欠伸をするギルバートは、そう言ってこっそりとドナルドさんを指差す。
「いつかここを出てって働こうと思ってるんだけど、なかなか俺の才能を認めてくれる会社がなくてなぁ」
「オラッ! 無駄話をしてる暇があったら、さっさと工具一式持ってきやがれっ!」
「はいよーっ! じゃあ、また後でな」
ドナルドさんの怒鳴り声に明るく答えたギルバートは、俺に向かってウィンクしながら戦艦の方へと走って行った。
「本当に、相変わらずだね」
「腕は確かなんだけど、お調子者なところが玉に瑕よね」
ドナルドさんの拳骨を喰らって蹲るギルバートを眺めながら、俺たちは顔を見合わせてお互いに苦笑を浮かべる。
「さて、待ってる間に拾ったジャンクを売りに行きましょうか」
「そうだね。ナゴミに街の事を覚えてもらわなきゃ駄目だし」
「構造であれば、地図データで把握しておりますが」
「そう言うのじゃなくて、データでは分からない細かい事を教えてあげるわ」
そう言ってミーアは、ナゴミの手を取って走り出す。
「ちょっと、待ってよ! もしかして、ジャンクって俺が運ぶの?」
そう叫んだ時には、すでに二人の姿は見えなくなってしまっていた。
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