第24話 勇者の集い

時は少し遡り…


カツカツとわざとらしく場に相応しくない大きな足音が、美しい装飾の施された廊下に響き渡る。


男の名は今川優斗いまがわゆうと。数日前に銀髪の半人を逃したことで、ドレスデン法国の王城のとある一室に招集をかけられた。


たった一度のミス程度で招集されることは異例。ユウトが回収できなかった指輪の重要性を物語っている。



「だりぃ〜。帰ろっかな」

 


「いけませんよユウト様。ほかの勇者様もお見えになっているようです。それに参加しないと言うのは…」



「わかってるスタンリー。冗談だ」



本当に面倒くさい話しだ。早く帰りたいと思いながら、ほかの同郷の仲間が待つ部屋の重厚な扉を足で押し上げる。



「ユウト様がお見えになりました!」



緊張から汗を流しているこの城の執事。民から巻き上げている税金で肥えている豚。執事ともあろう者がなんて情けないのだろうか。



「遅いぞユウト」



同郷な仲間で最初に口を開いたのは、大理石の円卓の一番奥の白く豪華な椅子に偉そうに座っている、サラサラ茶髪の男。少し可愛らし気を感じるが、目の奥から溢れ出るのは屈強な男のオーラ。男でも惚れてしまいそうなほどの整った顔立ち。性格も八方美人で文句のつけどころが無いムカつく野郎。


強さも“29人”いる転生者の中でも最強。全てを兼ね備えた最初にこの地に転生した男の名はナカイコウ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナカイコウLv100 [光属性]

[人間種]

[大英雄Lv1]


体力 4750

魔力 4753

知力 2000

攻撃 9999

防御 9999

魔法攻撃 9999

魔法防御 9999

素早さ 2501


スキル[覇者Lv1][慈愛Lv1][浄化Lv1][洗礼Lv1][聖剣Lv1][統率者Lv10]

[神速Lv10][世界の愛Lv1]

[心眼Lv9][火耐性Lv10][水耐性Lv10]

[雷耐性Lv8][苦痛耐性Lv9]

[魔法耐性Lv8][物理耐性Lv9]

[毒大耐性Lv10][麻痺耐性Lv6]

[斬撃大耐性Lv8][闇無効Lv1]

[即死無効Lv1][腐食無効Lv1]

[火強化Lv6][光強化Lv10]

[雷強化Lv6][身体能力強化Lv3]

[筋肉活性化Lv9][嗅覚強化Lv4]

[視覚強化Lv9][聴覚強化Lv1]

[自由Lv2][断罪Lv5]

[命中率上昇Lv6][未来予知Lv1]

[斬撃Lv10][二連斬撃Lv7]

[三連斬撃Lv9][百人斬りLv1]

[剣術網羅Lv4][時空断裂Lv5]

[火斬撃Lv6][不死鳥Lv1][逆境Lv9]

[思考加速Lv5][隠密Lv5]

[自動超回復Lv10][魔力自動回復Lv2]

[詠唱破棄Lv6][禁魔解放Lv10]

[守護への貢物Lv1][難攻不落Lv2]・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(もういい多すぎだ)



「相変わらずのチートっぷりだな。久しぶりに俺と戦おうぜコウ?」



「.....」


コウは俺の申し出を無視し、アームレストに肘を置き頬杖をつきながらも、その笑顔を絶やさない。対して両脇に座る年齢は俺と変わらないはずだが、角刈りに眉毛ラインを引き顎にちょび髭といったおっさんにしか見えない老け顔の男ホンダミキオ。赤毛が特徴的な外ハネショートに、ブラトップに下は前世のアイテムジーパンを着ただけの女を感じさせない女ヨシダマオ。両者とも殺意むき出しの目で俺を睨む。


彼らは共にコウにより命を救われ、親衛隊を自称している。何度コウへのちょっかいを邪魔されたことか。最強の人物の親衛隊を自称するのも伊達ではない。



「あんた少しは黙ったら?コウが迷惑だよぉ?」



再び口を開こうとすると、遮るように言葉を発するのは、尻にまで届く長く邪魔くさい髪を2つに結んだ黒の量産型といわれる大昔にブームを巻き起こし服を身に付けている女子を体現したハマウラカノン。



「ハハッ!カノンか、可愛い顔してんな相変わらず」



「黙れ!」



やはりカノンは、軽い挑発にも簡単に乗ってしまうアホだ。



「カノンもユウトも騒がしいんじゃないかな?コウの話を黙って聞こうよ」



「ちっ.....私より顔は下のくせに偉そうに.....」



机をバン!と叩いただけで全員の髪を靡かせる怪力に加え、本日は欠席の魔法ではコウすら凌駕するシオリに次いで魔法の実力を持ち合わせる強者。常に清廉潔白を貫く、黒髪ストレートで目立ちはしないが悪くない顔立ち。俺たち転生者グループの中で生徒会長のような振る舞いを見せるお堅いハヤサカスミレ。隣に黙って座る顔を覆い隠すほど長い前髪をした地味な男であり、スミレの弟ハヤサカキョウスケ。



「わかったわかった!!悪かったってスミレぇ」



表情を一切変えず、腕組みをして険しい顔で黙って座っているオダノブタカ。英国育ちで唯一の外国からの転生者フラム・テレジアの間に空く席につき、足を組み「ほら」と一言コウの発言を促す。



「ありがとうスミレ。じゃあ話を始めようか」



コウの一言で、全員が静まり返った。あいつから放たれる空気はピリピリしてやがる。何かしらのスキルだろう。



「ユウト。まずはお疲れ様。君の高い実力を信じて聞くが、なぜあの人狼を取り逃したんだい?」



「邪魔が入ったんだ」



「あいつのことだ。また遊んだんじゃ?」

「嘘かも・・・」

「ユウトだしな・・・」



他の雑魚どもがうるさい。

力を振るうだけの無能どもが…



「みんな今はユウトにしか聞いていない」



俺のことを助けようとしてるのか知らねーが、やっぱムカつく。


コウは生前でも身分の高い職業に就き、住む場所や食事に困ったことのない金持ち。異世界に来ても、そのスキルの多さとステータスの高さで転生者をまとめ上げた。欠点のない人間ほどつまらないものはない。



「あのガラス玉の指輪だろ?もう一度行かせてくれよ。今度は持ち帰るぜ」



「うん。頼むよ。でも聞かせてくれ、君を邪魔できるほどの人物がまだ現地人の中にいるのかな?」



「残念ながら.....と答えた方がいいか?」



頷くばかりでコウからの返答は得られなかった。室内を満たす静寂が鬱陶しく、俺は話を変えてみる。



「ところでなんで俺たちは無能の国の下っ端なんだ?お前の力ならもっといい政治ができるだろ」



「あまり彼らを舐めない方がいい。君も…ここにいるみんながその恐怖を知っているはずだ」



「はっはっはっ!懐かしいな〜。ベルリン王国の連中に、ボクたちの大切なお仲間たちが20人も捕まったんだったなぁ」



俺より先に口を開いたのは、吊り目で何を考えているか分からない表情で、常に軽薄な態度を取り続けるシノハラシント。


もう五年も前の話になるのか。


モンスターの大量出現で、今残っている転生者たちが全員駆り出され、その間にベルリン王国の連中が、防衛のため残った転生者を騙す形で奇襲して、1人残らず消した。


俺たちが戻ったときには、もう誰1人残っていなかった。いまだに捕まった奴らが、生きているのか死んでいるのかすらわからねぇ。



「捕まっちゃうような雑魚のことなんて、どうでもいいでしょ」



雑魚なわけがない。転生者はこの地において最強。捕まった連中も仲間だ。それなのに軽々しい口調で空気の読めない発言を.....



「うるせーぞシント。お前みたいな前世でもゴミみたいな奴がぁ…出しゃばんな、殺すぞ」



俺は剣を握りしめ急接近で近づき、シント目掛けて振りかぶる。理由は単純。こいつが嫌いだからだ。その瞬間、首に冷たいものを感じた。



「おっとっと〜ごめんごめん」



先程まで座っていたはずのコウは俺の真後ろで冷徹な顔を浮かべ剣を突き立てている。



「ユウト。君今本気で殺そうとしただろう…これ以上仲間を失うわけにはいかない」



「俺も仲間だろぉ?悲しいぞ?とりあえず剣を下ろしてくれ〜」



「わかってくれたならいいよ」


コウは剣を腰に戻し、今度はゆっくりと先へと戻った。


俺も殺気感知や予知を持っていたが、全く反応出来なかった。もし俺が本気で剣を振り下ろそうとしていたら、首が飛んでただろう。



「もういいだろ?あとはそっちで仲良しこよししててくれ〜。俺は任務を遂行するとしよう」



ここにいる連中は力を持っているのに、誰かのために使うことすらできない負け犬の集まりだ。そんな奴らと一緒の空間にいるだけでうんざりする。部屋を入室時と同じように蹴り開け、その場を後にする。


転生者同士で戦えない現状、今俺を楽しませてくれるのはあの男女おとこおんなだけだ。



「早く会いてぇ〜。あいつと殺し合いたいなぁ〜待っててくれよタイガっ!」



俺はタイガを探すため、スタンリーとアイデンを引き連れドレスデンから出国した。




ユウトが出て行った後.....呆れ顔のコウと、村人Aのような個性が無いことが個性とも呼べる男サトウカナタが何やら会話をしている。



「ユウト一人で大丈夫ですかね?」



「彼は強いよ」



「そうじゃないっす。性格的な問題ですよ。よかったら俺が監視役になりますよ」



「確かにそうか…カナタ頼む」



「了解っすコウさん」



「さぁ!次の議題に移ろうか…」

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