第18話 初デート

酒も進みみんなが酔っぱらってきた頃…



【熟練度が一致に達したため[毒耐性]のレベルが上がりました】



強さのためとはいえ.....お酒を毒耐性の経験値にするのは勿体無い気もする。


てか、みんなこれだけ酒飲んでんだから毒耐性持ってんじゃないのか??だが様子を見る限り周りで耐性を持っている様子はない。


 

「ココこれ飲んでみろ」



すっかり忘れていたが、完全回復フルポーションをここに渡すのが目的だったことを思い出した。



「何こりぇ?」



ココの呂律が回っていない。

今飲ませて大丈夫なものだろうか。最悪予備に後3本持っているから今効かなくても問題はな────。

「────いただきまぁす!!」



「ちょっ!」



効果を説明する前にココが躊躇無く飲んでしまった。するとココの顔は段々と青く変色していく。



「痛っ!!!」



そのままココが右腕を押さええて地面に倒れ込んでしまった。



(アテナ!ココは大丈夫なのか!?)



【腕が再生するのを義手が邪魔をして、激しい痛みに襲われているものだと思います】



「アスタ。君はココに何を飲ませたんだ!」



「あとで説明するから!エレナさん義手外すの手伝ってください!」



「あ、あぁ!」



僕がココを押さえつけ、エレナさんが義手を外す。すると植物が生えるように、みるみると右腕が再生を始めた。



「す、すごいな。アスタこれをどこで入手したのか?」



「アスタが作った完全回復フルポーションでしゅよぉ〜」



僕が答える前に、メロが代弁してくれた。



「う、腕を再生するレベルのポーションを君が作ったのか?にわかには信じがたいが・・・腕が生えているのを見る限り、本当なんだろう.....アスタ。君は見かけによらず、すごいな」



「腕が生えてるぅっ!!」



「やっほー!」と声を上げながら酒場を一周駆け回り、勢い殺さず僕の胸元に突進してきた。ミサイルのようなココの突進を受け止めきれずに、2人とも転んだ。背中と頭を強く打ち、苦痛耐性を持っている僕でも痛かった.....


だがそんな僕に構うことなく、目をキラキラさせ満面の笑みで、



「アスタありがとうねっ!!!」



とお礼を言ってくれた。こんなに喜んでもらえるなんて頑張った甲斐がある。完全回復フルポーションは酔いまで打ち消すらしく、酔いが覚めたココは、その後も右腕を見ず知らずの客に見せびらかしたりしながら、はしゃいでいた。


気にしていないように見えていた。

しかし心配かけないように隠していただけで腕がなくなりショックだったらしい。


他の客がゾロゾロとこちらへと不信感のあるような興味があるような態度でやってきたりしたため、寝ているザックを抱えて全員で出ていくことにした。


宿屋を男部屋と女部屋用に2部屋借り、ザックをベッドに放り投げて落ち着いてから、1人で大浴場に向かった。


夜遅いこともあり他に人もおらず貸切状態だった。



「いい湯だなっ〜♪」



露天風呂で満天の星空が見えてテンションが上がり泳いでいたが、人の気配を感じたのですぐに泳ぐのをやめた。


見られてはいないと思うが、なんとなく恥ずかしくなり、入り口側に背を向けて浸かっていた。


ガラガラと扉が開き誰かが入ってきた。



「おや?誰かと思えば…アスタか」



聞き覚えのある声にバッと振り返るとそこにはタオルで前を隠しているエレナさんがいた。



「ここ男湯ですよ!もしかしてエレナさんってまさか・・・?え?え?」



「なんだ?私はメスだぞ?失礼な奴だな。それにここは混浴だ」



「すいません…」



恥ずかしくなってしまい、出ようとすると



「よかったら背中を流してくれないか?」



「ひゃいっ!」



簡単には出られないようだ。

エレナさんの背中を流すのは幸福だが、緊張で手が震えてしまっている。



「し、失礼しましゅ」



「あぁ。頼む」



噛んだ恥ずかしさとエレナさんに触れる恥ずかしさで、顔が真っ赤だ。


緊張しながらも布で優しく背中を擦り始めた。布ごしにでも伝わってくる感触に僕のアスタも目を覚ましそうになっていた。



(うぉぉぉ今だけは耐えてくれ!!!)



必死に耐えながらなんとか背中を流し終えた。



「じゃあ、僕はこr────」

「────助かった。ほら座ってくれ今度は私が背中を流そう」



「ありがとうございます」



再びピンチが訪れた。

エレナさんに背中を流してもらう誘惑に負け座ってしまったが、色々な意味でガチガチだ。



「改めて見ると華奢な体だな。私を助けた時の君は、あんなに男らしかったのに」



笑いながらエレナさんは、僕の背中を人差し指でなぞる。ひゃうっ!と変な声が出てしまったが、エレナさんは気にする様子もなく、背中を石のように荒い感触のタオルで擦り始めてくれた。今では慣れたものだが、石鹸やらはこの世界では嗜好品らしく、温泉といえどそのような類のものは無い。なので硬いタオルで背中を擦り汚れを落とすのだ。


ヒリヒリする感覚で多少気持ちが落ち着き、僕は不意に男になる覚悟を決めた。



「あ、あの!エレナさん?明日暇なら僕とデートしてください!」



つい勢いでデートのお誘いをしてしまった。生まれた初めてデートという単語を口にした。異性を誘うことすら初めてだ。だし風呂場で何を言っているのだろうか。



「すまない・・・でーと?とはなんだ?」



一瞬ヒヤッとしたが、意味を知らないだけだと分かり安心した。



「えっと?」



デートなんて口にはしたが自分でも意味がよくわからない。



「男女が2人で出かけることですかね?」



「つまり君は私と2人で出掛けに行かないか?と誘っているのだな。それなら、構わないぞ」



思わず立ち上がりエレナさんの方を向き



「ありがとうございます!」



と叫んだ。



「ほう…体つきも女っぽいと思っていたが…下は屈強な男だな…」



「へ?」



しゃがんでいるエレナさんの顔の前に立つことで、僕のアスタがちょうどエレナさんの顔の前にあった。



あまりの恥ずかしさに、



「キャー!」



甲高い声を上げながら逃げてしまった。



「ふふふっ。やはり私よりよっぽど女らしいな」



翌日。


結局昨日の恥ずかしさで、全然寝れなかった。昨日の出来事は、もう二度と思い出したくない…


そんなことを考えながら宿屋の受付でエレナさんを待っていると



「待たせてすまないアスタ」



エレナさんがいつもより、綺麗な格好をして来てくれた。顔をマフラーで隠してしまっているのは残念だが、追手のことを考えると仕方がない。これがプライベートギャップいうやつか。そんな言葉知らないけど。



「待ってませんよ!行きましょっか!」



「あぁ」



完璧ではないがある程度のプランは考えていた。まず1人で何度も足を運んだカフェ。



「ここのケーキ美味しいんですよ!」



ケーキ.....といってもクリームは白くトロトロした油のような質感だし、スポンジもかなりパサパサ。だがお菓子自体が珍しく、最初こそ抵抗があったものの今では僕の好物の一つだ。


加えて店の外観は悪くない。和風なモダン建築といった感じで落ち着いた雰囲気。デートには最適なはず。



「お洒落なところだな…今までこのようなところとは無縁だった」



「そうなんですか…これからみんなといっぱい楽しいことしていきましょ!」



言葉を紡ぐたび心の奥にあるモヤモヤが増大していくのを感じる。だが今だけでも楽しんでも誰も文句はないだろう。モヤモヤを押し殺し、今は楽しむことにする。



「ふふっ.....そうだな」



エレナさんは、運ばれてきたケーキを物珍しそうな顔で見つめていた。そして少し険しい顔をしてケーキを口に運ぶ。



「はむっ。うむ・・・このケーキというのは、とても美味しいな!」



頬にクリームをつけながら笑っているエレナさんもとっても素敵だった。雑談を交えながら結局二時間ほどカフェに滞在していた。


カフェを出て街を歩いていると、何やら可笑しな見た目のお店が目に入った。木製の落ち着いた雰囲気のある壁に青く可愛らしい屋根。だが入り口にある傘立てのような筒には乱雑に様々な剣が刺さっており、窓から見える店内にはモーニングスターやハルバードなど物騒な武器が並んでいる。それだけなら無視していただろう。しかし武具の他に女性ものであろうアクセサリーが並んでいるのが見えた。プランにはないが男女でアクセサリーを見るのは良いとネットか何かで見た気がする。



「エレナさん!あの武具店寄りませんか?」



「構わないぞ」



2人で武具店に入ると、店の奥から慌ただしい足跡が響き渡る。



「いらっしゃいませ!」



こういうお店なので、ごついおっちゃんが出てくると思いきや、若いお姉さんが出てきた。



「おやぁ?女性2人で武具店とは珍しいですねぇ」



「私は女だが、こっちの彼は男だぞ?」



「おやぁ!それは失敬失敬!」



少女漫画のキャラクターのように輝いた瞳。武具を作っているとは思えない綺麗な肌。水色のホーステールと呼ばれるツインテールの一種の髪型に、どちらかというと研究員の方が似合う煤で汚れた白衣を羽織った女性。

それに加えて何を考えているか読み取れない行動に話し方のゆるふわ感。なんだかおかしな店主さんだ。



「えっとこれ買いたいんですけど…?」



「本当に君は男かい?こんなハート型のペンダントなんて…」



「これはプレゼント用ですよ…」



「いいんだよ?恥ずかしからなくて」



ウインクしながら肘で脇腹を突いてくる。だる絡みはあまり得意ではないが、不思議と嫌な気分にはならない。



「そのプレゼントは誰用だ?アスタ」



「あ、えっと…エレナさんにです」



「私にか?」



ハート型のものなんて気持ち悪いだろうか。

なにぶん家族以外の女性にプレゼントをするのは初めてだ。



「いいねぇ。いいねぇ。お姉さんもキュンキュンしちゃうわぁ」



お姉さんと自称しているが、この人は何歳なのだろうか。同い年.....いや歳下と言われても頷けるくらいには若く見えるぞ。



「だが…貰い物なんて申し訳ない」



「エレナちゃん。彼氏さんの気持ちだよっ!受け取ってあげなさいな!そのペンダントは見た目は可愛いが魔力と防御力を微量だが上げてくれるゾ!」



「あの、これいくらなんですか?」



「ごめんねアスタ君待たせちゃって!いいもの見せてくれたしタダでいいよっ!」



「嬉しいですけど、それじゃぁプレゼントにならないでしょ」



「あそっか!なら聖金貨10枚だ!」



「はい。金貨一枚。」



「おやおや〜気前が良いな!本当は銅貨10枚なのだけれども…」



「その代わり、今後また色々お世話になるので。では!」



「私の名前はネロ。覚えておいてねぇん!あと、またきてねぇ!」



エレナさんの腕を引っ張って足早に出て行った。ネロさんは面倒くさいが、フレンドリーだし頼りにはなりそうなので借りを作っても良いだろう。


それに武器や防具のメンテナンスをしてくれる人は絶対に必要だ。

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