第25話 旅の終焉

最終日前夜。

やっと明日ここから解放される。


この日も数多くのモンスターを討伐し、現在ココとエレナと3人で一足先に宿で休んでいる。


残りのメンバーには明日中に出発してしまうので、アイテムなどの買い出しを頼んだ。



「6日もいて慣れただろ?」



「そうだねー!」

「あぁ」



今回の7日に渡る戦いは、監視下の元であったりなど面倒くもあるが、素材は大量に手に入る上、レベルも効率的に上昇させられる。


しかし気になる点がある。それはモンスターの向き。必ず王都から出てすぐの荒野からの進行。情報が隠されている可能性も否定はできないが、モンスターを対処できる人物が一握りしかいないのは、直感だが事実だろう。情報を隠して不利益なのはやはりこの国。


となると、荒野のどこか.....あるいはもっと先か。何処かしらにモンスターの発生源となる場所がある。


発生源こそ魔王のいる場所の可能性が高い。進む価値は十分にあるだろう。



「ここは一つ提案だが、最終日だし荒野の方まで攻めてみないか?」



「アスタはリーダーでしょー?私はリーダーの指示に従うよっ!」



「私も構わないが、王都の連中はよく思わないのでは?」



「それは、大丈夫だと思う。あいつらには根本を叩くと言えば、行かせてくれるだろう」



明日に向け更なる話し合いを進めていると、守護神アテナからのアナウンスが突然流れる。



【警告。付近で戦闘が行われている模様です】



(えっ?気配ないし、音とかもしないけど…)



【〈消音サイレント〉、〈妨害ジャミング〉の魔法による影響かと思われます】



守護神アテナの補足によると、〈消音サイレント〉は文字通り音を消す魔法であり、何かしらの効果範囲の拡大を計って発動されているらしい。それによりおそらく外部の音が遮断されていたようだ。〈妨害ジャミング〉も同様に拡大され探知系のスキルや魔法の妨害を引き起こしているそう。


嫌な予感がした。買い出しに行っている5人の帰りがやけに遅い…



「ココ!エレナ!外に出るぞ。外で何かが起きている!もしかしたらザック達かもしれない」



「本当か!急いで行こう!!」



慌てて武器を装備し、外に出ると中庭で戦闘が起こっていた。黒いローブを着用し顔が見えないアサシンのような格好をした者が10名ほどがいた。その中には一際オーラを放つ3人。1人は見たことない顔だが、もう2人には覚えがある。最悪だ。エレナと僕を追ってきた連中.....最も邪悪で強者のオーラを放っている、軽くパーマがかるセンター分けに日本人の顔つき。腕に巻く包帯らしきもの.....赤い線が入る黒のスタンドカラージャケットを着た男。転生者だ。



「申し訳ありません!アスタ様…彼が…」



片腕に剣が刺さっている状態で、血塗れのソールが、僕に気がつきザックを抱きかかえてこちらの方に来た。血塗れのザックを見て僕は絶句した。





一時間前…


現在自分は、ザック、ルナ、アウレア、メロと共に買い出しに出ていた。明日の戦闘のためのポーションや食料を買うのが、アスタ様からの指令。


自分とルナとアウレア。ザックとメロの二手に分かれて、買い出しを行っていた。


ザックという男は、自分と比べてもまだまだ弱いオーラだが、このレグルスというチームでアスタ様を差し置いてリーダーを務めていた経験があるらしい。不敬にも感じるがリーダーを譲るということはアスタ様が彼を認めたという事実。自分にとって憧れに近いような存在でもある。


そんなザックはメロさんに対して執着しているように見える。理由は不明だが彼のためなら仕方がない。メンバー分けと称し彼らを2人きりにしてみた。


買い出しも終わり、待ち合わせ場所に辿り着くも、2人はまだ帰らない。



「あーしはもう帰りたいんだけど?あの2人は何しているのかしら?」



「そう言うなアウレア。自分た地の方が人数も多い。早く終わるのも無理ないだろ」



「暇そうだな」



「ああ.....っ!」



自然に声をかけられ、なんの疑念も無く返答をし振り返ると、自分ら3人の真ん中に、1人の骸骨の口から刃が飛び出している悪趣味な剣を握りしめた人物がいる。赤く光り輝く瞳。黒髪のセンター分け。首まで隠れる長い襟で、おそらく革製の黒ジャケットを着た男。自分とアウレアは探知系スキルを持っている。それでも気づかないということそれだけ高レベルの隠密スキルを所持してあるか、この男の力量が高いか。


どちらにせよ警戒するべきだ。自分とソールは一歩引く中、躊躇なくアウレアは何も無い空間に手を入れると、アスタ様がお造りになられた鋸刃状の剣を取り出し、男の首に振りかざす。



「おいおい。気がはえーな」



「気がはやいのはどっちかしらぁ?あーしたちを殺そうとしたくせに」



両手で握りしめては放つ、アウレアの圧倒的なスピードをのせた一撃は強力なはずだが、男は片手で握る剣で難なく受け止める。



「ははっ!ステータスは見せてもらったが流石だな淫夢魔リキュバス。人間様の真似事してんじゃねーよっ」



男が軽く力を入れる素振りを見せると、アウレアの身体は簡単に宙に浮き、後方へと吹き飛ばされる。慌てたように周囲の人たちが悲鳴を上げ逃げ出す。



「くっ」



アウレアに対して追撃をしようと男は剣に何かしらのスキルを込め剣が赤く発光するも、ルナは頬を膨らませ、口から魔法〈火吐息ファイヤーブレス〉を吐き出す。小さく舌打ちをした男はスキルの矛先を、ルナの魔法に集中させ上から下へ剣を振り下ろし、放たれた赤い斬撃は、火の光線を真っ二つに斬り裂き、勢いそのままルナの右肩を掠める。


瓦礫を払いのけ、歯を食いしばりブチギレ顔のアウレアは男に急接近し再び剣を振り下ろす。アウレアに合わせ、自分も男の懐に潜り込み[強打ナックル]のスキルを込めた拳を男の腹に叩き込む。


上下から挟み込むように放った2人の攻撃だが、アウレアの剣を左手の指で掴み、自分の拳を剣で受け止める。スキルを纏っていなければ刃が自分の拳を真っ二つにしていただろう。ギリギリと耳障りな音を立てながら刃が拳をゆっくりと斬り進んでいる。


男は指で掴んでいるだけの剣をブンッ。と振り翳し、その衝撃に耐えきれず剣を放し、アウレアが地面に叩きつけられ背中を強打した。そして自らの剣に足を乗せ、強い力で自分の拳を完全に斬り裂こうとしている。男はニチャと嫌な笑顔で自分に語りかける。



「とりあえずお前ら殺して、余った奴を人質にしたらタイガが怒るだろうなぁ」



タイガ.....創られた自分たちはアスタ様の情報を最初に頭にインプットされる。タイガとはアスタと名乗られる前のアスタ様の名。男の狙いが分かり、スキル[強打ナックル]を発動し直しなんとか押し返しを図る。こんな危険人物をアスタ様に近づけるわけにはいかない。



「兄貴から離れろっ!〈燃え尽きろブレイジングッ〉」



ルナが覚えたての新魔法で男の体を火で包む。一瞬怯んだ隙を見逃さず、剣を横に受け流し、無防備な腹に蹴りをお見舞い。その間に後ろへと下り3人で固まった。


間髪入れずにアウレアが再び飛び出そうとしてしまい連携が取れない。だがアウレアは何者かに引っ張られ止められた。



「皆さんさん大丈夫ですか??」



「3人とも遅れてすまねぇ!牽制しながらアスタのところまで戻るぞ!」



メロが〈火球ファイヤボール〉を放ち、おとこを牽制しつつ、ザックはアウレアの腕を掴み静止させる。



「あーしの腕を離せザック」



「俺たちは仲間だろ?一回落ち着けって」



「ちっ」



不機嫌ながらもアウレアは攻撃の構えを解くが、その目には高い殺意が宿っている。少しでもきっかけがあればまた突撃してしまうだろう。


2人が加わり、5対1の状況になるも男は余裕な態度を崩さない。これほどまでに危険な男をアスタ様に近づけるわけにはいかない。ここで確実に仕留める。そのためには全員で一丸となる必要がある。



「アウレア。ザックの言う通り自分たちは仲間。アスタ様をも率いていた実績のあるザックに従って戦うべきだ」



「貴女のことは評価していたのだけどソール?味方とはいえ、こんな雑魚に従う必要があるのかしら?」



ダメだ。アウレアの気持ちが昂り過ぎていて話の真意が通じていない。協力が難しそうなこの状況に焦りが隠せない。対してザックは至って冷静な対応を取り、リーダーの風格を見せる。



「おう。確かにお前の方が強いのは認める。だからよ?その強さを活かすために俺たち4人がお前のサポートをしてやる。それだけ言いたかったんだわ。俺たちを信用して全力でぶつかって来いっ!」



「.....はぁ」



アウレアは思わずため息を吐くも、その表情にはどこか感謝の気持ちが滲み出ている。暴走気味で強さだけが取り柄の頼りない奴だと思っていたが、もっと彼女のことを理解した方が良いのかもな。そのためにもこの場を切り抜けなければ。



「仕方ないわねザック。他の3人もあーしの足を引っ張らないでちょうだいね?」



剣を強く握り締め我先にと突撃する。だが先ほどまでの切迫感を感じさせない優雅な動きに変わる。ほんと数分で驚くべき差だ。もちろんアスタ様の指示も素晴らしいが、彼にはアスタ様とは別の才能を感じてしまう。



「なんだよモンスターの分際で強ぇじゃねーかよ!」



「お前こそ人間の分際で強いじゃないッ」



二つの剣か衝突する。あまりに大きな金属音がその衝撃の強さを物語る。アウレアは剣に[斬撃スラッシュ]をのせているのに対し、男の剣にはスキルがこもっていない。にも関わらず拮抗状態。流石にアウレアだけでは勝てない。ザックの指示を受けつつ、メロは〈腕力強化リィーンフォースアーム〉で、ルナが〈鋼鉄の体スチールスキン〉をアウレアに向けて発動。


腕力が上がったときアウレアが、少しずつ男を押し始めるも、男も負けじと何かしらのスキルを発動し目が赤く光り、再びアウレアが押され、ついには剣が弾き飛ばされる。


追撃を加えようと剣を構える男に合わせるように、二本の剣を平行に振りかざし、2人に割って入りザックが応戦する。


現状最強のアウレアですら遊ばれている現状で、ザックが勝てるはずもない。慌てて自分も援護に入ろうと思ったが、男の力強い一撃を2本の剣で受け止めた瞬間に剣先を軽く引くことで、ぶつかり合う男の剣が滑り落ち、男の剣が虚空を斬る。


右の剣が振り下ろされた剣を上から抑えることで追撃を許さず、左の剣がすれ違いざまに男の頬を斬り、赤い血が地面へと流れ落ちる。背を向け合うも、ほぼ同時に互いに振り返り剣を交えようと構えるも、ザックの方が一瞬早く、ザックの2本の剣がクロス状に振り下ろされ、咄嗟に庇った男の左腕を斬り裂く。



「.....雑魚かと思ってたが、やるなお前」



「へへっ。お前こそやるじゃねーか!」



男はなんらかの回復スキルを発動しザックから受けた傷を回復してしまうも、効果は不明だが左手に巻かれた包帯型の魔具が剥がれ落ちる形で破壊に成功した。5人で攻めれば勝てる。そう確信する。


だが男は余裕な顔を崩さず、地面に転がるアウレアの剣を足で宙へ放り投げ、男の目線と高さに落下したところで蹴り飛ばす。まっすぐ自分へと飛んでくるが、幸いにもアウレアの剣の先端は尖っておらず刺さる心配はない。


アウレアの剣が飛ぶのに合わせて、男は走り出し、対峙するザックが向かってくる男に攻撃を仕掛けるも腕を振り上げたところで、脇腹を斬られ、そのまま自分に目掛けて接近。素早く構え男に拳を放つも、正面を走る男は左側に急速に逸れ、アウレアの剣と自分と男が平行線に並ぶ。何をするかと思いきや、男はアウレアの剣を再び自分に目掛け蹴り、鋸刃が自分の右腕に食い込み赤い血飛沫を上げた。


激しい苦痛に襲われるも、男に向け左でスキル[強打ナックル]の一撃を放つ。ダメージを与えた感覚は皆無だが、男の両足が地面についていなかったため後方へとノックバックさせることには成功した。


右腕に未だに食い込む剣を歯を食いしばり抜き、男の後ろへと目掛けて投げる。



「おいおい。どこ狙ってやがる」



剣は男に当たる事なく、弧を描き男を通り過ぎる。もちろん狙いは男では無い。


剣は地面に落下し切る前にアウレアがキャッチする。男の着地点を狙いアウレアは全力で剣を振り下ろした。直後、血飛沫が上がり地面を赤く染める。



「なんてな。探知系スキル持ってる俺にそんな小細工は通じないぜ?」



「.....っ!アウレアッ!!」



振り下ろされた剣の一撃を掻い潜った男は、下から上への袈裟斬りでアウレア胸を斬り裂く。握りしめていた剣が再びアウレアの手を離れ地面へと落下した。



「まずは1人目だな」



容赦の無い男の斬撃はアウレアの首を狙う。



「やめろ!〈土巨人作成クリエイト・ゴーレム〉」



間一髪で大小様々な石を土で接着し、男性の上半身を形成した大きな土巨人ゴーレムが現れ、アウレアの上半身を握り自分の元へと投げる。


召喚モンスターは指示が無くとも、召喚者本人の召喚時の意識が伝わっており、自立して行動してくれたりする。大怪我を負うアウレアを投げたのは不適切だが、そのおかげでアウレアの命を救うことができた。


脱力しながら落下するアウレアをキャッチし、近くまで寄っていたメロにパスをする。一番ダメージを負っておらず、申し訳ないが一番実力の足りていない彼女にこそ怪我人の運搬が適任だ。



「アウレアを連れてアスタ様の元へ」



「でも────」

「────いいから行けッ!」



「.....わかりました。彼女のことは任せてください!」



メロは悔しそうな顔を浮かべつつも、アウレアを背中に抱えて走り出す。



「おいおいどこ行くんだよ」



しかし逃走を阻むように、男がメロの前に立ちはだかる。ザックとルナが時間を稼いでくれていたはずだ。数秒前まで戦闘を繰り広げていた方を見ると、粉々に破壊された土巨人ゴーレムの破片と、血塗れのルナがうつ伏せで横たわり、ザックも血の水溜りの真ん中で両膝をつけた状態で動かない。


全滅が頭をよぎる。絶望な状況の中、近くにアスタ様の気配を感じた。


意を決して、アウレアを抱えているメロごと担ぎ上げ、男を無視し、アスタ様の気配の元へ死に物狂いで走り出す。



「無視するなよ悲しいだろ?」



だが2人を担いでいる状況で、男にスピードで勝るはずもなく真横に並ばれる。



「まぁよく頑張った方だ。お疲れさん!」



もはや避ける手段も力もなく、男の剣を受け入れるしかない。諦めて目を瞑る。だが男の攻撃がいつまで経っても自分に到達しない。


恐る恐る目を開けると、ザックが自分たちの間に割って入り、首に男の刃がめり込む。血を吹き上げながらも、ザックは刃を両手で掴み離さない。



「ザックッ!!!!」

「ザック.....」



「ゴフッ.....今だ。行けッ!」



「でも.....でも.....」



メロが動揺する中、抑えられている男が何者かのいかずちを纏う飛び蹴りの一撃で、瓦礫の海へと飛ばされた。蹴りを入れた人物は、この一週間と少しの間で見たことがない激しい怒りが顔から滲み出るエレナだった。


エレナは言葉を発さず、ザックを数秒見つめると、涙で顔をぐちゃぐちゃにしているココと共に男のいる瓦礫の海へと突撃した。ザックが崩れ落ちる中、それを受け止めたのはアスタ様。



「あはっ!タイガみっけ!けど今ここで戦ってもつまんないよなぁ?」



「てめぇ.....」



ココとエレナの奮闘虚しく、男は気絶しているであろう脱力し微動にしないココを片手で抱え、アスタ様の前に現れる。



「タイガ.....いや今はアスタって名前なのか。おいアスタぁ.....この女を返して欲しかったら、3日後マクデブルク遺跡に来い。勝ったらこいつは返してやるよ」



それだけ言い残すと、男は何やらポケットから紫の水晶玉を取り出すと、地面へと落とす。落下した衝撃で割れた水晶玉から紫の煙が吹き上がり男はどこかへと姿を消してしまった。



「待ちやがれぇーー!!!」



アスタ様の怒号が響き渡る。しかし男とココの姿はもうすでにどこにも無い。アスタ様の表情は、まるで鬼のようだった…

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