第11話

「自律成長型?」

「はい。物事を記憶、演算したのちに自らの経験へと変換いたします」

「それじゃあ、人間と変わらないのね」

「マスター。私は人間ではなくヒューマドロイドです」

「分かってるわよ。ちょっとした比喩じゃない」

「なるほど。学習しました。ご教授ありがとうございます、マスター」

 納得した様に頷いた少女は、ミーアを見て深く頭を下げる。

 その姿に、ミーアはなんだか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。

「そのマスターって言うの、止めてくれない?」

「では、なんとお呼びすれば?」

「ミーアで良いわ」

「では、今後はそう呼びます。ミス・ミーア」

 そう答えた後で、少女は俺の方へと視線を向ける。

「あなたは、なんとお呼びすれば?」

「ああ、リックはマスターで良いんじゃない?」

 少女がそう尋ねると、俺よりも先にミーアが答えてしまう。

「ミーア、勝手に決めないでくれよ」

「良いじゃない。男って、可愛い女の子にマスターとか呼ばれるの好きでしょ」

「それは酷い偏見だ……」

 とは言え、的を射ているからあまり強く否定はできない。

「では、末永くよろしくお願いします。マスター」

「よろしく。えっと……」

「NaG-03です、マスター」

「ああ、そうだったね」

 とは言え、型番じゃあ呼びにくい事この上ない。

 それはミーアも同じだったようで、カプセルに書かれた型番の表記を眺めた後で俺に視線を向ける。

「いつまでもNaG-03じゃ呼びにくいから、名前を決めましょう」

「良いけど、そうやって提案するって事はもう決まってるんだろう」

 そもそも、俺にそう言った決定権はない。

 だいたいミーアが独断と偏見で決めるのだ。

 予想通り、ミーアは力強く頷いて瞳を輝かせる。

「実はそうなのよ。ナゴミって、どうかしら?」

「NaG-03だからナゴミ? 安直だなぁ」

「ですが、気に入りました」

「ほら、ナゴミもこう言ってるんだから決定よ。改めてよろしくね、ナゴミ」

「はい。ミス・ミーア」

 そう言って、少女たちは笑い合う。

 その空気になんだか入り辛くて遠目で二人を眺めていると、ナゴミが俺の様子に気が付いて首を傾げる。

「マスター、どうしました?」

「いや、何でもないよ。気にしないで。……あっ」

 そんな彼女に手を振って答えると、俺は腕に装着したデバイスを確認して声を上げる。

「ミーア、そろそろ軍施設に着きそうだから、ブリッジに帰らないと」

「いけない、そうだった」

 俺の言葉にミーアは慌てて部屋を飛び出して行く。

 俺もその後を追おうとして、ポツンと立ち尽くすナゴミの姿に気付いた。

「ナゴミもおいで」

了解イエス、マスター」

 そうして俺は、ナゴミを連れてブリッジへと走って行った。


 ────

「それにしても、良かったね。ナゴミの登録もいっぺんにできたんだから」

「そうね。もう一度役所に行かなきゃいけないかと思ったけど、あの大佐って見た目に似合わず優秀みたい」

「それは失礼だよ」

 そう言って笑い合う俺たちを見て、ナゴミは小さく首を傾げている。

「見た目と優秀さに、因果関係があるのでしょうか?」

「えっと、ほら。顔や仕草を見れば、なんとなく仕事ができそうだとか予想できるんだよ」

「なるほど。では、マスターは仕事ができそうな見た目なのですか?」

「リックは駄目そうね。まぁ、できなくはないけど」

「そう言うミーアはどうなんだよ?」

「私は見た目からして仕事ができそうだし、実際に仕事ができるわ」

 そう言ってふんぞり返るミーアに、俺はため息を返す。

「まぁ、そう言うのは長い時間をかけて感覚として身に着けるものだから、あんまり気にしないで良いよ」

「お気遣い感謝です、マスター」

 頭を下げるナゴミを確認した後で、俺は再びミーアに視線を戻した。

「それで、これからどうする?」

「そうねぇ……。とりあえずこの船を整備に出しましょう。体当たりで壁を壊したし、攻撃されていないとしてもどこか故障してるかもしれないし」

「自己診断プログラムを走らせてみてはどうでしょうか?」

「あら、詳しいわね」

「はい。艦の情報は、あらかじめインプットされています」

「じゃあ、それをやってくれるかしら?」

了解イエス、ミス・ミーア」

 頷いてナゴミがパネルを操作すると、自己診断プログラムが作動する。

『診断中……。この動作には、数分間の時間が必要です』

「だ、そうです」

「それじゃ、結果が出たら教えて。それと、リックは広域通信を開いてドナルドさんのドッグに予約を入れて」

「分かった。予約の時間は?」

「今から2時間後くらい」

 そう言ってミーアは、操舵に集中し始めてしまった。

「2時間後って、予約が開いてるかな?」

 そんな心配をしながらも、俺は広域通信を飛ばして反応を待った。

『あいよ、ドナルドさんの修理ドッグだ。今日は修理の依頼かい?』

「ええ、そうです」

『なんだ、リックか。お前ん所のエルニエルは、この間定期点検したばかりだろ。もう壊したのか?』

「エルニエルは大丈夫です。あっ、もしかしたら壊れてるかもしれないですけど、今日はそれじゃないです」

『だったらなんだ? マシンの方か? そっちは俺の専門外だから、ちゃんとした業者に頼むかお嬢ちゃんに直してもらえよ』

「いや、マシンでもないです。……ドナルドさんって、戦艦は直せましたっけ?」


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