第10話
「それでは、今後は敵性ジャンクに襲われても無理に応戦などしようとしない事だ」
「分かってます。もうあんな事はこりごりですから」
「まぁ、進んで戦いたがる奴などほとんど居ないさ。せいぜい、
がはは、と豪快に笑うクレイヴ大佐に頭を下げると、俺たちは軍施設にある一室を後にした。
「もっと注意されるかと思ったけど、あんまり怒られなかったね」
「私たちを厳しく注意して、軍の落ち度を指摘されるのが嫌だったんじゃない?」
すれ違う軍関係者をニヤニヤした顔で眺めながら、ミーアは明るくそう答える。
と言うか、さっきからにやけてばかりだ。
「もうちょっと表情を引き締めないと、おかしな奴だと思われるよ」
「失礼ね。……でも、そうかも」
一度は怒ったものの、自覚はあるのかミーアは両手で頬を押さえる。
「だけど、にやけるなって方が無理な話よ。だってあんなに良い物を拾っちゃったんだもん」
「確かに、あれだけの戦艦なのに誰も捜索願を出してないなんて珍しいね」
「きっと、要らなくなったから放棄したのよ。もしくは、持ち主ごと亡くなっちゃったのかもしれないけど」
「その可能性が高いよね。だったら、化けて出るかも」
「何を非科学的な事を言ってるのよ。幽霊なんて、この世に居る訳ないでしょ」
「そうだね。みんなあの世に行ってるんだから」
「何それ、つまんない……」
そうやって馬鹿な事を話していると、俺たちはあっという間にヤタガラスの所まで戻ってきた。
「そう言えば、これ何処に留めるの? レンタルポート?」
「そうね。しばらくはそうするしかないけど、レンタル料って割高なのよね」
僕の質問にミーアは立ち止まり、腕を組んで悩みだした。
こうなると長いんだよなぁ。
「思い切ってプライベートポートを買う? でも、初期投資にしては大きい買い物よね。いや、でも……」
「俺、先に行ってるよ」
ブツブツと何かを呟いては首をひねるミーアを置いて、俺はさっさとヤタガラスの中に入っていく。
そして長い廊下を歩いていると、後ろからミーアが物凄い勢いで追いかけてきた。
「ちょっと、なんで置いてくのよっ!」
「だって、ああやって悩みだすと長くなるじゃないか」
「だからって、黙って行く事ないでしょっ」
「ちゃんと声はかけたって」
後ろから背中を叩かれてよろけながら二人で歩いていると、ブリッジに辿り着いた。
「お帰りなさい。マスター」
「ああ、うん。ただいま……」
そこで待っていた少女は、俺たちの姿を見つけると身体を傾けながら微笑む。
「ナゴミ、ヤタガラスの発進準備は?」
「すでに整っております」
「じゃあ、出発しましょうか」
「了解、ミス・ミーア」
すでに慣れたのかテキパキと少女に指示を出すミーアを見ながら、やる事のない俺はぼんやりと一時間ほど前の事を思い出していた。
────
「ねぇ、どう思う?」
「どう思うって、とりあえず何とかしないと」
目の前でカプセルに入って眠る少女を眺めながら、俺たちはお互いに顔を見合わせる。
「て言うか、これって人間なのかな?」
「たぶん違う。かなり精巧に作られてるけど、この子はヒューマドロイドよ」
おでこを付けるような距離からカプセルを覗き込むミーアは、俺の質問にはっきりと答える。
「ヒューマドロイドって、ロボットだよね」
「まぁ、正確には違うけどその認識で良いと思うわ」
少し前に聞かされたヒューマドロイドの意味を思い出しながら更に尋ねると、そんな答えが返ってきた。
ヒューマドロイド。
人間の代わりに危険な業務に従事させるために造り出された機械の一種。
限りなく人間に近づけて作られた彼らは、その親しみやすさからか社会に溶け込むように存在している。
姿かたちは、かなりメカメカしいものから人工皮膚を搭載した人間と見分けのつかないものまで多種多様だが、彼らには様々な権利が与えられている。
もう、ほとんど人造人間のようなものだ。
そして、目の前で眠る少女もそんなヒューマドロイドの一人らしい。
「まぁ、いつまでもこうやって眺めててもしょうがないし、起動してみましょうか」
「できるの?」
「リックって、時々私の事を舐めてるわよね。ヒューマドロイドなんて、スイッチ一つで勝手に起動するわよ」
そう言ってミーアは、カプセルに備え付けられているスイッチの一つを無造作に押した。
プシュッ!
そうすると、小さく空気の抜ける音と共にゆっくりとカプセルが開いていく。
そして数十秒でカプセルが開き終えると、少女のまぶたがパチッと開いた。
「起動しました。内部データ確認……、完了。データに著しい破損を確認。記憶回路を初期化します……」
彼女の口からそんな言葉が零れ、瞳の中で何かが小さく光り始める。
「破損部分の初期化、完了しました。おはようございます」
「おはよう。良く眠れた?」
「ええ、ぐっすりです。……お二人は、私の所有者でしょうか?」
「まぁ、そうなるのかな?」
俺たちの顔を交互に見ながら尋ねる少女に答えると、彼女はすくっと立ち上がる。
「では、改めてご挨拶を。私は自律成長型ヒューマドロイド、NaG-03と申します」
そう言って深々と頭を下げる少女は、確かに人間とはどこか違う気がした。
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