第28話 アスタVSユウト②

ソールとルナの戦闘と同時刻・・・


マクデブルク遺跡から少し離れた開けた草原にて。



「負けました」



「はぁ?あーしはまだ一歩も動いていないんだけど?」



男のくせに呆れる。両手を上に降伏のポーズを取り、私が剣を下ろした瞬間、凄まじい速度で私に短剣を突き立ててきた。もちろんそんな攻撃を避けられないはずもない。何故ならあーしはアスタ様に創られた最高傑作なのだから。



「くだらない。こんな攻撃くらうとでも?」



「悪魔風情が、無駄に強いらしいな」



「人間風情が、あーしに勝てるとでも?」



この男はどうやら、正面から攻撃を仕掛けても負けるということを理解しているっぽい。それがわかる知能は褒めたいところね。そんなことを考えていると、いつの間にかあの男が消えていた。逃げたわけじゃない。どこからか攻撃するつもりだろう。



「暗殺士は本当にめんどくさいわね〜」



と言ってもあーしには通用しないけど?



千本槍クレイア・モア



「くっ…」



あーしを中心に地面が無数の棘となり隆起する。範囲攻撃魔法を適当に打ち込んでみたが当たったみたい。ヨロヨロよろめきながら男が姿を現す。何かしらのスキルで透明化していたのか。


「あらあら…脇腹に刺さったのね〜苦しいでしょ??」



「黙れ。このくらいハンデだ」



「ならまだ平気ね♪」

爆発エクスプロード!〉



千本槍クレイア・モア〉がかなり効いているのか、〈爆発エクスプロード〉も直撃した。防御に優れているのか、何かしらの魔具かスキルか魔法か.....まだ死ぬ気配はない。


加えて一度透明化されると探知系のスキルに引っ掛からなくなるので発見が困難。先ほどのように近づいてきてくれれば範囲攻撃を叩き込むのだけれど。面倒くさいにも程がある。



電球サンダーボール!〉

電球サンダーボール!〉

電球サンダーボール!〉



少しでも音の鳴る方向へ無作為に魔法を連発し、何とか姿を探る。しかし奴の姿を捉えることはできない上に、四方八方から投げナイフが飛んでくる。



「飛んでくるのが高ランクの魔法なら、まだやる気が出るんだけど.....雑魚相手って、なんだかやる気が出ないわね.....ふぁぁ〜」



しかしアスタ様から承った指令。これ以上時間をかけるのはあーしの価値を下げる。背に携えた剣を抜く。



「行くわ」



剣を両手でしっかりと握り締め、剣の重さを利用し、スキル斬撃スラッシュをのせた一回転斬り。風圧だけでも触れれば傷を負うのは免れないだろう。背後で何かしらの物体が木に激突した音がする。


振り返ると哀れな暗殺士の男が転がっている。すでにボロボロ。どうやら必死に耐えていただけのようで、電球サンダーボールも直撃していたよう。


倒れ込み動けない男に近づくことなく、魔法で処分することにした。



「さようならぁ〜〈頭蓋骨噛みスカルファング〉」



紫の魔法陣から紫炎を纏い、尖った歯を持つ黒い頭蓋骨が数体飛び出し、男の左肩、右の手のひら、右の胸、右太もも、左頬をそれぞれ噛みちぎる。



「ふっ。ははははっ」



しかし男は笑う。



「どうしたの?壊れちゃった??」



「いや、作戦通りで愉快なだけだ。死ぬといい淫魔。スキル逆襲カウンター発動!!」



突然視界が眩み、吐血をし思わず膝をついた。同時に男についていた傷が全て消えてなくなっている。



「何をしたっ!」



「貴様が与えた分のダメージをそのまま返す技だ」



「それを耐える体力!お前にないだろ!!」



「冥土の土産に教えてやる。魔法[無敵耐久ペイシャンス]だ。発動すると一定時間どんな攻撃でも耐えることができる。その代わりステータスが大幅ダウンだがな」



「くそがっ〈不死者の軍隊アンデット・アーミー〉」



苦し紛れではあるが、不死者の軍勢アンデット・アーミーにより、動屍ゾンビ骸骨スケルトンを中心に30体ほど召喚した。自動回復を持つあーしは、時間を稼げばまだなんとか立て直せる。


ゾンビやスケルトン程度はすぐに倒されるだろうけど、防御力の値が高く死ぬと爆発する特性のある膨張死体ファットゾンビ。戦闘力が高く、麻痺のデバフを与えることもできる人喰鬼屍グールも混ざっている。これなら時間を十分に稼げるだろう。



「驚いた。Aランクに分類する魔法を瀕死の状態で使うとは…確かにこれらは厄介だな。逃げるつもりかな??」



「うるさい!行けっ!!この男を殺せ!」



ガァァァァァ!と叫びながら一斉に動屍ゾンビたちが動き出す。仮にもザックを殺したあの実力者の側近らしき男。我先にと飛び出す骸骨スケルトン三体を瞬殺し、続け様に動屍ゾンビの首を短剣で跳ね飛ばした。その隙に背中に格納している翼を生やし、宙で回復を待ちつつ高みの見物を決め込む。


だがやはり所詮は騙し討ちや姑息な手を使う小者。やはり戦闘力が高いわけではないらしい。ステータスの大幅ダウンを終えた後もなお、膨張死体ファットゾンビ人喰鬼屍グールを前に少しだけ善戦している。正確に言えば持ち前の速さでモンスターたちを翻弄しているだけ。攻撃は当たらずとも、逆に有効打を与えるに至っていない。暗殺士は二体と戦いつつ、チラチラとあーしを見てくる。早く目の前のモンスターを片付けてあーしに攻撃を加えなければ、時間経過と共に体力が回復してしまうのだから。だがその焦りが油断を生む。

一瞬あーしに気を取られた瞬間に、膨張死体ファットゾンビに左腕の根本を掴まれ、そのまま曲がる方とは逆の方向に曲げられる。骨の折れるいい音が響き渡り、思わずあーしは吹き出してしまう。あーしも油断していたとはいえ、こんな弱い奴に良いようにやられた自分自身が可笑しくて仕方ない。



「どう?楽しめてるかなっ!」



「懲りずに降りてくるとは」



「あら元気そう。まだまだ余裕よねぇ?」



まだ体力は3割程度しか回復していないが、この暗殺士を殺せる程度は確保したと判断し、地面へと降り立つ。一撃入れるつもりで剣を振るおうとしたが、残っている動屍ゾンビ共が射程内に入ってきて鬱陶しい。


仕方なく私は剣を振り、自ら召喚した動屍ゾンビ骸骨スケルトンを一回剣を振うことで全て消滅させた。続けて人喰鬼屍グールを縦に二分割し、膨張死体ファットゾンビの首を跳ねる。首を切り落とせば、膨張死体ファットゾンビは爆発せず死ぬ。


このまま数の暴力で押し切っても良かったが、しっかり力の差を見せつけたい。何故なら!あーしはアスタ様の最高傑作だからっ!!!!



「さぁ、これで邪魔は入らないね。さっきの続きしよっかっ!!」



手始めに恐怖のデバフを付与するスキルを込めた一撃を暗殺士にお見舞いする。恐らく先ほどと同様のコンボであーしの体力を削る作戦だろうが、恐怖効果が付与された一撃にビビり、大袈裟に後方へと飛び、あーしの攻撃を躱す。剣士の上位である剣聖の職業を持つあーしの攻撃を避けたのは素直に賞賛する。しかしうざい。ならば現状最高威力を誇る一撃を放つとしよう。



「行くわよ?時空断裂ワールドスラッシュ!!」



「ぐっ.....」



剣が描く斬撃の軌道が満点の夜空となり、暗殺士を袈裟懸けに捉える。



「剣で放つ中で最強のスキルも耐えるんだ!無敵耐久ペイシャンスすごいわね!」



「余裕だな…学べない馬鹿がっ!!」



魔法排除マジックリジェクション



暗殺士がスキルを解放するより先に、あーしは魔法を唱える。本来魔法排除マジックリジェクションはCランク以下の魔法の発動を強制解除するものだが、推定Bランク以上の無敵耐久ペイシャンスも格下相手程度が使うレベルの魔法なら解除可能。



「ほら?どうしたの??」



魔法が切れたことで、体力以上に受けた攻撃の数々の負荷に体が耐えきれず、穴という穴から血が吹き出る。しかし魔法の効力で耐えていたところをあーしが無理矢理かき消したことで、何かしらのバグだろう。即死は免れたようだ。



「あはははははっ!!!タネさえ分かればそんなの対応できるって!もうこれ以上攻撃くらえないねぇ?次はどうする??」



「・・・せ」



「はぁ?聞こえないけど??」



「・・・殺せ」



「はぁ〜?もう諦めるの??」



これからが楽しいのに.....少しだけ残念な気持ちになるが、ならば別の方法で楽しもう。アスタ様を待たせるのは申し訳ないが体力回復のためだ。


「死ぬ前に役に立ってね?あーし女の子の方が好きなんだけど、特別にお口でちゅうちゅうして.....あ・げ・るっ!」



魔力の消耗が激しかったので、この男の精気を吸い取り補給しよ。そのまま眷属にでもしてあげよう。



「ほら!あの遺跡の影にいこっか!」



暗殺士の髪を乱雑に掴み、物陰まで引きずっていった。早めに済ませるとしよう。男の身包みを剥がして、“食事”を開始する。淫魔サキュバスとしては当然の行為だ。



「じゃあっ!いただきます」



・・・・・・



ふぅ不味い。だけど体力や魔力が戻ったから良しとしますか。動こうとしたその時だった。


ん?体が重い。それに眠っ.....



【経験値が一定に達したためレベルが上がりました】


【種族レベルが一定に達したため進化を開始】



不気味な中性的な音声が頭に響くと同時に、不覚にもあーしはその場で眠りに落ちてしまった。

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