シェラララララチェンダ

藤泉都理

シェラララララチェンダ




 黒のサングラスに黒服黒ネクタイ黒革靴と黒に染まった男性の名は、あいだ

 私が召喚した守護霊であり、同じ日本人でありながら頻繁によくわからない言葉を口にする。

 今もほら。




「ああ。スケジュールは「フィックス」した。ああ、ああ。わかっている。ああ?ああ。「エビデンス」は得られた。この薬を使えばマスターの悪霊ホイホイ体質も改善するはずだ。ああ。わかっている。じゃあ。また電話する。「シェラララララチェンダ」」


 意味がわからんまったくわからん。

 一事が万事まったくわからん。

 カタカナの間の馴染みのある言葉すらわからなくなる。

 え、薬って何だっけ?悪霊?改善?電話?

 締めくくる「シェラララララチェンダ」も何だしょう?


 間に聞いてみたら、守護霊同士が使う「ジャーゴン」なのでマスターは知らなくていいと言う。

 まあ、知らなくていいのならいいやと放置しているが、そもそも「ジャーゴン」とは何ぞや。

 カタカナばっかりでちょっと食傷気味である。

 あれもしかしてカタカナじゃないの漢字なの日本語なの外国語じゃないの?

 守護霊なのに、マスターを混乱させてどうするの?






「えええええ~」


 ちょっと出かけて来るが、結界は張っているので安心しろ。

 間はそう言ったくせに、楽々と破られたっぽいんですけど結界。

 目の前に存在する黒い靄風のだるまを見ているだけで頭がカチ割れそうなんですけど。

 絶体絶命ってやつなんですけど!

 もうしっちゃかめっちゃかに物を投げまくっても、通り過ぎるだけ。

 ああもう物理的な攻撃ありにしてくれよ!


「っ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏ほにゃらららえー森羅万象月火水木金土日陰陽師陰陽師陰陽師!」


 効果はない。

 それどころか黒い靄がどしどし増大中。

 いえーい、流石は悪霊ホイホイ体質だぜ。


(って言っている場合か!ええい!間様!)


「シェラララララチェンダ!」

「っ」


 効果は抜群だ。

 とは言えないまでも、うっすら黒い靄が消えたような頭痛もやわらいだような。

 畳みかけるならば今だ。


「シェラララララチェンダシェラララララチェンダシェラララララチェンダシェラララララチェンダシェラララララチェンダシェラララララチェンダ!」


 ああもう舌が回らなくなってきた何だよ「シェラララララチェンダ」って。

 言えば言うだけ、効果が増すばかりか薄まって来て、黒い靄も頭痛も活性化して来たんですけどどーゆーことよもう言わない方がいいってことかい?!


 キレた猫のような顔になった瞬間。

 視界を染める黒がさらに濃さを増した。

 けれど、危機感はない。


「マスター。申し訳ねえ。遅れた」

「マッタクダ」


 間が腰に携える日本刀を構えては黒い靄風のだるまを一刀両断、無事に悪霊を祓ったのを見届けてのち、後ろの寝台に倒れ込んで意識を手放した。






「申し訳ねえ」


 うつ伏せになって深い眠りに就くマスターの頬にかかる髪を払った間は、もっとカタカナ、もとい外国語をマスターして、レベルアップすると誓ったのであった。











「マスター。ペラペラペラペラオーペラペラぺラペラ「フィックス」「エビデンス」「ジャーゴン」「シェラララララチェンダ」」

「いやっ日本語しゃべって!って、何だ」


 跳ね起きた私は夢と知って安堵したが。


「マスター」


 傍らで佇む間が発する次の言葉を固唾を呑んで見た。











(2023.9.14)



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シェラララララチェンダ 藤泉都理 @fujitori

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