第35話 準備
「みんな集まったな」
現在魔王城(仮)の屋敷にて、エレナ達に集まってもらっている。俺は玉座に腰をかけ、他のメンバーは立っているこの状況がむず痒い。対等にと立とうとしたら、エレナに魔王としての威厳を身につけろと言われてしまった。
「では、まずフェリクス!前へ出ろ」
「は、はいっ!」
「お前を幹部として、俺を一番近くで補佐する秘書になってもらいたい」
「ひしょ…?」
この世界にそのような概念が無いのか…必要なのは役割であり名前は重要ではないからここは強引に。
「ただの役職名だ。名称について深く考えるな。ただ俺が魔王としてやっていくためのサポートをして欲しい。どうだ受けるか?」
「ボクなんかで・・・?」
「俺の目を疑うか?フェリクスが適任だと思ったんだが」
「・・・!そんなことありません!嬉しいです。ぼ、ボクなんかで良ければっ!」
フェリクスの喜ぶ様は凄まじく、いつもは泳ぎまくっている瞳がキラッキラに輝き、俺を一点に見つめている。
「なら頼むぞ!下がってくれ」
「はい!」
俺の目的はこの村を統治するために、信頼できる彼らに幹部として役職を与えて、統治のサポートをしてもらいたいのだ。人口50人程度の小規模な村だから素人の俺で統治できているものの、いずれは大規模な国を建国したい。人間を減らすと言っても減りすぎても問題だろう。俺たちが殺した分、残った者たちが快適に過ごせる居場所は与えてやりたいから。
「続いてココ!前へ」
「はいは〜い!」
ココには街の治安維持の責任者になってもらった。警察てきなポジションだ。天然っ気のあるココだが、仲間を大切に思える気持ちが人一倍強い。なのでこの中で一番適任だと思った。でも流石にココ1人は心配なので、ココの親友であるメロを補佐につけた。
その後も順調に進んでいった。
エレナは村の防衛最高責任者。
カルラとアウレアはエレナの補佐。
ソールとルナは俺の親衛隊。
ネロは建築の才能もあったので、街の発展に関する責任者。
カナタもここ一ヶ月くらいの行動を見てきて完全に信用できるようになったので、将来的に貿易などを担当するための責任者。
・・・といった具合に役職を決めてみた。
不十分なのは承知の上。それは今後調整すればいい。
「よっし…こんな感じかな!」
「あとは3日後について少し打ち合わせをしたい」
戦闘に関しては俺以外の者たちの方が経験は積んでいる。これに関しては魔王云々は関係ないだろう。円卓の間へ移動し、フェリクスが用意していた国の地図を開き、対等な立場で作戦会議を始める。
「フェルトに行く話だな?」
「ふぇると〜?なにそれ??」
「ココ。アスタが入る前に一度冒険者として行ったことあるよ?確か、2つある獣人至上主義国家の国の1つで、人間のココやザックはもちろん。人間と一緒にいる
「さっすがメロ!記憶力良い〜!」
「えっ?」
「え.....?」
「えっ?」
いかん。思わず声が出てしまった。ココもメロも自分がおかしなことを言った?みたいな雰囲気になっている。待て。メロは人間じゃないの?
【貴方は本当に.....メロのステータス欄見ましたよね?しっかりと種族名のところに[妖精種]と書かれていましたが?】
(まじでごめんなさい)
俺は興味本位に右に座るメロの髪をふわりとかきあげてみた。その瞬間に全員の視線が集まる。左に座るエレナは「ナッ!」と声を上げ、目を見開き、椅子から思わず立ち上がっている。やってしまった。もしかしてエルフのしきたりに耳を見られてはいけないというものがあるのかもしれない。チラリと見えた耳は、何故か赤く染まっていたが確かに尖っていた。
【狙ってやっているならまだしも、無自覚にそこまでしてしまうのは、もはや才能ですねアスタ様】
「あっ、あぁ。俺はフェルトと協力したいんだ」
「そうなんだー!」
ココも俺のフォローを入れてくれているのだろう。なんで頼もしい仲間なのだ。
「それで、人選は俺、ソール、ルナ、ココ、アウレア、メトゥスで行こうと思う」
「私は居残りか?」
「すまないなエレナ。けど、この村の防衛もあるだろ?」
「確かに否めないな」
「この街は私が守る。他所から来たお前らに守られなくても平気だ。だから安心して行ってこい」
「ありがとなカルラ!」
「ふんっ」
カルラも少しではあるが心を開いてくれているようだ。ツンデレ彼女みたいになっちゃってるがな。話を終え、それから城の外にて民を集め、10人を正式に任命した。ここの村の民は、人がいいのか俺たちよそ者も簡単に受け入れてくれている。嬉しいし、楽なのだが、なんか逆に怖かったりもする。
まぁ難しく考えすぎていても仕方ない。
さて…
まだ村でやりたいこともあるがとりあえずはひと段落。やっと魔王として行動できる。嬉しくはないが、もうあまり時間が残されていないしな。
フェルトに向かう準備をもう少し進めねばなければ!対等に交渉をするため、見た目などで舐められないようにしなければ…
まず、自身の身なりからだ。
こちらの世界に来てからというもの、髪型にこだわっていなかった。
まぁ前世でもボッチなので見た目に、気を使ったことなんて無かったのだが?
水浴びで汚れを落とすのが支流な世界なので、お風呂なんて月に数回程度だ。香料のあるシャンプーや石鹸といった類の物は貴族などの金持ちしか使わない。ブラフを張るためにも、そういった細かいところまで意識するべきだろう。
金持ちが時計や靴といったステータスに金をかける理由も今となって必要性を理解できる。
なのでまず石鹸を作りたいのだが、石鹸の素材となるグリセリンがこの世界で簡単に入手は思えない。仕方ないので、代用品である蜂蜜を使おう。
蜂蜜は簡単に手に入る甘味としての人気が高く、蜂型のモンスターは駆除されず養殖されるほどだ。なのでとりあえず、そういう関係に詳しそうなネロを玉座へと呼ぶ。
「ほいほ〜い。呼ばれた!飛び出た!ジャジャーン!」
と、水蒸気が発生する手のひらサイズの魔具で演出をしながらネロは現れた。やっぱり苦手だ。
「なぁネロ?蜂蜜が大量に欲しいのだけど、どうすればいいと思う?」
「お菓子でも作るのかイ?」
「それはできてからのお楽しみだ」
「ケチだなぁ〜。まぁいい。蜂蜜なら金さえあればハノーファで大量購入できるぞ?」
「行ってきてくれるか?」
「えぇ〜めんどくさいよ。遠いし、荷物多いだろうし。こんなか弱い乙女に重労働をさせるきかい〜??」
「そういうと思って、乗り物を用意したのだが…」
「ほほ〜う?」
「俺の家に行くぞ」
「家で2人っきりでナニを!?」
「はいはい」
ネロの冗談はたまに童貞の俺を困惑させるものがある。女性としてはだらしがなく感じるネロだが、服の胸元がパツパツになるほど大きなモノを持っているし、おかしな格好に目を瞑ればそこそこ美人。変なことを言うと俺がいじられてしまうと思い、無視して家に向かうことにした。
「あ〜!悪かったよ。置いて行かないでくれたまえ〜!!」
「転移魔法とかあれば、ここまで来るの楽だよな〜」
「確かにねぇ」
家に着くと俺はネロに、待機させていた騎乗型のモンスターをお披露目した。シルエットは神話のペガサスそのもの。翼の生えた馬。しかしシルエットは神秘的でも、実際には体毛は無く、代わりに龍を彷彿とさせる銅色の鱗がびっしりと生えており、目も爬虫類を感じさせ神秘的とは別の存在感を感じさせる。翼は猛禽類の翼に酷似しており質感は金属に近い。馬のふさふさ尻尾は全体を見ると不釣り合いに見えてしまうのはご愛嬌。
もちろん俺が創った生物で、村の衰弱していた家畜の
名前はトランパルトと名付けている。レベルは驚異の70。ラッキーなことに優秀なスキルや魔法も習得しており、今後の活躍が期待される。
ネロが襲われても、ある程度の敵ならトランパルト1匹で対処可能だろう。
フェリクス先生からの情報で、
「お前専用ってわけじゃないけどな、これ乗っていいから行ってきてくれるか?」
「仕方ないねぇ」
少し話しながら村の外まで行くと、俺たちに気づいたメトゥスが現れた。
「アスタ様ヨ。我ガ彼女ノ護衛ヲイタシマショウカ?」
「メトゥスは目立つからダメ」
露骨にがっかりしている様子だったので、慌ててフォローを入れる。
「け、けど、お前の力をノイスを攻めるときに貸して欲しいんだ!」
「カシコマリマシタ!」
なんやかんやでメトゥスは他の
「デハ、山ヲ越エルノハ大変ナノデ、我ガトランパルトゴトネロヲ、抱エテ山ノ向コウマデ我ガ連レテ行キマショウ」
「頼むぞ。ネロもそのまま行ってきてくれ」
「高くつくからな〜」
「何かご褒美考えとくよ」
「期待してるネ〜。いってきまーす!」
そう言って、ネロはハノーファまで蜂蜜を調達するため出掛けていった。
「さーてと・・・今のうちに武器や防具を新調するか」
俺の戦闘服はある程度決めている。
この刀に合うように、和服をイメージしたものにする。とりあえず針と糸を創造で作り、布を適当に縫い合わせ続けた。服を作っているのではなくスキル獲得のためだ。
前にハノーファの街の服屋の主人を鑑定した際に、[裁縫]というスキルを持っていた。
それが欲しいのだ。
一時間ほど縫い続けているといつものアナウンスが流れる。
【熟練度が一定に達したため[裁縫]を獲得しました】
ナイス!!
「さてと!作りまs…」
作るために素材が足りないことに気がつき、久しぶりにエッセン山岳に来た。
木綿に似た植物など、そこら辺に生えている草類を収納しまくった。
ヘルネ洞窟にも足を運び落ちている石なども収納しまくった。今日中に終わらせるはずが、素材集めだけで夜になってしまった。
だが、おかげで色々な素材が十分に集まったので、結果オーライだ…が…
「どこに行っていたのですかアスタ様っ!」
帰って早々にソールとルナに正座をさせられ説教された。しっかりと自分たちの役目を理解しているようで安心したが、説教が長くおかげで足が痺れた。
「足がまだジンジンする…」
「探したよ〜!蜂蜜買っておいたぞぉ〜」
「ありがとなネロ!」
「褒美を楽しみにしてるねんっ!」
「期待しとけ!」
部屋に大量の蜂蜜が入った瓶が置いてあった。
せっかく手に入ったのだが、まだ装備も完成しておらず、やる事が盛り沢山だ。
「て、徹夜するか…」
早速作業を始めることにした。
創造と裁縫のスキルを併用して、まず生地を作る。自分1人では大変なので、
木綿もどきをベースにした生地で、鉄をとても細く糸状にしたものを魔力を込めて編み込み元となる布を用意する。軽く動きやすいが強度も高い作りで、魔力がこもっているのでさらに強度が上がっている。その生地を鑑定を使い解析して、あとは
まず自分用に紺色ベースの袴を作ったが、服の形状に慣れておらず、動きにくかったのでボツになってしまった。だがかっこいいデザインで気に入ったので、戦闘用で無く城内などで着用する正装として使用することにした。
その結果、和服をイメージして、動きやすいように現代風の服と融合した服を作成した。今度はしっかり動けるし、デザインも洗礼され格好よく仕上がっている。刀との相性もバッチリだ。
続いてココの服だが、アサシン風に仕上げることにした。ヘソ出しで腰に大きなベルトを二重に巻き、腰の部分に短剣を入れる袋と、ポーションを入れられるポーチをつけた。そしておまけで、裏地が黒い白のフードマントも作ったら・・・完成っ!
どんどんやろうっ!
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