第4話
「はぁ、本当に貴方の趣味は共感できないわ」
「俺だって、ミーアの趣味には共感できないよ。君の趣味って、貯金だろ」
「あれは趣味じゃなくて野望よ。いつか、自分のためたお金で会社を立てるのが私の夢なんだから。まぁ、その時はまた従業員として雇ってあげる」
「それはそれは、ありがとう」
軽口を叩き合いながら書類をかき集めていると、すぐに資料だけで両手いっぱいになってしまう。
そうやって資料を抱きかかえている俺を見て、ミーアは眉をひそめながら口を開いた。
「まとまってる書類は、ちゃんとまとめたまま拾ってこの中に入れて。後で改めて並べ替えるのは面倒なんだから」
「分かってるって。いつも口を酸っぱくして言われてるから、もう覚えたよ」
最初の頃なんかは、その整理のために二日も徹夜させられたものだ。
そう答えながら、差し出された収納ポッドに書類を入れる。
そうやっていろいろな物を拾いながら進んでいくと、やがて格納庫と書かれた扉が俺たちの前に現れた。
「格納庫って事は、パーツなんかが残ってるはず。行きましょうっ」
さっきまでとは違い、ワクワクとした様子でミーアは扉を開ける。
そこには、ガランとした広いスペースが広がっている。
「あれ? 何もない?」
「そんな事ある訳ないわ。きっと、何処かにしまってあるはずよ!」
慌てたように格納庫の中に入っていくミーアを見て苦笑を浮かべながら、俺もその後ろに続く。
「……本当に何もないわね。おかしいなぁ」
そもそも棚なんて一つもない格納庫に、パーツを隠しておける場所なんてない。
「ここを放棄する時に、全部持っていったんじゃない?」
「それにしたって、普通は壊れたパーツの一つや二つはあるんじゃない? 何もないなんておかしいわ」
「だとしたら、いったい何処に……。あっ」
腕を組んで首をひねると、視界の先に映った物に小さく声を上げる。
「どうしたの?」
「なるほど、そう言う事か」
ミーアの質問に答える事なく、俺は一人で納得したように頷く。
「ちょっと、私にも教えなさいよっ!」
「イテッ!?」
そうして居ると、ミーアに思いっきり頭をはたかれた。
「……なにも、叩く事はないだろ」
「ちゃんと質問に答えないからよ。それで、何がそう言う事なの?」
「あれだよ、あれ」
俺が頭上を指差すと、それに合わせてミーアの視線も上へと向かう。
「あっ!」
「分かっただろ」
ミーアの視線を追うように俺も頭上を眺めながら、にやりと笑う。
「パーツは、きっとあの中だ」
そこには、巨大な戦艦が空中に固定されていた。
────
「中は立派ね。まるで、新造艦みたい」
「でも所々は旧式だ。それに、外の武装だって今の時代に実弾兵装ばかりだよ」
見つけた戦艦の中に入ると、そこは広く立派な代物だった。
システムこそ停止しているけど、よほど管理が行き届いていたのか廊下には埃一つ落ちていない。
まぁ、重力システムが落ちているんだから当然と言えば当然なんだけど。
「それにしても、見た事のない文字が書いてあるし、どこに所属してた戦艦かしら?」
「さぁ? でも、この艦だったらかなり高く売れるんじゃない?」
「そうね。この艦が、軍の捜索対象じゃなければの話だけど」
船を拾った時には、それに捜索願が届いていないかを調べなければならない。
もしも誰かの所有物だった場合は、勝手にそれを売却すれば罪に問われてしまう。
「それでも、軍の持ち物だったなら謝礼くらい貰えるんじゃない?」
「ええ、確かに貰えるわ。雀の涙程度だけど」
「そうならない事を願おう」
捜索願の事は後で調べるとして、俺たちは艦内を歩き回る。
と言っても、ほとんどが空き部屋で何もなかったけれど。
「戦艦なんだから、ドッグなんかもあるはずよ。そこを探しましょう」
「あとは、ブリッジにも何か手がかりがあるはずだ」
とりあえず俺たちは、ドッグを探す事にした。
とは言っても、戦艦の内部なんて似たような物だ。
それはこの戦艦も同じのようで、俺たちは迷う事なくドッグに辿り着く事ができた。
「わおっ、まさに宝の山ね」
さっきの格納庫と違い、ドッグの中には多くのパーツが溢れていた。
「ここにある物は、持っていっても怒られないよねっ。ねっ」
「知らないよ。好きにすれば」
興奮を隠しきれないミーアが手当たり次第にパーツを収納ポッドに入れているのを見ながら、俺はドッグの中を見渡す。
そして、俺はそれを見つけた。
「これは、戦闘艇?」
流線型のフォルムに、剥き出しのエンジン。
そして備え付けられた様々な兵装は、それが紛れもなく戦闘艇である事を示していた。
「……まだ、動きそうだな」
コクピットを覗き込んでみても、そこは新品同様。
実際に運用された事のないみたいで、エネルギーもしっかりと補給されていた。
「いつでも発進できるように、か。まるで戦闘を想定していたみたいだな」
「ほら、いつまでそんな所に居るの? 次はブリッジに行くわよ」
パーツをあらかた漁り終わったミーアは、出入り口で俺を呼ぶ。
どうやら、返さなければいけないかもしれない戦闘艇にはさほど興味がないようだ。
「分かった、行くよ」
その声に答えて、俺たちは再び廊下を進んだ。
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