第39話 勇者タケシ
東門には俺が生み出したモンスターたちが、すでに集結している。もちろんこのモンスターたちはただの見掛け倒し。俺とイケメン悪魔以外に戦力として数えられる存在はいない。数は多いから慌ててこちらに戦略を仕向けてくれれば役目は終わり。後は倒されるなり、なんなり勝手にやってくれという感じだ。
残った時の事は考えていないので、全滅してくれた方が正直ありがたい。
「なぁなぁ」
「なんでございましょうかアスタ様!」
なんか段々とこのイケメン悪魔が、主人大好きな子犬のように見えてきた。
「戦場には仲間もいるから、とりあえず人間以外の種族には手を出すなよ?」
「了解しました!」
「あーあと忘れてたけど名前は?」
「私ですか…?生憎ですが固有名詞は持ち合わせておりませんので好きにお呼びください」
「そっか〜じゃあイラって名前でどう?」
「え?」
イラという名前を聞いた子犬悪魔は、ヒクッと体を反応させ、その後はプルプルと体が小刻みに揺れている。よほど嫌だったのか?なら別の名前を考えるしかないな。
「気に入らなかったか?」
「ま、まさか私に名前をつけていただけるのですかっ!!」
「そうだけど?呼ぶ時面倒くさいし」
「イラという名前!頂戴いたします!!」
どうやら気に入ってくれた様子。あまりネーミングセンスには自信がないので、何度も考え直す手間が省けて助かった。
「じゃっ!改めてよろしくなイラ!」
「はいっ!!」
後ろに尻尾を振った子犬の幻影が見える。
「イラ、
「かしこまりました。〈
黒いローブを着た半透明の人間の幽霊が10体ほど、所々剥き出しな骨を見せる腐った肉体をした犬や猫を始め、熊や鳥などの様々な見た目のアンデットが20体ほど召喚された。念には念をだ。
「じゃあ.....出陣だっ!!!」
俺の掛け声と同時に、一斉にイラたちと約150体のモンスターが戦場へ向けて駆け出す。いくら転生者のいる軍隊といえど、挟み撃ちには対処できまい。
敵軍は後ろに自国があるため、後ろからの攻撃に対する懸念は無いらしく、突然モンスターの大群が襲ってきたことに慌てて、無抵抗のまま兵士が次々と殺されていた。イラの活躍は大きいが、それ以上に使い捨てのモンスターたちが戦果をあげていることに驚きだった。俺も負けじと覚えたての魔法を放ち、兵士たちを葬る。
予想以上の活躍から早い段階で、おそらく敵の主戦力である転生者を潰すため、俺は軍を離れ、覚えたてのスキル[擬態]を使い、悪魔っぽい漆黒の翼を作り出す。
「ここは頼んだぞイラ」
「はい!」
敵軍を跨いで飛んではみたが、転生者らしき人物を見つけることはできず、あっという間にアウレアたちのいる百獣団が戦う最前線へと着いてしまった。
「えぁ?」
驚きのあまり変な声が出てしまった。アウレアやココたちの活躍は素晴らしく、敵軍をかなり押している。もちろん百獣団の活躍も素晴らしい。エアロさん筆頭の十二騎士たちも最前線にいるが、誰1人負傷している者はいない。ステータスを確認させてもらったが、その全員がうちで一番レベルが高いアウレアよりもレベルが上。下手すれば俺らよりも強い。
そんな彼女らですら、この戦争を終わらすには至らないということは、転生者の実力が高いことが窺える。
そんな戦場に見覚えのあるが、この戦いに呼んだ覚えのない人物がいた。
「なんでいる?」
「悪いとは思っている。だが、妙な胸騒ぎがしてな。ソワソワしていたらメロたちが送り出してくれたんだ。罰なら後で受けよう。今は私も戦わせて欲しい」
見覚えのある人物の正体はエレナ。村防衛の責任者さんだ。元から好戦的なのは知っていたが、やはり振り分けをミスった気がするな.....
今は怒ってもしたかない。とりあえず来てしまった以上には活躍してもらうとするか。
「わかったよ。ならチャッチャと終わらせるぞ!」
「あぁ!」
「お前らもまだ余裕だよな?」
「「我々はまだ余裕ですよアスタ様」」
「サボってたアスタに言われたくない!!」
「あーしは、アスタ様をみて体力が回復した気がします!」
「我ハ、マダマダ戦イ足リナイ!」
「ははっ!大丈夫そうだな。後ろから、別働隊を使い敵軍を挟み撃ちにした。混乱して隊列を崩している今のうちに、各個撃破を狙う!突撃ッ!!」
事前の調べで、ハノーファの兵士は徴兵されただけの雑兵の寄せ集め集団。今の俺たち程度の実力でも余裕を持って対処可能だ。元々が一般人なだけに殺戮をするのも心苦しくはあるが、武器を向けてくる以上容赦はしない。数千という数が瞬く間に消えていく。
「アスタ。君の策略には相変わらず感服する!私も負けてられないなっ!」
「そりゃーどもっ!
「数秒だけ私を守ってくれ」
そう言うと、エレナ巨大な魔法陣を展開させた。空気が震えている。相当な威力の魔法なのだろ。
「見ていろ!私の最強魔法をっ!〈
エレナの口から放たれた一撃は強い閃光を放ち、思わず目を閉じた。目を開くと一直線に地面がえぐれ、目の前にいたはずの敵軍が姿を消した。
「へ?………な、なんだ今のっ!」
「どうだ?私の編み出したオリジナル魔法だ。凄いだろう?」
「やべーな。流石だよ.....っ。アウレア!エレナ!ソール!ルナ!ココ!構えろっ!」
そう常人では。
直線上の敵は消し飛んだはずだが、確かにそこには男が1人立っていた。
(
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エモトタケシ Lv100 [土属性]
[守護者Lv10][勇者Lv5]
体力 8800/9000
魔力 1100/1200
知力 740
攻撃 2500
防御 9000
魔法攻撃 10
魔法防御 9000
素早さ 600
スキル[鑑定Lv10][神の加護Lv1]
[絶対防御Lv1][石心Lv10]
[統率者Lv2][不動Lv7]
[守護Lv10][守りLv1]
[硬質化Lv2][誇り高き心Lv6]
[麻痺無効Lv1][毒無効Lv1]
[腐食無効Lv1][即死無効Lv1]
[凍結無効Lv1][火傷無効Lv1]
[水無効Lv1][風無効Lv1]
[全属性耐性Lv1][物理超耐性Lv1]
[魔法耐性Lv9][斬撃耐性Lv2]
[火耐性Lv2][雷超耐性Lv4]
[視覚強化Lv1][聴覚強化Lv7]
[体力強化Lv7][防御強化Lv9]
[盾殴りLv10][跳ね返しLv10]
[不退転Lv5][筋肉活性Lv8]
[要塞化Lv10][守護への貢物Lv7]
魔法 [
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金を基調とし赤で所々が装飾されている全身鎧。大きめなトサカが特徴的な、頬当が大きくシャクレているように見えるヘルム。
背に背負うマントは綺麗な青一色。付近まで届く大きな肩パッドを携え、胸当には立派な獅子の装飾が施されている。腰当は長くドレスのようなシルエットを思わせる。この戦場にあれを着用しているのは百獣団に喧嘩を売っているようにしか見えない。
周囲の雑兵とは一線を画す全身鎧の男の右手には、中心に女神を模った銅像が埋め込まれたような銅色のタワーシールドを握り、左手には手の甲から少しはみ出す程度の小さく赤いカイトシールドを装備している。
顔は見えないが、タケシ.....明らかに日本人の名前だ。どうやらあれがハノーファにいる勇者らしい。
「馬鹿なっ!私の魔法を耐える者がいるなんて!」
「あれが勇者?」
「そうだココ。あれは勇者だ」
「周りの雑魚は百獣団に任せて、作戦通り今回は全員で戦うぞ。とにかくダメージを与えるんだ!行くぞ!」
隙を作るため、
「まったく。突然痛いじゃないか」
「はじめましてタケシくん?」
「アスタ避けろ!〈
〈
エレナとルナの魔法が直撃してもお構いなしで、左の盾を俺に向かって振りかざしてきた。
「誰だか知らんが、まずはお前からだっ!
「アスタ様っ!」
あまりの衝撃に俺は吹き飛ばされた。しかし吹き飛ばされことによるダメージしかくらっていない。その代わりに、俺に覆い被さるようにソールが血を吐きながら倒れ込んでいる。
とっさに俺を庇ったらしい。
急ぎ過ぎたあまり、俺のせいでソールが.....
「ソールッ!!!!」
「ぼ、僕は平気です。あの勇者をっ」
「アスタ様。兄貴は自分が!戦ってください!」
「わかった。任せたぞルナ!」
今ここで俺が動揺してしまえば、間違いなく全滅してしまう。ソールはきっと大丈夫だ。そう願うばかりだ。いきなり戦力を1人失う結果になり、自らの弱さに嘆くしかない。
「.....ちっ。アウレアとエレナと俺で攻める!メトゥスとココは援護を!」
「ルナはソールを安全なところに連れて行け!終わり次第合流して援護に!」
あのタケシとか言う奴は、攻撃力と防護力が極端に高い。だが素早さは大したことない。いくら転生者相手だからとはいえ、焦りすぎた。兎に角、冷静に立ち回るんだ。遅い分、本当は前衛にあと2、3人は欲しい…
今更クヨクヨしても仕方ない。
「貴様ら如きに何ができる。弱い魔法も鎧にぶつけただけでヒビの入る鈍で叩いても無駄だぞ。ワシには効かん」
「生憎俺は剣士じゃないんでね!〈
「無駄だ!!」
不快な虹色をした波動がタケシを直撃するも、かき消されたように波動は弾けて消えてしまった。
【精神系のダメージは、[誇り高き心]のスキルにより無効化されます】
格上に通用するしない以前の問題だ。スキルが原因で殆ど俺たちの攻撃が聞いていない。
再びタケシの盾が俺目掛けて振り翳されるが、今度はアウレアとエレナが正面から盾に攻撃をぶつけて、カバーをしてくれた。その隙に少し後退しつつ死体が握る剣を空いている手に持ち、構える。メトゥスは槍でチマチマと隙を見ては攻撃しつつ、ココは持ち前の素早さと魔法で撹乱、妨害。俺とアウレアとエレナも魔法を駆使しながら、剣や拳で攻撃。しばらく戦闘した後に、ルナも合流してより攻撃の手を強め、ダメージを与え続けた。かれこれ1時間以上の戦闘が続くもタケシの体力はまだまだ残っている。ステータスを見るだけでは以前に戦ったユウトを超えているように見えるが、実際は攻撃をくらえば命を刈り取られてしまいそうだが、動きが遅く、気をつけていれば攻撃は当たらない。前衛の俺たちは少しずつ体力を削られているも、かすり傷程度だ。極論を言えば、遠距離の攻撃手段を持ち合わせていない様子なので、何らかの手段で全員が宙に浮き、チマチマ魔法による爆撃をすれば時間はかかるが倒せるだろう。もちろん無防備に浮いて攻撃をすれば、格好の的となるため不可能な作戦だが、タケシ単騎なら余裕で勝利を収められるだろう。そんな程度の相手。ユウトの方がよほど強敵だった。
「ソール!俺に向けて魔法を!」
「何を言っているのですか.....こんな時に!」
「考えがあるんだ!頼む!
「どうなっても知りませんよ!?〈
【体力が一定値を下回ったため、スキル[憤怒]の発動を確認】
流石に痛い.....だが狙い通りにスキルを発動することに成功する。これにより攻撃が上がってくれる。タケシの攻撃で体力を調整するよりはマシだな。
「アスタ!ソール.....君はなにをしてる!今回復を」
事情を知らないエレナは驚き、ソールを叱責するが、エレナに急いで俺が弁解し、ソールにはエレナの代わりに謝罪した。
「ルナ。それより俺に
「かしこまりました」
「エレナ!アウレア!一旦下がれ!」
初撃と同様に懐に潜り込み、左の剣で力一杯剣を真っ向から振り下ろしたが、やはりこいつの硬さに勝てず、刃が折れてしまった。
「無駄なことをっ!
「今だ!ルナ!!」
〈
〈
攻撃が底上げされた状態で盾を足で蹴り返し、連続でタケシの腹にも蹴りを入れた。
さぁここからが本番だ!
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