第3話

「さぁ、着いたわよ。ちゃんと拾いなさいね」

「分かってるよ。留守番よろしく」

「はいはい。無事に帰ってくるのを待ってるわ」

 軽口を言い合いながら、俺は通信ウィンドウを開いたままマシンを起動する。

 一瞬の起動音の後、コクピットの中が明るくなり目の前も開ける。

 どうやら、待ちきれずにミーアがハッチを開いたらしい。

「ほら、早く行ってきなさいな」

「せっかちだなぁ。じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

 挨拶を交わした後、俺はマシンごと宇宙空間へと放り出された。

 シートに押し付けられるようなGを感じたのも一瞬の事。

 次の瞬間には何の抵抗もないまま宇宙空間に漂っていた。

「さて、掘り出し物は何処かな?」

 目の前の操舵パネルを操作すると、マシンはまるで手足のように動く。

 丸いボディにアームが二本生えただけの簡素なマシンだけど、デブリに紛れたお宝を探すだけなら十分に仕事ができる。

 新しいアームも調子は良いようで、今までよりもスムーズに馴染んでいるような気がする。

 しばらくマシンの調子を確かめるようにジャンクを漁っていると、ウィンドウにミーアの顔が浮かぶ。

「ちょっと、なにしてるのよ。ちゃんとしなさい」

「そんな事言われても、特に目立った物がないから」

「良いから、片っ端から拾いなさい」

 そんな事をしたら怒るくせに。

 心の中でそう悪態をつきながらも、言われるがままに手当たり次第ジャンクを拾う。

 そして、それを近くに浮いているエルニエルの中へと格納していく。

 そんな事を一時間ほど続けていると、目の前に大きな建造物が流れてきた。

「あれって、廃棄ステーションか何かかな?」

「えっ? ……最近、ステーションを放棄したなんてニュースは聞かなかったけど」

 近づいてくる建造物を避けながら尋ねても、ミーアも不思議そうに首を傾げている。

「まぁ、良いわ。リック、あの中を探しましょう」

「探すって、もしかしてミーアも来るつもりなのか?」

「当然。そもそも、エルニエルどころかそのマシンでもあの中には入れないでしょ」

「それはそうだけど、だからってわざわざ来なくても」

「なによ。あんなに楽しそうな場所を独り占めなんて許さないんだから」

 言い出したら聞かないミーアは、すでにエルニエルを建造物に向けて進ませている。

 そうなると、頑固なミーアはもう止まらないだろう。

「仕方ないなぁ」

 渋々ながらエルニエルの後を追って建造物に近づくと、その大きさに圧倒される。

「すごいな。ちょっとした基地レベルの大きさじゃないか」

「ほら、見上げてないでサッサと入るわよ」

 すでに建造物にエルニエルをドッキングしたミーアは、一足先にその入り口まで出てきている。

「分かったから、ちょっと待てって」

 慌ててマシンをドッキングして、俺はミーアに続いて建造物の中に入った。

「驚いた。まだシステムは生きてるのね」

 スーツに備え付けられた計器は、中に酸素が残っている事を示している。

「なら、ヘルメットを取っても大丈夫だね。暑くて仕方なかったんだ」

 入り口がちゃんとしまった事を確認した後、俺は急いでヘルメットを外す。

「あぁっ! もう、危ないじゃない」

「だって、酸素があるんだから大丈夫だろ」

「もしかしたら、有害な成分が漂ってるかもしれないでしょ。まったく、気を付けてよね」

「ごめんって。でも、大丈夫だったから」

「それは結果論でしょっ! ……はぁ、もういいわ」

 怒り疲れたのか、ミーアは諦めのため息をつきながらヘルメットを外す。

 そうすると、綺麗な赤茶色の髪がふわりと浮かんだ。

「重力関係は死にかけてるみたいだから、気を付けるのよ。何処かに飛ばされても、助けてあげないんだから」

「分かってるよ」

 酸素があって安心すると、自然と軽口が漏れてくる。

「それじゃあ、探索に行きましょうか」

 そう言って廊下を進んでいくミーアに置いていかれないように、俺は慌ててその背中を追った。



 ────

「どうやら、ここは軍事施設だったみたいね」

「らしいね。書類は、それ関係の物ばかりだ」

 そこら中に浮かんでいる書類の一つを手に取ると、そこには「機動戦闘艇実用案」だったり、「フォトンキャノン運用マニュアル」だったり、普段ならあまり目にする事のない物騒な言葉が羅列されている。

 内容自体は難しすぎて良く分からなかったけど、それでも一般人の目に触れてはいけないものだと言う事は分かる。

「これは、ラッキーだわ。軍事施設の落とし物なんて、マニアに受ける事間違いなしだもの」

「こんな物で喜ぶなんて、良く分からない趣味だけどね」

 俺には、ディケッド冒険記で十分だ。

「あっ、そう言えば新刊が発売されたんだった」

「なによ、またあんなノンフィクションの皮をかぶったファンタジーを読んでるの?」

「面白いじゃないか。ディケッドが宇宙海賊に襲われるところなんか、何度読んでも興奮するよ」

「へぇ……。まぁ、この仕事が終わったら買ってあげるから、頑張っていろいろ集めなさい」

「マジでっ? 約束だからね」

 呆れたようなミーアの呟きに小さくガッツポーズをして答えると、俺は辺りに散らかる書類を片端から集めていく。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る