第20話 答え

僕は世界が滅ぶと伝えた。ザックの泡ひげがパチパチ聞こえるくらいには一瞬静まり返る。



「何言ってんだ。もう酔っ払ってんのか?」



「そうだ!そうだ!」




ザックとココは冗漫だと思って笑っている。

メロは不思議そうに考え、エレナさんは無表情で僕の話を聞いている。おそらく誰も信じていない。どうすれば伝わるのか…



「本当なんだッ!!!.....っごめん。でも世界はもう滅んでしまう。それを止めるために神様に言われるがまま、別の世界からこっちの世界に来た。辛いんだ。僕1人で抱えるのが.....でもオヤジに出会い、ザックに誘われココとメロにも出会い、そしてエレナさんとも出会えた。前世では考えられないほど、こっちに来てから大切に思える人ができた。大切な人のためなら頑張ろうと.....でも僕は弱いんだ。1人じゃ止められる自信もない.....」



つい感情的に話してしまった。情けない。覚悟を決めたばかりだと言うのにもう弱音。

こんなことで伝わるわけがないのに…

幸いにも夜も遅く、酒場で飲んでいるのは僕たちだけ。受付嬢もカウンターでうたた寝をしている。他の誰かに聞かれたということはないだろう。


沈黙の時間が続く。

このまま逃げ出してしまいたい。椅子を軽く引き、体が勝手に逃げる準備をしている。



「そうだったのかぁ〜」



沈黙に耐えきれず、本気で逃げ出そうとしたその時、沈黙を破ったのはココだった。



「今までめっちゃ大変だったじゃん!アスタはすごいね!」



「.....えっ?」



ココはトコトコと僕の側まで駆け寄り、えらいえらい。と言いながら頭をポンポンしている。

思わず涙ががこぼれるが、追い打ちをかけるように背中に別の人の手が優しく置かれる。



「そうだな。敬服するよアスタ」



「.....エレナさん」



それはエレナさんの手だった。メロは僕を見つめながらぎこちない笑顔でエレナさんの言葉に続く。



「わ、私ならすぐ諦めちゃうかも…」



「アスタはすげぇんだな!まぁ俺なら簡単に世界救えるけど?」



「メロ.....」



何故こんな簡単に信用してくれるのだろうか。



「なんでこんなこと信じれるんだ…?」



「は?お前がこんなに必死に言ってるんだ。本当なんだろ?一回は冗談かと思ったがな!俺たちは仲間だろ!」



「ザック…」



「みんなもそうだろ?」



「そうだ!」

「あぁ」

「はい!」



こんな仲間は、僕にはもったいないと思う。

5人とも笑顔になり、和やかな雰囲気に包まれるが、これで終わりじゃない。


本当に話さねばいけないのは、止める手段だ。



「それでさ、世界が滅ぶことについて…」

「やっべ!!アスタの言った通りならもう時間ねーじゃん!アスタどうすれば良いんだ!!!」



「ザック。今そのことについてアスタが話そうとしているだろう。黙って聞くべきだ」



「そっか。すまねぇ!続けてくれ!」



エレナさんは冷静で、こちらの気を察して話が進められるようにしてくれた。



「食い止める方法は今のところ一つしかない。この世界の崩壊の原因は、魔力の大元となる魔素の極端な現象だ。魔素は本来自然物から無限に発生する。大勢の生き物の魔力を補うことも可能だった。だが、増えすぎた生物を排除する自浄的な役割を持つモンスターが減り、さらに人間の増加が加速したことで、魔素の供給がギリギリになった。追い討ちをかけるように、そこに自然破壊が加わり、この世界は悲鳴をあげている」



「だから滅びるまでの時間が、残りわずかということか.....」



「「なっ、なるほど〜」」



「はぁ.....ザック?ココ?あなた達だって持てる荷物の重さには限界があるでしょ?当然キャパをオーバーしてしまえば、荷物を落としたり、そのまま荷物に押し潰されちゃうかもしれない。それの規模が大きいものだと考えて。この世界が支えている生物の重さに耐えきれなくなって、もうすぐ潰れちゃうってこと!」



「分かりやすい説明をありがとうメロ」



人間を大量に殺して、自浄作用を戻すためにもモンスターを増加させる。それができなければもう時期この世界は終わるのだ。時間を伸ばすためにも前者をまずは遂行しなければならない。



「ほ、他にないの?」



「これは断言できる。ない」



ムカつく話だが、仮にもあいつは神様なのだ。

その神様が言うのだから本当にそれ以外の手段はない。


僕は言いたいことを言い終え、ふぅと一呼吸置く。最後まで本当にいい奴らだ。



「だから僕はこのパーティーを抜けるよ。少ししか一緒に入れなかったけど楽しかった。ありがとう」



「待てよ!なんで今なんだ!」



「ザック…僕は、4人とも大好きだ。だからこそ…これ以上一緒にいると抜けられなくなる。大好きなお前らを、これ以上危険な目に遭わせられない…」



「アスタ。席をはずせ」



ザックはいつになく、真剣な表情で言い放つ。

仮にもこいつはリーダー。他の仲間のためにも僕をいち早く遠くへ追いやりたいのだろう。



「あぁ。本当に世話になった。ありがとう」



「何言ってるんだ。二時間後、昨日この酒場に戻って来い」



「は?」



「分かったか」



「あ、あぁ」



どうなるのだろうか…


もしかしたら殺されるかもしれない。

だが、殺されるなら彼らが良い。不安と恐怖で心が支配され、最初こそ時間を潰すために街を歩こうとしたが、すぐに酒場の前に戻り、二時間座り込んでいた。



「待たせたな」



「いや、平気だよ」



「ついて来い」



どこに連れて行かれると思ったら、昨日の泊まっていた宿だった。宿に入ると迷うことなく階段を上がり、奥の一室へ。そこにはすでに他の3人が座っていた。



「アスタ」



ザック腹真剣な眼差しで僕の名を呼ぶ。



「俺たち4人で話し合った結果…このレグルスのリーダーになってもらうことにした」



「……は?」



何を言っているのだろう。訳がわからなかった。僕がリーダー?



「アスタ1人に辛いこと背負わせる訳ないじゃん!仲間でしょ?」



ココの言葉でようやく理解することができた。つまり彼らは僕と共に戦ってくれる気らしい。



「め、メロも、エレナさんもそれで良いのか?.....みんな分かってない!人を虐殺する結果になるんだぞ?相手は武器を持った悪党じゃない。無抵抗な善人かもしれない。無垢な子供も…」



「アスタッ!!私たちも簡単な気持ちで決めた訳じゃない。それ以上言うのは無粋だぞ」



普段から落ち着いているエレナさんの声が強張っている。



「あははは…それ言われると刺さるなぁ」



ココは言葉が詰まり少し涙目になり、そのまま座っていたベットへ倒れ込んだ。



「っ!」



「なぁアスタ。俺は馬鹿だから具体的にどうしたらいい。とかわかんねーけどさ?これだけは言える。1人でそんな重荷背負ってんじゃねぇ!俺たち友達だろ?」



こんな展開になるなんて考えても見なかった。正直居てくれるなら心強い。というか本音は一緒にいたい…いて欲しい…



「いいのか…?」



「俺たちはもう覚悟を決めた。あとはお前次第だ。お前の決定に従うぞ」



「なら…条件付きだ。辛くてやめたい場合はやめてくれて構わない。もし僕が間違ったことをしてると思ったら僕を殺してくれて構わない。どうだ・・・?」



「ヘヘッ。俺それでいいぞ。まぁお前を殺すなんてあり得ないけどな!」



「私も右に同じだザック」



「わたしも構わないよ!もう腹は括った!大魔王にでもなんでもなってやる!」



「アスタは、世界を守るために一人でする覚悟だったんですよね?事情を知らない人からすれば、当然だけどアスタを恨む人も多いと思いま。だからこそそんな辛いこと一人で背負わせるなんて真似はさせませんよ!」



ザック.....メロ.....ココ.....エレナさん.....


こんな展開になるなんて予想がつかなかった。1人じゃない。そう思うだけでどれだけ心が救われるだろうか。



「分かった。.....よろしくお願いします」



僕は深く頭を下げた。


4人ともそれに応えるように笑みを浮かべ「もちろん!」と元気よく返してくれた。なんと頼もしいことか。



「ですがそうなると5人じゃ足りないんじゃないんですか?」



「あぁメロの言う通りだな。相手は世界中だから.....それに勇者の存在もある。個人的には指輪を預かった勇者と戦うのは不満だが。覚悟はできているから気にしなくていい」



「ここは新リーダーであるアスタに任せよ〜!指示を頼みます!」



みんなの覚悟を無駄にする訳にいかない。



「そうだな。とりあえずは勇者と戦えるように、この5人の強化だ。強化をこの一ヶ月半で行う。苦しいだろうが耐えてくれ!軍隊に関しては僕に任せて欲しい。そのサポートはメロに頼みたいのだけど…?」



「任せて!」



「ありがとうな」



「よし、今後の方針も決まったし!また飲みに行こう!たまには別のところで!」



みんなと出会ったのは運命なのかもしれない。世界を救う為に僕は…いや、僕らは魔王になるんだ。

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