第37話 魔王軍初陣ッ!
フェルト帝国の都市にそびえる古代ローマの大聖堂を彷彿とさせる見事な造りの城内にある円卓の間。俺ちの屋敷とは訳が違う豪華さだ。
獣種のモンスターが描かれた見事な壁画が部屋の彩りを与え、天井からは巨大なシャンデリアがぶら下がる。そんな部屋一つ分はある巨大で豪華な大理石の机の両端に座る男たち2人。
金色の髪をオールバックに立派な髭。ネコ科を思わせる獣の眼、筋骨隆々な肉体、背丈は190cmほどの大男。服装はチャンピオンベルトを右肩に背負い、両腕には七色に輝く金製の腕輪に金の指輪。金製のチェーンのネックレスをぶら下げる、金が大好きなこの彼こそが、百獣の王と称されるフェルト帝国の王。
ライオンの獣人ということはラルタにより聞いている。猫っぽい耳が生えているのはそのためだ。
「ガッハハハハッ!お前もイケる口だなっ!」
「は、はぁ」
フェルトの王は気さくで、絡みがちょっとうざい。お酒を飲むことで、面倒臭さに拍車がかかっている。なぜこんな状況になっているのか?と疑問に思うだろう。
それはニ時間ほど前…俺たちはラルタに連れられて、フェルトの王都に着くや否や突然王らしき人物に決闘を申し込まれた。
結構追い込まれたが、ギリギリのところで一撃を入れると「お前を認めよう!」とか訳わからないこと言い始めて、酒の席に招待された。
そして現在に至る…
机には大量の酒と、どれもが頬が落ちる美味しさの料理の数々。だが食事はあまり喉を通らない。初めての外交で緊張を隠せずにいる。
「それで?アラタと言ったな?お前は何をしに来たんだ!!」
そしてこの王様はやたら声が大きい。
「名前ちげーし!おたくはハノーファと戦争してるんでしょ?同盟を結んで、加勢したいんだっ!そしてうちの村に資源を提供してほしい!」
「そうかそうか!だが安心しろアシタ!ワシら獣人がただの人に負けはせんっ!」
「アスタだっ!ならなんで戦争こんなに長引いてるんですかね!?不思議ですね!」
事前の調べによると、ハノーファ公国とフェルト帝国の戦争はすでに2年ほど続いている。発端はハノーファ国内で外交に出ていたフェルトの民が殺害されたことだそう。たった一件の殺しが戦争にまで発展してしまう。なんと恐ろしいことか。
「数が多いからだな!奴ら弱いくせに数は多いのだよ!それに勇者の一角がいる!あいつは強かったっ!」
まさかハノーファ公国にも勇者がいるのか。しかし勇者に対抗できるこのおっさんもおっさんだ。ステータスを覗かせてもらったが、あのユウトよりも強い様に感じた。敵に回す訳にはいかないな。いくら強くで中身が中身だからビビらないけど…
「で?おっさん。同盟結んでくれるのか?」
「おっさんではないぞ!フェルス=レックスだ!ふむ・・・どうするか・・・」
「やっぱり仲間を殺されたせいか?」
「先も言っただろう。それはあいつらが先に手を出したのだ。逆に2人しか殺さないでくれたことに感謝する。ただ、人間を皆が受け入れてくれるか・・・」
「ココは確かに人間だが、俺とアウレアメトゥスは悪魔だし、ソールとルナは鬼人だぞ?今いる中で、他の下っ端にも人間はいない」
「そうか。なら良いかっ!」
「軽いな。内容もまだ話してないんだぞ?漠然と同盟としか・・・」
「ワシらを騙すつもりなどはあるまい?」
「騙してこちらにメリット無いだろ」
「そうか。なら問題はない!小難しい話は、わしの側近としろ」
瓶ごと酒を豪快に飲み干し、品のない大きな笑い声をあげる。
「はいはい。じゃあよろしくな〜!」
「おうよアレス!」
「名前っ!」
「じゃあ、みんなにはここで待機していてくれ」
「甘いっ!」
「は、はい?」
陽気なおっさんの雰囲気からいっぺんして、強烈な覇気を放っている。酔っ払ってるのか?
【スキル[百獣の王]を感知しました。攻撃、防御のステータスダウンを確認】
「アリス。仮にもお前は王なのだろう?そしてここは他国なのだ。護衛もつけずに動くな。ワシの前では良くとも、他の王どもには舐められるぞ?」
「.....じゃあ、ソール。俺に付き従え」
「はっ!」
「じゃあ!ワシらは飲み直す!アレンの従者たちはもう良いであろう!ワシの酒に付き合え!がぁはっはっは!!」
「はいはい。あと、アスタな」
このおっさんには敵わないな。力的な意味ももちろんだが、それ以上に仲間にも信頼され、王としての威厳があるこんな人のような存在。しっかりと見習わなければ。
こうしてとレックスとの交渉も終わり、次にレックスの側近のエアロさんとの話し合いだ。牛の獣人で知的に見える眼鏡に、まるでビジネススーツの様な服を着ている。どっかの
「────という感じです。こちらがお願いしたいのは、うちの村に資源と食料の提供。出来ることは、増援の派遣や武器の供給くらいなんだけど、他に何か提供して欲しいことありますかね?」
「供給できる武器をここで拝見することは可能でしょうか?」
「あ〜可能ですが、少々お時間を・・・」
「かしこまりました」
と、ソールをつれ一度部屋を退出し、周りに誰もいないことを確認した上で創造を開始する。まさかいきなり見たいと言われるとは想定外だった。
「ソール。誰か来たら教えてくれ」
「わかりました」
出し惜しみはせず残った金属を使い剣を3本ほどと、それを包むための布を作り出した。それをソールに持たせた上で再び入室した。
「こちらです。ソール、彼女に渡してくれ」
「ほほぅ・・・」
眼鏡を取り出して、エアロさんは真剣に剣を見ていた。
「素晴らしい品ですね!加工する際に、ある程度素材の質が落ちるものですが、この剣には全くそれが見られない。作り方を教えてはいただけませんか!!」
剣を見てさんは興奮していた。
「す、すいません。それは企業秘密で」
「そうですか.....残念です。ですがこれほどの高品質の武器を提供していただけるのでしたら、全く問題ないかと」
「それは良かった!その剣は試供品として差し上げます」
「あっ、ありがとうございます!!!」
なぜここまで興奮しているのかを尋ねてみた。話を聞くと、どうやら趣味で剣を打つらしい。
見た目に反してマニアックな趣味だな。
創造で作られる武器が、高品質なのは初耳だ。
「ですが問題がありまして.....」
「なんでしょうか?」
「うちには素晴らしい職人がいるのですが、肝心の素材が不足しております。よければ先に村に素材を送りたいので前金として受け取ることは可能ですか?」
「もちろんです。とすると武器はこの3本のみということですか?」
「まさか。あの3本以外にも、ある程度の武具はお待ちしております。素材の提供がされたと確認され次第こちらにお持ちいたします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
慌てた様子でエアロさんは部屋を出ていく。2人きりになると、後ろからは冷たい眼差しを感じた。
「何故あの様な嘘を?」
眼差しを向けたのはもちろんソール。
「素材があればすぐに作れる。だから素材を受け取り次第、適当に時間稼ぎして武具を作り出せば良いだけの話だろ?」
「なるほど.....」
しばらくしてエアロさんに連れられ外に出ると、金属が入っているであろう木箱を積んだ馬車が5台に分け用意されていた。想定していた量の倍以上だ。後ろから刺す冷たい眼差しがより冷たくなるのを感じる。こんな人が沢山いる状況でどうやって創造しよう.....
「あ、ありがとうございます。そ、そ、それではなのですが.....我が村に伝わる極秘の鑑定で金属を調べたいので.....その、あの、一度この場から離れていただくことは可能でしょうか?」
「なるほど。その様な技術があるのですね」
「皆っ!一度離れるぞ」
「ありがとうございましゅ.....す」
これ以上冷たい視線を送らないでほしい。凍死してしまう。離れたのを確認すると、大急ぎで全ての素材を回収し、なんの価値もない石と木箱の中に詰め、村にいるフェリクスたちに向け詫びの手紙を忍ばせておく。そして荷車を作り出し、創造した武具の数々を中に押し込む。
戻ってからエアロさんに「こちらです」と荷車を見せると「いつのまに」などと驚かれながらも、興奮を抑えきれず、その場で木箱を開け中身をじっくりと堪能していた。
馬車の御者さんたちには
エアロさんが武具に夢中になっている中、こっそりとその場を後にし、俺たちが待機する客間へと逃げ込んだ。
さて・・・やっと本題に入れる。
「やっと解放されたぁ〜」
ベッドの上でだらしなくも、用意された果実茶を飲み干し一息つく。
「お疲れあすた!で、いよいよ出陣するんでしょ?」
「そうだな〜ココ頼むぞ?」
「りょーかい!」
「指揮系統はココに任せる。ココに従って動いてくれ。俺は別行動する」
もちろん別行動と言った途端にソールとルナの目の色が変わる。反対するのは予想がついていた。
「護衛をつけなくてもよろしいのですか?レックスとかいう男の言う通りかと思いますが」
「そうです。せめて兄貴だけでも」
「いや、誘導作戦だからな。俺は敵国を内部から攻める。隠密で行きたいから、1人の方が動きやすい」
「ですが・・・」
「ソール、ルナくどい。アスタ様を信用してないの?」
アウレアの援護射撃は嬉しいが、ソールを煽る様な態度を見せる。もちろんソールが黙っているわけもなく、一触即発の雰囲気.....
「アウレアっ!アスタ様に何かあってからでは遅────」
「────大丈夫だよソール!あすたを信じよ!」
意外にもソールを宥めたのはココ。ソールの肩をグイッと掴み、満面の笑みで親指を立てグッドサイン。一瞬の間を置きソールが大きなため息を吐く。
「……わかりました」
ココのおかげで特に問題なく作戦を遂行できそうだ。準備を終え外へと繰り出すと、フェルトの国民たちは何やら派手な装飾の服を着用し、城から外へ向かう門にかけて道を作り、歌い踊っている。まるで祭りのよう。
「あれは何してるんですか?」
「兵士を送り出すための儀式だそうだ」
「そうなんですね〜」
「俺たちもそろそろ行こうか」
「「「「はい!」」」」
レックス直々に戦場に向かうので安心出来る。今回で戦争を終わらせると、意気込んでやる気は満々のご様子。勇者の存在が不安だが、いざとなればレックスとうちらの幹部陣全員で戦う算段になってる。
それにフェルト帝国には十二将という最強の兵士たちもいる。十二将の中には、あの武器マニアのエアロさんがいるそう。
「我ら獣人の誇りっ!!見せつけるぞ!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
獣人の兵団が雄叫びを上げている。負けじと俺らも声をあげて士気を上げる。
「出陣だっ!!!!!!」
こうして戦争に終止符を打つべく、レックス率いる百獣団と共に、ココたちもたちも出陣して行った。
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