第33話 新たな日常

この村を拠点にしてからやることが10倍増しになった。まず村人の安全の確保。メロとルナが解いた結界は不可視化と侵入を拒む物だったが、再び結界を展開するのは不可能と言う。


理由は結界を展開するために使っていた魔具の劣化が深刻で、勿体無いことに結界を解かれた際に完全に壊れてしまったのだ。


なので全員総出で村に柵を建てる作業を行った。これがまた不便で荒野という環境のため、周辺に木材を確保できる場所が全く無く、仕方ないので辺りの砂や石などを片っ端から異空間に収納して、想像で灰色の煉瓦とコンクリートの素を造り出し、村を覆うように壁と門を作った。木材なら話は早いのに、想定以上のコストがかかってしまった。さらに仮設ではあるが俺たちが住む用の家を数軒建てた。


作業のキリが良い頃合いを見計らい、村の民を城の下に集めて、フェリクスが魔王の座から降りることを宣言したもらう。そして新たに俺をこの街を治める者だと紹介し、俺が改めて村を統治することを宣言をした。批判を受けると思っていたが、全員跪きすんなりとよそ者である俺を認めてくれた。正直、石くらいは投げられるものだと覚悟していたのだが.....?


強き者に従う。弱い者が口を挟むなどあり得ない。とその後エレナに教えてもらった。



【特定の条件を満たしたため[統治者][魔王]のスキルを獲得しました】



また全員が跪いた瞬間に、このアナウンスが流れた。あっけなく魔王になったがとても忙しく、落ち着くまで一ヶ月近くかかった。世界崩壊までの時間を考えるとそろそろ動き出さなくてはいけない。



「あ、アスタさん。おつかれさまです」



日課となっていた村の見回りを終え、フェリクスの元家、現際は俺の家へと帰る。もちろんフェリクスやカルラを追い出したわけではない。一部屋もらっただけ。硬いベットにダイブし、ゴロゴロしていると、フェリクスが労いの言葉と共に味の薄い紅茶風の飲み物を出してくれた。



「ありがとう。そう言えば、フェリクスがウルムにモンスター送ってるんだろ?半竜ワイバーンとかってどうやって呼び出しているんだ?」



「あっ、それ…実はもうほとんどいないんです。ぼく達のこと殺そうとしてるから、ウルムを滅ぼせないかなって・・・滅ぼせなくてもまだまだ力があるってブラフ張れるかなって、宝玉に閉じ込めてたモンスター全て放ったんですよ。悪魔と死人種類はボクが召喚しましたが」



強力な結界展開できる上にモンスターまで閉じ込められる宝玉かぁ。壊れたのがとても残念だ。


そんなことより・・・



「な、なんかごめん」



「なんでアスタさんが謝るのですか?」



「いや、俺たちがほとんど倒した」



「やっぱり強いんですね!アスタさんたちは」



「いやいや!まだまださ。もっと強くならなきゃ!」



「そっか.....ちょっと待っててくださいっ!」



何かを思い出した様な表情を浮かべると、勢いよく俺の部屋を飛び出しどこかへ行ってしまった。



「おう?」


ほぼ同タイミングでコンコンと開きっぱなしの扉をノックし、彼と入れ違いでエレナが来た。


 

「少しいいか?アスタ」



「もちろんだよ!」



入ってきて気がついたが、エレナの服装。おそらく村人からもらったのであろう。素材として微妙だろうがとても女性らしく可愛げのあるワンピースだ。普段の戦闘時の格好と比べてエレナの可愛さがより一層際立っている。



「だいぶ落ち着いてきたが、もうそろそろ行動を起こさなければいけないのでは?」



話を進めながら、エレナはゆっくりとこちらへと歩き、俺が座るベットに腰を下ろす。



「あぁ。だからノイス連合国って国を攻めようと考えているんだ」



「なぜウルムではないのだ?」



「この村自体を不可視化出来なくなったから、あまり近い国を攻めると拠点の場所がバレる可能性があるからな。それにノイスはフュルト帝国って国と長年戦争をしていると聞く。フュルトは獣人至上主義の国!人間よりも協力してくれる可能性は高いから上手く同盟を結んでノイスを潰せれば、フュルトに貸しも作れるし一石二鳥だろ?」



「ふふっ。悪いやつだ」



「へへっ。魔王.....だからな?」



「なぁアスタそれと────」

「────遅くなりました!」



「おう!で、どうしたエレナ?」



「いやなんでもない。フェリクスと取り込み中だったのか失礼する」



「ありがとなエレナ!」



「あ、あぁ.....」



なぜか少しモジモジしながら部屋を後にしたのが気になるが、エレナのことだ。大丈夫だろう。



「これなんですけど・・・」



フェリクスが持ってきたのは、古い書物のような物だった。



「読んでも?」



「構いませんよ」



書物を開いてみると、教科書でみたヒエログリフに酷似した文字が並んである。しかし全く読めない.....



【古代の文字のようです。スキル[翻訳]の獲得を推奨します】



(どうやって獲得するのさ)



【適当に翻訳してみては?】



(え?)



【だから読む努力してみたら?】



(あ、アテナさん怒ってます?)



【いいえ】



2時間ほどかけて少しずつ関連性を見つけてたりして解読した。すると恒例のアナウンスが流れる。



【熟練度が一定に達したためスキル[翻訳]を獲得しましたよ?】



「あ、はい」



「ど、どうしました?」



思わず声を出してしまい、フェリクスがびっくりしてしまったでないか。



「ごめんごめん。なんでもない!」



【続けて[翻訳]を私に合成を推奨します】



(どーぞ!)



【承認されたため実行に移します。合成中………成功しました】



今更だが、自分の意識から生み出されたと思えないくらいに、守護神アテナはしっかりしてる。本当に守護神アテナには頭が上がらない。



【翻訳を開始します。下位悪魔召喚サモン・レッサーデビルについて…】



アテナに読んでもらった結果分かったことは、この書物はいくつもの魔法が記されているものだった。これまで何事もなく魔法を使ってきたが、未だに魔法についてよく知らないので、それも学ばねばならないと思う。



(ここに書かれているもの覚えられる?)



【全て覚えられるかは不明ですが…可能です。書物に目を通し続けてください】



(了解です!)



それから書物を一通り読んでみた。


だが、文字が消えていたりして結局覚えられた魔法は[闇の矢ダークアロー][下位悪魔召喚サモン・レッサーデビル][魂喰いソウルイーター][生命力吸収ライフ・ドレイン][精神崩壊スピリットブレイク]の5つだ。しかも全て闇属性の魔法らしい。



「ありがとうなフェリクス!」



「い、いえ。ですが、もういいんですか?」



「あぁ!」



守護神アテナが読解から習得まで全てを進めているので、ぶっちゃけ時間は要さない。あまりにも読み終えるのが早いので、興味がないと思われたのだろう。



「あんまり役に立たなかったですか・・・?」



「そんなことないぞ!本当に役に立つ!」



「なら!良かったです!」



「あ、そうだ。他にも魔法の知りたいんだけど…書物もあったりする?」



「すいませんが、魔法についての書物は何冊かあるのですが・・・光属性の魔法に関する書物が多くて、アスタ様の属性的に覚えられる可能性がある魔法を記したのはそれだけで、とりあえず持ってきました。なのでアスタさんの役に立つ書物はこれ以上ありません・・・」



ふーん。そっかそっか・・・


ん?


オレノゾクセイ?ナニソレオイシイノ?



「え、えっと…俺の属性って何?てかなんで知ってるの?」



そういえば鑑定する際に属性が名前の隣書かれていたような?



「・・・え?み、みんなこの世に存在する生命には必ず属性があるんですよ?結構常識かと。あ、僕特殊でしてその人の属性を見ただけで分かるんですよ」



「すまない。俺この世界の常識とか疎くて」



フェリクスの、まるでゴミを見るようなその目線が痛々しい。恥を忍んで、フェリクスに色々教えてもらうことにしよう。



「フェリクス・・・いや、フェリクス先生?属性について詳しくと、魔法の基本知識とか教えて頂きたいのですが・・・」



その言葉を聞いたフェリクスはなぜか嬉しそうに、どこからかメガネを取り出し装着する。



「しょうがないですね!しょうがないので!!教えてあげましょう!!」



消極的なフェリクスがハキハキと大きな声で喋り始めて驚いたが、楽しそうで見てて悪い気がしない。



「これより授業を始めますっ!!」



「お願いします」



こうしてフェリクス先生による授業(科目:属性)が始まった。

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