第2章 初めての冒険は、枯れた遺跡の調査です!
第11話 突然だけど、ピンチです。でもこれって冒険って感じだわ!
今、私は空を見ながら落下している。
唸る風の中、私は両手を広げて冷たい空気を吸い込んだ。視界の隅に映るのは蔦で覆われた塔。私たちは、ほんの数分前にその最上階へと到達していた。
塔の窓から黒い靄のようなものが、一瞬出てきたように見えたのは、気のせいなんかじゃないわ。
あれが、私たちを外に放り出した塔の住人とも言える、枯れた遺跡の
スカートがバタバタとはためいて、綺麗に整えていた前髪だって乱れに乱れている。こんなこと、お屋敷にいたら体験できなかったわ。
胸の高鳴りを抑えられず、塔へ向かって「待ってなさい!」と叫んでいた。
「遺跡って面白いわね!」
「リリー! 悠長なことを言っている場合ではありません!」
「え? 何て言ったの、アルフレッド?」
「ですから、悠長に──」
風の音で聞こえない声の方を見ると、少し怒った顔をしたアルフレッドがいた。彼の手が私の手を掴むと、凄い力で抱き寄せられた。
「だから、あれほど姿なき所有者には気をつけてと申したんです!」
「ごめんなさい! でも、何とかしてくれるのでしょ?」
「……あなたという人は……しっかり、掴まっていてください!」
言うや否や、片手を地面に向けて突き出したアルフレッドは息をすうっと吸い込んだ。
掌の先に光が集まる。
「風よ唸れ──ウィンドバースト!」
輝く魔法陣が展開し、地面に向けて渦巻く風が放たれた。
吹き上がる風に、スカートがひっくり返りそうになり慌てて抑えたけど、アルフレッドは気にもしていないようだわ。私の腰をしっかり抱きながら、彼が見ているのは地面だけ。
結婚したと言うのに、相変わらず私たちはどこか主従関係のような状態なのって、どうなのかしら。まぁ、名前だけは、
風で木々が葉を散らす中、彼のつま先が地面についた。
「ほら、何とかなったじゃない。というか、想定済みだったのでしょ?」
「……信頼してくださるのは光栄ですが」
大きな手が私の髪に触れ、くっついたらしい葉を払ってくれる。
「寿命が縮まります」
「それは大変ね。癒しが必要かしら?」
「……ここまで、お転婆が過ぎるとは思ってませんでした」
呆れるようにため息をつきながらも、アルフレッドは笑っている。
結婚してから一ヵ月が過ぎたけど、私たちの距離はまだどこか主従関係が抜けていなくて、いつもこんな感じなのよね。夜の営みだって、私の意志を尊重したいって言うから、特に何かがある訳でもなく健やかな眠りを送っているわ。
今だって、手を握っているのは甘い意味なんて欠片もなくて、きっと、私がどこかに遊びに行かないようにって思っているのでしょうね。
アルフレッドの綺麗な横顔をじっと見ると、彼は視線に気づいたようで、こちらを向いて微笑んだ。
悔しいくらい、素敵な微笑みだわ。女として、ちょっと自信を無くしちゃうくらいよ。
「さて、まずはセバスたちと合流しないとだな」
「塔の前の馬車まで戻りましょう。メアリーも心配しているでしょうし」
スカートの埃を払い、アルフレッドに手を引かれながら、私は歩き出した。
膝丈のスカートの下はロングブーツで、装飾品も少ない町娘のような旅装束で来たけど、もう少し動きやすい格好の方が良さそうね。帰ったら、メアリーと相談して改良しましょう。殿方のようにズボンを履くのも良いかもしれないわ。そんな恰好をしたら、クラレンス辺境伯夫人は怒るかしら。
冒険に相応しい格好なんて、物語には書いてなかったから、これは手探りしがいがあるわね。
枯れ枝の落ちる小道を踏みしめて、サクサクと進んでいると、横でアルフレッドがため息をついた。
あら、私の考えていることが分かったのかしら。
「しかし、勝手に招き入れておきながら放り出すとは、身勝手な住人ですね」
「……
「そうです。遺跡はすっかり枯れたと思っていましたが……まだ、抵抗する意思があるようですね」
どうやら、私の考えがバレた訳ではなく、アルフレッドは塔の攻略を考えていたみたい。
昔からだけど、彼って本当に仕事熱心なのよね。
アルフレッドが、この一帯を整備すれば、西の町リードに迂回せず向かう道を整備できることを説明してくれた。新しい道が出来たら、行商人や冒険者だって助かるわよね。その為にも、この塔をどうするかを見定めなければならないらしい。
それにしても、あの黒い靄──姿なき所有者は私たちをどうしたかったのかしら。
何かを求めていたのか、伝えたかったのか。
考えても答えは分からず、しばらくして、馬車の前で待機していたメアリーや従者の皆と合流できた。
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