第42話 不滅の誓い
どこだ。
どこにいる。
エレナが居なくなってもう何時間経っただろうか。日もすっかり落ちてしまった。
「ココ!エレナは見つかったか?」
「いなーい!私でも見つけられないってことは、この街にいないのかも!」
「わかった。俺は外を探してくる!」
エレナが他の国に行くとは、あまり考えられない。あるとすれば人がいなくて、身を隠せるほどの遮蔽物があるところ。
その条件を満たす場所は限られる。
その中で一番可能性があるとすれば、ここから比較的近いケルン大森林だ。俺はいるという確信のないまま、ケルン大森林内を走り回った。
「エレナー!」
「エレナー!」
どこを探してもエレナの姿はない。
ならば他の場所。だとすれば…だとすれば…
必死の考えていると、アテナの感知に何かが引っかかった。
【付近に2つの生命体を確認。1つは付近を歩いているようです。もう1つは西北西あたりの木の上です】
木の上の方だ。根拠はなかったが、俺の直感がそう言っている。
(その木の上まで、ナビゲートしてくれ!)
【了解。西北西に走ってください……対象まだ残り20m…10m…真上です】
木の上を見ても、葉が生茂りよく見えない…
息を切らしながらも、俺は必死に名前を叫んだ。
「エレナっ!!!いるなら降りてきてくれ!!」
ガサッと枝が揺れると、上からエレナが飛び降りてきた。
「…」
降りてきてはくれたが、エレナは黙っていた。
俺は覚悟を決めて、口を開いた。
「俺さ…」
「すまなかった」
遮るように、エレナが話し始めた。
「私の身勝手で、君に迷惑をかけたようだ。もう大丈夫だから戻ろう」
そう言ってエレナは歩き出してしまった。
「待ってくれっ!」
エレナの腕を掴み、引き留めた。
「約束のこと忘れたわけじゃなかったんだ…ただ…その…恥ずかしくて」
「・・・」
「それでさ」
エレナは何かを悟ったように、立ち止まり真っ直ぐ俺の顔を無言で見つめた。
「初めて会った時、パンをくれてありがとう。一緒に戦ってくれてありがとう。俺を励まして、支えてくれてありがとう。エレナの優しさが、可愛さが、大好きです。だから…だからっ!」
「ふふふっ。これから死ぬ人のセリフかと思ったぞ。本当に君はっ…ふふふっ!はははっ!」
途中まで真剣に聞いてくれていたエレナの笑い声で、緊張感がいい意味でも悪い意味でも消えた。
「笑うな!最後まで言わせてくれ!好きだ。だから付き合いたい!
「ふふふっ。す、すまない…ふふっ」
「はははっ」
エレナにつられて、俺も笑ってしまった。
「いや〜笑った、笑った。そうだな。ちゃんと返事をしなければな」
そう言うと、頬を赤く染めながら、真っ直ぐ見つめて「はい」と一言。その言葉に感じたことのない喜びが込み上げ、思わず飛び跳ねてしまった。
「それでアスタ。つきあうという状態はいつまでなのだ?いつ夫婦となるのだ?」
夫婦とか言う心臓に悪い言葉にドキッとした。
「そ、そういうのはもう少し後だ!帰るぞ」
自然とエレナと手を繋ぎ、俺たちは歩き始めた。2人で戻ると,城の前でメロとココに祝われた。最初は素直に嬉しかったが,質問責めをしてきたりと。面倒くさくなってきたので適当にあしらって逃げた。エレナはずっと俺の手を握りしめて,下を向いて様子がおかしかった。
部屋に戻ったが、そわそわして寝付けずにいた。なので、庭に出て空を眺め黄昏ていると、しばらくして、フェリクスがボロボロの状態で帰ってきた。
「ちょ!大丈夫かフェリクス!」
「お気になさらず。ボーっとしながら歩いていたら、木の根に引っかかり転げ落ちただけなので…」
「それって大丈夫じゃなくないか・・・?」
「本当に大丈夫なので!あっ、エレナさんと…そのおめでとうございます」
「では、おやすみなさい」
「おやすみ・・・」
なんでエレナとのことを知っているのか疑問だったが、ココだな。と結論付けて追及はしなかった。
気がつくと、空が明るくなっていた。庭のど真ん中で寝てしまったようだ。明るくなっていた、と言ってもまだ明け方だ。
ゲーマーとして過ごしていた日々。
遅寝早起きを未だにしてしまう。
本当はもっと寝ていたいのだが…
習慣というものは本当に厄介だ。
「おはようアスタ」
頭上から声が聞こえてきた。
正面を見ても誰もいない。そういえば、枕など用意した覚えなどないのだが、頭の下に何かがある。そっと触ってみると、とても柔らかく、暖かかった。
「朝からセクハラとは」
「・・・ん?」
目を擦りながら起き上がると、正座をしたエレナが後ろに座っていた。
「おはよう」
「・・・ぅん。おはよ」
まだ若干寝ぼけて、イマイチ思考がまとまらない。立ち上がり、思いっきり背筋を伸ばした。
「まさか、膝枕!?」
思考が戻り始め、急激に恥ずかしくなったと同時に、もう一度味わいたい感触だった.....気がする。
「メロから教えてもらったものなのだが。どうだったか?」
「ごめん・・・寝ぼけてて、よくわからなかった」
「そうか。まぁいつでもしてやるさ」
「けど、いつからここに?」
「三時間くらい前だ。すぐに起きてしまって、外に出たらアスタが寝ていたから」
三時間の間正座して俺のために膝枕をしていたとかやばい。嬉しいけど、罪悪感を感じてしまう。
「三時間も悪いな」
「私がしたくてやったのだ。君が罪悪感を感じる必要はない。これからまた色々と忙しくなるだろう?今のうちに君と少しでも一緒にいたいんだ」
相変わらず、照れているエレナも可愛い。
でも、確かにその通りだ。またすぐに忙しくなることは目に見えている。
「エレナ。良ければ俺の部屋に来ないか?」
「ふぇ?」
「ぶっ!!!」
不意にエレナが間抜けな声を出すものだから、吹き出してしまった。
「いっ、いや…た、た、た、確かに!時間がないから、事を急ぐのもわかるんだけど?その.....心の準備が…」
完璧にキャラ崩壊しているエレナの姿に笑いが止まらない。だが、少しショックだ。
俺は唯一1人で家を使っており、もう1人いても問題ないと思って、エレナと過ごす部屋に変えようと思っていたのに・・・
確かに付き合った2日で同棲は早すぎるか?
「嫌なら言ってくれよ?」
「ふぅ…嫌なわけではない。わかった…行こう」
「本当か!ありがと!」
「君は積極的だな…」
「ん?何か言った?」
「い、いや何も」
こうして、俺たちは部屋へ向かった。
部屋に着くと、エレナがモジモジしていた。
「大丈夫かエレナ?」
「あっ!はい」
「そ、そうか」
エレナの様子がおかしい。
心配だ。
「じゃぁ、始めちゃいますか!」
「わ、わかった」
そういうと、覚悟を決めたような顔をして服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょ、ちょ!!エレナさん?何してるの?」
「服を着たままではできないだろう…アスタも早く脱いでくれ…」
何か誤解をしていると、すぐにわかった。だがとりあえず、エレナの下着姿を目に焼き付けた。
「エレナ。その誤解しているようだから言うけど…部屋を一緒にしないかって事だぞ…?この部屋広すぎるから2人で使えないかなって…」
「なら最初からそう言え!!!!」
「りふ.....じん」
パーンッ!顔を真っ赤にしているエレナから強烈な一撃が、頬に直撃した。
「す、すまないアスタ…取り乱してしまった…」
「い、いや…俺が悪から」
よくよく考えると前に一緒に風呂に入ったはず.....その時は恥ずかしがっていなかった。だがこれを聞くとまたビンタされそうだったので、疑問を心の奥にしまった。
・・・そんなアクシデントがありながらも、なんとかエレナの物を俺の家に運び、小規模な引っ越しが終わった。2日ほど過ぎ、部屋でゆっくりしていると突然イラが入ってきた。
「アスタ様っ!ただいま戻りました!!」
「お、おう!そういえば、ずっと姿が見えなかったけど、何していたんだ?」
存在を忘れていたことは内緒だよ?
「はい!ハノーファ公国の住居などを
「まじか!」
消えたと思っていた
たくさん木箱があり、一つずつ中身を確認していった。箱を開ける時、誕生日プレゼントを開封するような楽しさがあった。
箱を開けているうちに、興味津々に人が集まってくる。その中にはソールやルナたちの姿も。
箱の中には、鉄や銅といった金属類が入ったものから、肉や野菜といった食料や、日用品などが入ったもの。金貨などの硬貨が大量に入ったもの。さらに珈琲豆や砂糖などの嗜好品の入った箱まであった。たくさんの人がいたので、「整理を終え次第、国民に配布する」と言い、俺たちでで協力して集会所へ運んだ。ちなみに俺の頭の中は、コーヒーでいっぱいだ。
「これをどう配布するんですかアスタ様?」
「配布するって言っても、食料や日用品だけだ。金属とかは、俺が使う素材としてもらっていいか?」
「自分は構いませんが」
「私も!鉄に興味ないもん!」
「じゃあありがたく…硬貨は上手く商業人たちに流れるようにして…嗜好品は…俺たちで分けよう…」
「アスタの活躍あってこその高級品だ。お前コーヒー好きだろ?もらっていいんじゃないかな?」
「さすがにそれじゃ不公平だろカナタ」
「じゃあ、珈琲豆以外はもらう権利なしとかは?」
「他のみんながいいなら・・・」
「よっしゃあっ!アスタ脱落だ!私このお砂糖欲しい!」
と、我先にと砂糖が入った布袋を掴み取る。瞬時にメロが強めにココの肩を握り締めて、悪魔のような笑顔で手に持っているものを差し出す。
「ココ料理できないでしょ?私がもらってあげるから、この熊のぬいぐるみにしなさい」
「うわぁぁ!可愛いっ!ありがとうメロ!」
メロの「計画通りっ」って感じの笑い方がより一層怖い。
「私は、このレバーを回すと音楽が流れる不思議な魔法道具をもらおう」
それはどう見てもオルゴールだ。この世界でも存在する物なのだろうか?だが曲を聴く限り、夢の国の鼠行進曲だ。つまり地球産のオーパーツみたいな物だろう。なぜそんな物があるか、不思議なのだがカナタもわからないらしいし、
「あーしは、このネックレスを」
「ぼ、ぼくはこのワイバーンフルーツを」
「私もワイバーンフルーツのあまりを」
「フェリクス様。どうぞ」
「えっ!いいの?」
「構いませんよ」
「ありがとうカルラ!」
こうして、そこにいたメンバーだけでこっそりと欲しい物を各々手に入れ、バレないうちに解散した。
「カナタはいいのか?」
「僕は別にここにいられるだけでいいから」
「そっか!」
その後、残った食料や日用品は、国民に配布された。 その夜.....俺はコーヒーの飲み過ぎで寝られなくなった。
【番外編】
アスタさんが帰ってきたことで、やっと花冠を作る時間ができた。お花が好きなんて、カルラ以外にはバレたくない!ボクは可愛いお花を見つけるため、ここケルン大森林を歩き回っていた。その時聞き覚えのある声がどこからか聞こえてきた。
「エレナっ!!!いるなら降りてきてくれ!!」
別にボクの名前を呼ばれたわけでもないのに、驚いて物陰に隠れてしまった。こっそり覗いてみると、アスタさんとエレナさんが居た。
なんで2人がここにいるんだ?と思ったが、それよりも会話の内容の方が衝撃だった。
「…だから…最後まで…付き合ってください」
!?!?!?
断片的にしか聞こえないが、エレナさんに付き合ってと言ったのかな?確か恋人になるための呪文だっけ・・・?
「はい」
!?!?!?!?!?!?
出るタイミングを失ってオロオロしていると、2人とも手を繋いで帰ってしまった。
花冠を作り忘れたのは言うまでもなかった。
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