第8話
「やっぱり、単細胞にはこの手が一番良く効くな」
挑発を繰り返しながら逃げ回るだけ逃げ回り、その裏で相手を一本の射線上におびき寄せる。
それと同時にわざと隙を見せた俺に対して放たれた必殺の一撃を逆に利用して、相手に同士討ちを仕向ける。
普段からまともな装備を持っていない俺たちにとって、この戦法は実に省エネでお気に入りだった。
もともとはカラス同士のいざこざの時に良く使っていた手だが、どうやら敵性ジャンクにも有効だったみたいだ。
と言う事は、あの|単細胞<同業者>たちは敵性ジャンクレベルの思考力しかないということになる。
「そんなのばっかだから、いつまで経ってもカラスは馬鹿にされ続けるんだよなぁ……」
異常なまでの明るさの光に目を細めながら、俺はしみじみと呟いた。
と、ここで俺の身体よりも先に戦闘艇も悲鳴を上げる。
コクピット内に警報が鳴り響き、ウィンドウには『慣性吸収臨界』の文字。
どうやら、無茶をさせ過ぎたらしい。
ラジエーターがフル稼働して排熱を行っているみたいだけど、それでもしばらくはまともに飛ぶことも難しいだろう。
エンジンが焼き切れてしまわなかっただけ、幸運だったと思っておこう。
「っと、そんなことより早くミーアに合流しないと……」
戦闘の終わった安心感で弛緩した身体に鞭を打ってレバーを倒すと、のろのろとした動きで戦闘艇は動き出す。
そしてその次の瞬間、真横をいくつものビームの束が通り過ぎていった。
「んなっ!?」
慌てて頭上を確認すると、そこにはボロボロに何ながら砲身をこちらに向ける敵性ジャンクたちの姿があった。
「あんな状態で、まだ動けるのかよ……」
すでにほとんどの機能は死んでいるにも関わらず、異常なまでの執着心で俺に照準を向けるジャンク。
レーザーの砲身は発射直前の微かな淡い光を帯びていて、コックピットには危険を知らせるアラートが絶えず鳴り響いている。
そのもはや狂気すら感じられる彼らの執念に、俺は身体の震えと共に微かな畏怖を覚えた。
アイツらは、そこまでして人間を殺さないといけないのか?
やがて訪れる死の予感からフル回転する頭脳は、空回りを繰り返しながらゆっくりとした時間を俺に与える。
まるで時間そのものが遅くなってしまったみたいに、世界の全てがゆっくりと動いている。
それは死刑執行の、そのほんの少しの猶予のようで……。
少しずつ輝きを増していく頭上の砲身を眺めながら、俺はただぼんやりと目を見開くしかなかった。
そして、閃光が俺の視界を激しく包んだ。
────
「……あれ? 生きて、る?」
最初に感じたのは、焼けるような目の痛みだった。
網膜に張り付いた光はなかなか消えず、視界はまるで真っ白いカーテンを掛けられたみたいだ。
それでもしばらくすると、だんだんと視界に景色が戻ってくる。
それと同時に、あの瞬間に何が起こったのかが少しだけ分かってきた。
まず目の前。
今にも俺を焼き尽くそうと砲身を輝かせていたジャンクたちは、その全てが跡形もなく焼き尽くされて極小のデブリへと姿を変えていた。
焼け残った部品も、もう再利用など到底できないだろう。
そして、コックピットに備え付けられたレーダー。
そこには、アンノウンと表示された艦隊が表示されていた。
「だけど、あんな規模のフォトンキャノンを持っている艦隊なんて、軍に決まってるよなぁ」
その証拠に、少し離れた場所では残党を警戒する戦闘艇が飛び回っている。
あれは軍仕様の戦闘艇、
「リック、無事っ!?」
その華麗な飛行に見惚れていると、通信ウィンドウからミーアの声が聞こえてくる。
ほんの少ししか離れていなかったのに、なんだか懐かしい気分だ。
「ああ、無事だよ。軍が来てくれて助かった」
遠くから近づいてくるヤタガラスを眺めながら答えると、ウィンドウに別の通信が割り込んできた。
そうするとミーアの顔は小さく画面の端に収まり、代わりに映し出されたのは強面の軍人の顔だった。
その表情は、とても友好的とは思えない。
「不明機に告ぐ。貴殿の所属を述べよ」
その言葉は、どうやら俺に向けられている。
その証拠に、声が聞こえていないミーアは何の反応も示さない。
「所属って言っても、分かりません。この戦闘艇は拾い物ですから」
「拾い物? と言う事は、お前はジャンク屋か?」
「はい。そうです」
軍人独特の言い回しに、俺は少しだけ表情を緩める。
軍の関係者は、決して俺たちの事をカラスと呼ばない。
だからこそ、この通信の相手が間違いなく軍人である確証にもなるのだ。
「ならば、申し訳ないが貴殿の身柄はこちらで預からせてもらう。その戦闘艇の操舵システムをこちらに……」
「あぁ、ちょっと待ってください。知り合いが戦艦に乗ってるから、そっちに合流しても良いですか?」
「戦艦と言うのは、向こうの不明艦か?」
「はい。あれも拾い物なんです」
「了解した。ではそれもこちらで行おう。操舵システムを移譲してくれ」
「分かりました」
素直に頷いて操舵システムを移譲すると、自動操舵の文字が表示されると共に戦闘艇がゆっくりと動き始める。
「これは楽だな……」
聞かれないように小さく呟きながら、俺は疲れた身体をシートにゆっくりと預けた。
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