開国
第31話 新たな地
まずい。
とてもまずい。
町の至る所で検問をしている。俺たちはすでに立派な指名手配犯らしい。魔法で発展しているこの世界の情報網は、前世の世界を凌駕している。
「どうするのアスタ?」
「ケルン大森林のゴブリンが前に巣にしてた洞窟に一旦避難するか…」
と言ったものの、指名手配犯されているのは俺とカナタのみなのだが.....なので翌日、俺とカナタ以外は街で休息を取らせた。
エレナも一応指名手配されているが、ユウト以外に顔はバレてないし、俺たちの方に注目が集まってるので休息グループに同行させた。
「なぁなぁカナタ?今更だけど、アスカワじゃなくてアスタって呼んでくれない?転生者ってのまだバレたくないんだよね」
「いいけど、鑑定使えばバレるんじゃ…?」
「一般人にならみられてもわからないだろ」
「知らないのか?鑑定は転生者しか使えないんだぞ」
「えっ…初耳だ」
「そうなのか…本当に無知だな。前世は小学生ながらテストは全て満点!あれだけ頭よかったのに!」
「関係ないだろ。あっ!お前に文句あったわ。お前が死んでから俺ずっとボッチだったんだぞ?1人にしやがって!」
「すまなかった。こっちにきてからも、アスタのことが心配だった。案の定1人だったのか。お前は社交的じゃなかったからな。でもずいぶんと変わったな!今のアスタは生き生きしている」
「仲間が出来たからかな?」
本当に酒場でザックたちにパーティーに誘われていなければ.....
エレナと出会わなければ.....
創造されたのがソール、ルナ、アウレアでなければ.....
俺はユウトを倒せなかったと思う。
「それでだが…魔王になるにあたって魔王城的なのが欲しいのだけど?アテある?」
「魔王は今も2人現存しているぞ?片方は建国して王様をしてる。もう片方に関しては、僕たち転生者でも見つけられていない。噂だが強力な結界を貼った町があるとか無いとか…」
「けど、アウスブルクに魔王軍が攻めているんだろ?」
「そうだな。案外近くに存在しているのかもな」
となると、仲間達の休暇が終わり次第あたりの偵察を行った方がいいか。今回の休暇はエレナたち女性陣は普通に宿に宿泊してもらい、俺たち男性陣はこの洞窟内で過ごす。別にソールとルナもフカフカのベッドで休んでもらって良かったのだが、俺たちが2人きりでこんな洞窟に閉じこもるのは可哀想だと残ってくれた。何でいい子たちなのだ。
念の為、女性陣が帰ってくるまでの間に問題が起きても困るので俺たちは洞窟内から一歩も出ないことを徹底しており、食料の買い出しをソールたちに頼んでいた。買い出しから2人が戻ると、彼らも交えて談笑をしていた。
「あはははっ!アスタがそれでな!」
「うっ。その話は.....」
「いいじゃねーか!」
【近くに、人と思われる生命体が複数接近中】
「待て。何か来たみたいだ。静かに.....」
ガシャン!骨が落下するような音が何度も鳴り響いた。侵入者対策として配置していた
「アスタ様、自分たちが処理を?」
「いや、奥まで行ってやり過ごそう」
創造で
素材を無駄にしてまで時間稼ぎするハメになるとは、こういう時に召喚系魔法が欲しい。
洞窟の最奥にある開けた場所まで行くと、そこにあった
そして
2mくらいの背丈をした腕が四本ある
(
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名称不明 Lv50 [土属性]
[死人種][剣士Lv1]
体力 1000
魔力 300
知力 65
攻撃 2500
防御 1400
魔法攻撃 90
魔法防御 340
素早さ 670
スキル [創造物Lv1][斬撃Lv1]
[火耐性Lv1]
魔法なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
種族レベルはそこそこ高いけど、正直強くないなぁ。ほんの少しでも強化するためにそこら辺の石ころを[異空間]で収納した上で、[創造]で石の剣に加工して
その後は隠れて様子を見ていると、せわしない様子で、見窄らしい灰色の全身鎧を身に纏った騎士達が奥地まで走ってきた。
キョロキョロと松明で辺を照らしながら、騎士たちは必死に何かを探してた。
まぁ・・・俺たちのことだろうけど。
一人の騎士が奥に松明の火を向けると、俺が造った
「ひぃぃぃ」
という情けない声を上げたり、震えている者もいた。正直予想外な反応だった。
俺たちが隠れていることをカモフラージュするために配置しただけで、倒されると思っていたからだ。
(アテナさん?アテナさん?何でこんなことに?)
【騎士のレベルが低く、あの程度の
鑑定も行なったが、騎士達はものすごく弱かった。結局誰一人として、
3人とも目を輝かせて俺を見つめていた。
「「さすがですっ!アスタ様!」」
「すげぇ!こんな強いの呼び出すなんて!」
「あ、ありがとう?」
洞窟の小部屋から出ると殺気感知のスキルが反応した。振り返ると先程創った
俺は咄嗟に手を前へ出しながら叫ぶ。
「止まれ!」
命令をすると
(アテナ。俺が創ったのになんで襲い掛かってきた?)
【この
(え?でもソール達は俺以外とも友好的だったじゃん)
【おそらく知力の数値が問題なのではないですか?今まで造った三名はアスタ様の仲間を識別する程度の知性を持っていましたが、今回の
まぁ納得。
「アスタ様。この不届き者の
「待てソール。
俺が命令を出すと
創って洞窟に放置するのも可哀想なので、ボーンキングと名前をつけた上で、追加で
【条件を満たしたため、スキル[死霊術者]を獲得しました。それにより新たに召喚魔法〈
なにっ!召喚魔法だとっ!思わぬ副産物を得られたのはものすごく嬉しい!!でも条件を満たした?初めて聞くフレーズだ。
(なぁ、条件を満たしたってどういうこと?)
【はい。複数の死人種を召喚したことで獲得できたスキルです。そのような条件で獲得できるスキルを称号スキルと言います。他にも特定の行動をすることで獲得できる称号スキルがあります。今回は召喚魔法を覚えていない状態での、前提条件を無視した達成ですが】
なるほどな。行動一つでスキルが手に入るなら、これも色々解放条件を探すのも楽しいかもしれない。その後は洞窟内で俺の召喚魔法を試しながら魔法のレベルを上げつつ、呼び出されたモンスターは残りの3人の練習台として戦ってもらった。
6日目の朝、いつも通りの模擬戦を行なっていると、洞窟の入り口の方から複数の足跡が聞こえてきた。エレナたちだろうが、もしかしたら前回の騎士どもが仲間を引き連れ洞窟を制圧しにきたのかもしれない。
「ボクが様子を見てきます。兄貴はアスタ様達の護衛を」
「あぁ。この身に変えてもアスタ様はお守りする」
「頼んだぞ2人とも」
「「はっ」」
ルナが入り口に向かってすぐに、大声が奥にいる俺達にも聞こえてきた。
「ただいま〜〜〜!!!」
それはココの底抜けに明るい声。味方だと分かり、俺たちも洞窟の入り口まで行くと、ココは自分のポケットに手を突っ込み何やら物を取り出そうとしている。
「あすたぁ!お土産だよっ!!」
上機嫌のココに、何故か干し肉をひとかけらだけ渡された。
「あっ、ありがと」
外から差し込む久しぶりの日差しに目が眩むが、何となく見えたココとメロの2人。戦いが終わってからどこか元気がなかったので、今の2人の様子を見て安心した。
「休暇も終わっことだし、みんな集まったところで話がある。ユウトとの戦いからすでに一週間が過ぎたとはいえ、いずれここに居ては見つかるだろう。だから前に戦った魔王軍がいるだろう?あたり一体に拠点があると思うんだ。魔王を倒して拠点を奪おうと思う」
「それは構わないが、私たちで勝てるのか?魔王の力量もわからないのだぞ?」
エレナの意見もわかるが、本音をいうなら隠れて過ごす生活がもう耐えられない。早急に拠点が欲しい。
「私は、この洞窟でもいいんだぞぉ〜?」
留まる意見もわかる。強くなってから拠点を手に入れ.....?今の声、俺の知ってる仲間の声じゃない。
「.....ん?」
「ん〜?」
「いや、誰も突っ込まないし紹介もないから幻覚かと思って無視してたわ。なんでここにいるんですかネロさん?」
いつぞやのデート中に立ち寄った武具屋の店主が、当たり前のようにエレナの横に立っていた。
「お姉さんもアスタ魔王軍のメンバー入りしたのだよぉ〜?」
「えっと…エレナ?説明して欲しいんだけど?」
「あぁ…悪かったよ。今後の話をしているのをネロに聞かれてしまってな。仲間にしろ仲間にしろうるさいので連れてきた。秘密もバレているし野放しも良くないだろう?」
彼女がいい人なのは知ってるけど.....性格がどうも苦手だ。
「ネロさん。仲間になるのは構いませんが、かなり非道なこともしますよ?」
「構わないサ!今のこの腐った世界に一発ぶちかましたいと思っていたからねぇ〜」
「は、はぁ.....」
かくして、新たにネロさんが仲間に加わった。
「じゃあ話の続きだ。と言っても大まかには伝えたし、実戦あるのみなんだけど…何か聞いておきたいこととか意見ある?」
「質問です。魔王が住む場所って結界があるって聞きましたけど・・・解除出来ないかもしれなくないですか?」
「確かにそうだなメロ。だからお前とルナに結界の解除を頼みたい。優秀な魔道士である2人ならできるだろ??」
「かしこまりました」
「わ、私だって!」
突然、ルナを押し退けてネロさんが誇らしげに親指を立てながら俺へと近づく、
「私、結界解除とかそういうの得意だよん!」
「う.....な、ならルナの代わりに任せます」
「改めて、みんな頼んだぞ。じゃあ、明朝に出発するっ!」
『了解!』
残念ながら今日も洞窟で寝ることが決まってしまったが、魔王とやらは、ユウトと同等以上の力を持つかもしれない。何にしろ、戦闘になった際の作戦は練っておきたい。それに今日はネロさんも含めた9人もいるため、不思議と楽しく夜を過ごせた。
翌日・・・
「おい!ココ起きろ!!」
「後十分だけ…」
ココだけ起きる気配がない。まるで休日のおっさんの様に、腹をボリボリ掻きながら股を開き寝ている。
「いいからっ!」
無理矢理腕を引っ張っても起きない。こうなれば水をぶっかけてやろうか。
「私が持っていく」
「た、頼んだエレナ」
朝からグダグダ。エレナも内心呆れているのか、ココを荷物みたいに担いでいる。その状態でも、寝ているココもココなのだが.....
そんな調子でウルムの王都近くの荒野にやってきた。相変わらず
「もうすぐだ」
「ちょいちょい??」
ここに来て、大荷物を抱えながら最後尾を歩いていたネロが、最前を歩く俺の肩を指でチョンチョンと突いてきた。
「どうしました?ネロさん」
「タメでいいのにぃ〜」
「そうか。なら遠慮なく。で?どうしたの?」
「私、戦闘全く出来ないよん??」
「あ、僕も戦いは無理かな〜」
「ネロは分かるけど、カナタもか??」
「最弱って言ったろ?僕は索敵だったり回復をするサポート役だからね」
「なるほど。アウレア2人の護衛を頼む」
「かしこまりましたアスタ様っ!」
「とりあえず!モンスターをある程度排除しよう」
念の為、主戦力のアウレア、ココ、エレナの3人は温存しつつ、俺とソールとルナとメロの4人でモンスターを駆逐していったのだが、数がとても多くて、全て片付けるまで二時間近くかかってしまった。かなり疲弊してしまい、現在は王都から離れた荒野の地でテントを創造し、見張り役を2人ずつ配置しつつ、交代しながら休息を取った。
テント内にて。
「ふぅ。疲れましたぁぁぁ」
「おつかれぇ〜メロちゃん〜」
「ありがとうございますネロさん!」
「.....むにゃ.....」
「アスタ様。戦ってて感じたのですが、やはりなんらかの結界がありますね」
ルナは何かしらの結界を感知していた様だ。他の者たちにも聞くと、ネロとメロは同様に何かしらの結界の存在を感知していた。
(
【確認できる範囲に反応ありません。ですが、前方に僅かですが自然に発生したものとは違う魔素の痕跡があります】
まじか。魔王の目の前で、呑気にテント立てて休憩取ってたとか。まさかRPGの魔王みたいに全力で来いっ!てことなのか?それとも気がついてないのか.....さすがに魔王と称される者だから前者だろうな。
休憩後、
【やはり痕跡があります。前方に向かって何かスキルか魔法を放ってください。出来るだけ威力が高い方が良いと思われます】
「
放った瞬間、何かに当たったような感覚があった。突然俺がスキルを放ったものだから全員が驚いていたが。だが俺に向けられていた視線は、すぐに無くなった。
【やはり結界があります】
「やはり結界があるな。手筈通りネロ、メロ。頼んだぞ」
【・・・】
「あいよんっ!」
「任せてください!」
結界が降りている箇所にネロが手をついて、メロがネロの背中に手を当てて魔力を流す形で結界の解除を行い始める。
解除した途端襲われる可能性もあるため、結界を解く2人の背後にアウレアとソールを。カナタの守護をルナに任せ、俺がまだ寝ているココを抱えるエレナの守護を行う。
全員が緊張した眼差しで2人を見つめる。難航しているように見えたが、しばらくして結界に歪みが生じ始めた。
「もう溶けるから、みんな私を守ってねん!」
「任せろ」
ネロの発言から数秒後に結界は液体のように崩れ去り、結界が覆っていた箇所から小さな村が現れた。家々を見るがお世辞にも立派とは言えず、そのどれもがボロボロだ。
不安そうな物珍しそうな表情で物の影から村人たちが覗いている中、念の為アウレアとソールを先頭に武装した状態で村の中に進んでいく。
「普通の村ですねアスタ様。あーしが滅ぼしましょうか?」
何を言ってるんだか。俺たちだけでこの村を管理できるわけがない。恐怖でも良いから統治を考えているのに、と今にもスキルを放ちかねない殺気ムンムンのアウレアの頭に強烈なチョップをかます。
「今は魔王にだけ用があるんだ。不用意な行動はよせ。こんな小さくてボロい村にいるか疑問だがな」
「失礼しました.....」
「いや、俺のために働こうとしたんだ。次から気をつけるなら謝る必要はない」
「はい。ありがたきお言葉っ!」
村に足を踏み入れたが、誰一人として襲ってくる様子はない。村には人間だけでは無く獣人の姿もちらほらあった。
「もう食べられにゃい.....」
ちなみにまだココは寝ている。
ボロい家が並んでいるだけだが、中心あたりに一軒だけ他の家に比べてとても大きく、比較的綺麗な家があった。魔王がいるとしたらここしかないだろう。俺たちは魔王城であろう家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます