第7話
「リック、居る?」
「もちろん。通信をしてきたって事は、発進準備が整ったのか?」
「ええ、いつでも出られるわ。どうする?」
「どうするって、出るしかないだろ」
「だけど、外には敵性ジャンクがうじゃうじゃ居るわよ」
「それでも、いつまでもここに居たっていつかはアイツらが来る。だったら、こっちから出て行こう」
「……そうね。それに、この艦の性能なら振り切れると思うし」
「そうそう、前向きに考えなきゃ。だけど、いつでも俺が出られるようにだけはしておいてくれよ」
「任せておいて。発進準備の傍ら、だいたいの機能は把握しておいたから」
「さすがミーアだ。それじゃ、発進シークエンスはよろしく」
「了解。じゃあ、ヤタガラスのエンジンを始動するわ」
ミーアがそう言った途端、ゴウンッという微かな音と共にゆっくりと身体に慣性がかかる。
「出口は体当たりで開けるから、衝撃に注意して」
「はっ? ちょっと待て、聞いてないぞ」
「今言ったわ。黙ってないと舌噛むわよ」
通信ウィンドウの中でミーアが身構えるのと、まるで吹き飛ばされそうな衝撃が俺を襲うのはほぼ同時だった。
「ングッ!?」
辛うじて舌を噛まずに済んだけど、風防のガラスで頭を強かに打ち付けた俺は小さく唸る。
なんだか、さっきから唸ってばかりだ。
「……ふぅ、大丈夫だった?」
「なんとか……」
ミーアの問いかけにも、そう答えるのがやっとだった。
「大丈夫なら良いわ。それじゃ、外に出るから。……キャアッ!?」
「ミーア、どうしたっ!?」
尋ねても返事はなく、その代わりに送られてきたのは外の光景だった。
「そんな。敵性ジャンクがこんなに……」
そこに映し出されたのは、建造物に張り付く大量の機械の化け物たち。
火花を散らしながら建造物の壁を削り壊し、それを取り込んで大きくなっていく敵性ジャンクの姿だった。
「ミーアッ! エンジンを全開にして逃げろっ!」
「でも、エルニエルが……」
ミーアのその言葉と共に、画面の中にエルニエルの姿が映り込む。
辛うじて無事のようだが、もういつ取り込まれてもおかしくはない。
「クソッ! ……ミーア、俺を出してくれ」
「えっ?」
「俺がアイツらを引きつけてる間に、エルニエルを回収してくれ」
「でも……」
「早くしろッ!」
俺が怒鳴ると、ミーアは身体を震わせながら頷いた。
「わ、分かった……。無茶はしないで」
その言葉に力強く頷きながら、俺は通信ウィンドウを消す。
通信を切った後、俺は両手を膝の上に置いて一度だけゆっくりと深呼吸をする。
「……よし、覚悟は決まった」
敵性ジャンク相手に勝つ必要はない。
ただ、負けなければ良いだけだ。
負けられない戦いなら、今までだって何度もあった。
「今度も、負けなければ良いだけの話だ」
目を閉じて俯き、再び目を開けた時には目の前に光の道ができる。
『発進シークエンス認証。カウントダウン、ティマイナス。9、8、7……』
「大丈夫。大丈夫だ」
小さく呟き、鼓動を抑える。
『6、5、4……』
汗ばむ手のひらをズボンで拭い、震える両手で操縦桿を握る。
『3、2、1……。発進』
まるでシートに縫い付けられるような強烈なGを身体中に受け、耳鳴りのする中で俺は宇宙空間へと放り出される。
その瞬間、眼前に迫ってきたジャンクを慌てて避けると、俺は小さく旋回して戦闘艇の姿勢を整える。
「……行くぞ」
一気に操縦桿を倒し、全速力でエルニエルに迫っている敵性ジャンクに接近する。
そしてトリガを引くと、小さな衝撃の後に音もなく一筋の光を放つ。
戦闘艇から光が放たれた一瞬の後、閃光に包まれたジャンクはゆっくりと爆発した。
「よし、戦える……」
急旋回の慣性を吸収装置で受け止めながら、俺は周りに視線を巡らせる。
仲間がやられたというのに、他のジャンクたちは思い思いに行動しているばかり。
どうやら、思考回路なんかはないらしい。
あるいは、脆弱なのか。
「どっちにしても、まずはこいつらを引きつけないと」
レバーを倒し、戦闘艇の速力を上げる。
まるでアクロバット飛行をするように船尾を振りながら、手当たり次第にチャフを撒く。
そうしてジャンクの近くを飛び去り、時々思い出したようにビームを放つ。
「ほらっ! ついて来い!」
そうやってデブリの間を飛び回っていると、だんだんジャンクたちが俺の後ろに集まり始める。
どうやら俺の存在に気付いたようで、その数は倍ゲームで増えていく。
「ちょっとやりすぎたかな? ともかく、これでエルニエルを回収できるはずだ」
レーダーを確認すれば、エルニエルに向かって静かに急ぐ光点がひとつ。
識別信号は、明らかに味方を示していた。
「どうやら、ミーアはちゃんと向かってるみたいだな。だったら俺は、できるだけこいつらを惹きつけ続ければ……」
ゴウッ!
一瞬の轟音の後、俺の隣を焼け付くような熱量が通り過ぎていく。
「ウソだろ。撃ってきやがった……」
慌てて回避行動を取ると、さっきまで俺の居た場所に向かって大量のビームが注ぎ込まれる。
「あんな兵装、いったいどこで拾ってきたんだよっ!」
この辺りのジャンクに、これほど良質な物は残っていないはずだ。
だとすればコイツらは、もっと遠くから来たって事になる。
「わざわざご苦労な事で。だけど、当たらなけりゃ、意味がないぜ」
船尾を180度回転させて振り向くと、俺はエンジンを全開にしながらジャンクへと突っ込む。
目の前からビームが次々と飛んでくるけど、一つ一つの質量が小さく隙間だらけだ。
あっという間にジャンクたちの中心にたどり着いた俺は、慣性を無視して急停止した。
そして停止する事、数瞬。
一気に真下へと下降するのと、ジャンクの放ったビームが頭上で交差するのはほぼ同時だった。
そして次の瞬間、真空の宇宙空間にも関わらず衝撃や音が聞こえてきそうなほどの閃光が弾けた。
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