第10話 夢想から始まる恋もある……?
私の手に触れていたアルフレッドの手が遠ざかるのを、私はゆっくりと目で追った。
指先まで覆っていた白い手袋が外され、ポケットへと押し込められる。
アルフレッドの形の良い唇からため息がこぼれた。そして、
「良いのですか?」
「……なにが?」
初めて、肌を晒したアルフレッドの指が私の手に触れた。
手袋に隠れていた指は、思い描いていたものよりもごつごつとしていて、血管も浮いている。でも、お父様の手みたいに皴はないし綺麗だわ。と、どうでも良いような感想を持ちながら、私は彼の指先を観察していた。
「あなたをクラレンス辺境伯領に連れて行くということは、私の妻になるということです」
そう告げられて初めて、私が彼に求婚していたのだと気づかされた。
アルフレッドと私が夫婦になるなんて、今まで考えもしなかった。だって、彼は私の従者で私の側にいるのが当たり前で、私を手伝ってくれて──あれ? 夫婦って肩書きが変わるだけで、今までとそう変わらないような気がしてきたわ。
違うと言えば、今度は私が夫を助ける立場になるってことぐらいね。
アルフレッドは私から目を逸らさず、じっと返事を待ってくれている。
「良いわ。私、アルフレッドのお嫁さんにして!」
「リリーステラ様……本気で仰られてますか?」
「えぇ。だって、アルフレッドなら私を別世界に連れて行ってくれるでしょ」
一瞬の間を置いて、アルフレッドはため息をつきながら笑った。この顔は、私のわがままを聞いてくれる時の顔だわ。
「一つ、約束をしてくれますか?」
「何かしら?」
「クラレンス領には危険な場所もあります。私の目の届かないところへは行かないで下さい」
「あら、そんなことで良いの? 約束するわ。だから、私を別世界へ連れていって!」
もっと難しいことを言い出されるのかと思って、少しだけドキドキしたけど、案外簡単なお願いね。
アルフレッドが私の前に跪いた。
「リリーステラ様……生涯、貴女を愛し守り抜くことをお許しください」
真剣な眼差しに、穏やかだった鼓動が飛び跳ねた。
アルフレッドの睫毛ってとても長いのね。さっきも思ったけど、瞳は宝石にも負けない綺麗な緑色をしているし、とても綺麗な顔立ちをしているわ。
でも、私の手を取る指は男の人のもので、背や肩だって私よりもずっと大きくて、がっしりとしていわ。彼が、騎士のような装備を身につけたら、どうなるのかしら。マントをなびかせて、その手に剣を持ち──
「私の妻に、なってください」
まるで物語に出てくるヒーローのようじゃない。
夢想した姿がアルフレッドに重なった瞬間、私は爪先から頭のてっ辺まで熱くなった。きっと、顔は薔薇の蕾にも負けないくらい赤く染まっていたと思うの。
消えそうな声で、はいと答えるのが精いっぱいだった。
こうして私は学園を卒業すると同時に、アルフレッドと共にクラレンス辺境伯領へと向かうことになった。
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