第13話 初めての冒険は楽しくなる筈だった

 学園時代、未踏遺跡ダンジョンについては聞きかじった程度で、学んだとは言えないわ。

 遺跡には核と呼ばれるものがあり、その力が強ければ活性化して多くの資源をもたらしその、力を求めた魔物が巣食う場所となる。だけど、格が弱まれば魔物や資源が失われ、枯れていく。

 きっと、まだまだ調査段階で学生には話せないことも多いのでしょうね。

 

「遺跡の核を守る者が、姿なき所有者です」

「では、明日向かう遺跡の姿なき所有者は、もう……」


 もう魔力が残り少ないのかもしれない──その存在が私たち人間と対立するものなのか、そうでないのか分からないけど、弱っていくことを考えたら、とたんに悲しくなってきた。

 だって、もしも私が一人ぼっちで弱り果てて死んでいくって考えたら、そんな最期、寂しすぎるじゃない。

 

「なんて顔をされているんですか?」

「……え?」 

「いくら魔力が弱っても、得体の知れない存在です。リリーが心を悲しませる必要はないんですよ」


 すぐ側に歩み寄ったアルフレッドの指が私の頭をそっと撫でた。

 

「過去、枯れた遺跡に入って抵抗された事例もあります。危険と分かった場合は、すぐに退散しますからね」

「……分かったわ! 私、癒しと守りの魔法は自信があるの。だから、守りは任せて!」


 せっかくの冒険だもの。守られてるだけなんてつまらないじゃない。

 私も一緒に、枯れた遺跡を調べるんだから。

 

「やれやれ……ずいぶんと──」

「何か言った? アルフレッド」

「いいえ。リリーの癒しと守りの魔法、期待していますよ」


 にこりと微笑むアルフレッドは、そうと決まれば今夜は早く休んだ方がいいと話を続けた。

 

「明日、早朝に出発します。馬車で夜を過ごすこともありますし」

「馬車で夜を!? つまり、野宿ね。私、一度外で寝てみたかったのよ!」

「リリー……外で寝るなんて言ったら、メアリーが卒倒しますよ。その時は馬車でお休みください」

「そうですよぉ! 私が外で寝ますから、若奥様は馬車でお休みください!! あぁ、ブランケットとクッションの用意も致しませんと」


 慌てふためくメアリーは、失礼しますと言って部屋を飛び出していった。


 その様子に呆気にとられるアルフレッドと顔を見合い、どちらともなく笑い出す。

 メアリーもついて来てくれるなら、きっと、道中も明るく楽しくなりそうね。


「アルフレッド、楽しい冒険になりそうね」


 見上げた彼は少し肩を竦めるようにして頷いた。

 


 三日前のことを思い出し、馬車の中でお茶を飲んでいた私は小さくため息をついた。

 ついさっきまで楽しかったのは間違いないわ。でも今は、ひとまず休憩だって待たされている。


 外ではアルフレッドが従者や騎士の皆さんと、何かを話していた。


「元気を出してください、リリーステラ様」

「メアリー?」

「クラレンス領の抱える枯れた遺跡の数は、国内随一ですよ。ここがダメなら、次の遺跡に行けば良いじゃないですか!」

「ここがダメなら?……待って、何の話をしているの?」


 話が見えなくて、私は気付かないうちに険しい顔をしていたんだと思うの。メアリーはさっと顔色を変えて視線を逸らした。


「え、あの、それは……あ! 紅茶、注ぎなおしますね。ビスケットもいかがですか?」

「……もしかして、アルフレッドたちは帰路の相談をしているの?」

「そ、それは……」

「まだ、塔を調べていないのに、帰るっていうの!?」

「あ、あの、それは、その……」


 メアリーの慌てふためく様子を見て、確信めいたものを感じた私は、手に持っていたカップを彼女に押し付け、馬車の外に飛び出した。

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