第16話 創造

緊張が抜けない。 

頼むっ!! 



「…と言うわけなのだが、君たちは私をパーティーに受け入れてくれるか?」



ウルムに帰って来てすぐ、パーティーで話をしようと思ったが、さすがに疲れているので街に着いてから解散しそれぞれ休んだ。


そして翌日ザックとメロを呼んで、現在エレナさんが事情を話したところだ。



「わたしは構わないですよ?ザックは?」



メロはさすが優しい。簡単に了承してくれた。問題はザックだ…



「エレナだっけ?心して聞いて欲しい」



「あぁ」



まさか、却下する気なのか?


どうしよう麻痺霧スタンミストでも吹きかけてやろうかな?



「エレナ!パーティーの名前が思いつかないんだ…パーティーメンバーの一員となったんだ!一緒に考えて欲しい!」



「え、えっと?それは私を認めるってことなのかな?」



「当たり前だろ?断る理由なかったし。そんなことより!名前だよ!いつまでも無名ってかっこよくねーじゃん!ドウにもなって!」



「ふふっ。そうか…君たちはほんと面白いな。それなら私はここに入るとにするよ。よろしくなメロ、ココ、ザック。そしてアスタ!」



「「「「よろしく!!」」」」



「名前を決めよう!」



「悪いが僕はパスだ。ポーションを作る工房に用がある」



メロは僕の言葉にパッと目を輝かせ、覗き込むように見てきた。



「私もついていっていいですか?」



魔導士というだけあって、ポーションに興味があるのだろうか?断る理由もないので工房にはメロと共に行くことにする。



「なんだよ参加しないのか?なら俺たち3人で考えておくから!何になっても参加してないのが悪い!文句言うなよ!」



「わかってるよ」



なうして酒場を後にして三人と別れた。そしてメロとともに自分でもポーションが作れる観光地としても多少有名な工房に向かった。



「何かポーションでも作るんですか?」



「んー?いや、ココの腕が再生するくらいのポーションができないかなーって」



「アスタって優しいですね!私も協力しますよっ!」



「ありがとう!」



工房に着き事情を話すと、工房のおっちゃんは顔を曇らせて、頬をかいている。



「そりゃー無理な話だ」



申し訳なさそうに呟く。


理由を聞くと、ポーションの材料を加工する段階でどうしても劣化してしまうため腕が再生するほど強力な、完全回復フルポーションは作成ができないらしい。


ここで僕は一つ名案を思いついた。僕にはここまで一度も活躍してないがアテナの説明では役に立ちそうなスキル[創造]がある。活用しないわけにもいかないだろう。



(アテナ。創造どうやって使うの?)



【本来は必要となる素材を手元に置いてイメージをしながら造るのですが、[異空間]のスキルがあるため、そこに材料を収納していれば、あとは頭で作りたい物を思うだけで作成できますよ】



なるほどなるほど.....妄想が得意な僕からしたらとっても簡単だ。



「わかりました。なら空瓶をいくつか売ってくれませんか?」



「おうすまねーな。それなら構わねーよ。代わりといっちゃなんだが、安くしとくよ。」



「ありがとうございます!」



ポーションを作るには無駄であろうモリモリの筋肉をしている優しいおっちゃんがいた工房を後にし、空瓶を持ち帰り滞在していた宿屋で作成を開始した。



「手伝うことあります?」



「えっと、ポーションができたら蓋して、どんどん次の空瓶もらえる?」



「わかりました!任せてください!」



「じゃあ行くぞ!」



「うん!」



瓶を握ると早速開始した。

工程を想像しやすいように目を閉じた。

紫陽草ハイドランジア扇草グラウンドアイビー潰して混ぜ合わせて…それを液体にして…



【作成に成功】



アナウンスを聞き目を開けると握っていた空瓶に緑色の液体が溜まっていた。

それを急いでメロに渡して蓋をしてもらった。



(アテナ。鑑定してくれ!)



上回復グレートポーション。大怪我でも一瞬で回復することができますが、欠損した部分の回復はできません】



何がいけなかったのだろうか?不満な顔をしている僕を無視し、メロは目を丸くして不思議そうに、興味津々に僕の手元と瓶の中の液体を眺めていた。



「すごい…これがふるぽーしょん??」



「いや、それは上回復グレートポーションって言って、完全回復フルじゃない…」



「そうなんですね。でもすごいですよ!握っているだけなのに上回復グレートポーションを作るなんて!なんの魔法ですか?」



「んー。これは魔法じゃなくてスキルなんだ」



「なんだ....私でもできるかと期待していたのに.....」



頬をプクッと膨らませ俯いてしまった。メロはかなりポーションが好きらしい。今度何かプレゼントでもしようと思い、メロの肩をちょいちょいと軽く叩き、再び助手として手伝ってもらい、空瓶を握ると再び目を閉じた。


二つの薬草を潰して混ぜ合わせて…それを液体にして…



上回復グレートポーションです】


上回復グレートポーションです】



何度やってもできるのは、上回復グレートポーションだった。気がつけば20本の上回復グレートポーションができていた。



(足りない材料があるのか?)



小回復ライトポーションも中回復ミドルポーションも上回復グレートポーションも完全回復フルポーションも材料に変わりはありません。効果を左右するのは劣化度です】



劣化度…劣化度.....


「そうか。大事なことを忘れていた!メロ。瓶を今度こそできる気がする」



「頑張ってください!」



瓶を握り目を閉じる。



紫陽草ハイドランジア扇草グラウンドアイビーを劣化しないように潰して混ぜ合わせて…劣化しないように液体にする…



【作成成功】



恐る恐る目を開けると、液体の色が透明になっていた。



(これは?)



完全回復フルポーションです】



「やったぞ!メロ!完成だ!!」



「すごい。この透明な水がふるぽーしょん?なんですね!おめでとうございます!」



その後、念のため5本だけ完全回復フルポーションを作った。まさかこんな簡単に、作成できるなんて創造恐るべし…だけど、しっかりと創造しないと、別の物ができてしまうらしい?回復系のポーションは性能が上がると透明度が変わるようだ。


小回復ライトは赤で、中回復ミドルは濃い青で、上回復グレート薄い緑になり、完全回復フルで透明となる。


なかなか面白い。メロには、ザック達が心配なので先に帰ってもらった。


上回復グレートは正直いらなかったので、買い取りもやってると書かれたポスターが貼ってある先程のポーション工房に売ることにした。



「昼ぶりだな!」



「あんちゃん。また来たのか?今度はどうした?」



「これ売りたいんだけど…」



袋に詰めた上回復グレートポーションを出すと工房のおじさんの目の色が変わった。



「こ、これをどこで?」



「僕が作ったんですけど.....買ってくれませんか?」



「まじか。こんな子供が.....俺が三十年かけてようやく作れるようになった上回復グレートポーションをものの1時間で量産するなんて....どうやったんだ?」



「ごめんなさい。それは言えないです」



こちらの世界の常識は未だ不明点が多い。下手な事を赤の他人にペラペラ話すのは得策ではないだろう。



「仕方ねーか.....って!その腰のポーションは.....まっ、まさか!!!!完全回復フルポーションじゃねぇのか!?」



「はい.....?今5本ありますよ?」



「それ一本と上回復グレートポーション全て売ってくれ!それと聖金貨一枚と金貨15枚を払う!」



「聖金貨ってなんですか?」



「知らないのか?この世界で一番価値の高い硬貨でこれ一枚で立派な家が三軒は建つ代物だ!どうだ?」



え?金貨以上の硬貨あんの??



【失礼します。聖金貨とは金貨150枚分に相当するこの世界で流通する硬貨の中で一番価値のある硬貨です】



そうなのか・・・って!



「いやいや!多いですよ!」



「ポーション職人の俺が完全回復フルポーションを作るためにどれだけ苦労してると思うのか!この世界でソレを作れるのは、元勇者様で今ではとある国の王にまでなられた伝説の職人ただ1人!分析して流通できるほど作ればそんなの端金だ!受けとれ!」



少しだけおっちゃんの話を聞いてみたが、ザックたちの話からも察してはいたとおり勇者=転生者はこの世界の常識だそうで.....ポーションの工程を話さなかったのは正解だな。


売る行為も危険ではあるものの、このおっちゃんの目はまさしく職人の探究心だろう。有効的に接して恩を売るか、拒絶し無理矢理にでも情報を引き出そうと襲われる危険性を生むか。答えは前者だ。



「わかりました…」



いきなりお金持ちになった気分。やったね!


一時的ではあるがお金持ちになり気分も上がりスキップしながらの帰り道。


近道として裏路地にはいるとそこは悪臭が漂っていた。悪臭の原因を探しているとそこには人間の死体が三つ転がっていた。


前の自分ならこんなグロテスクな死体を見たら錯乱していただろう。


しかし今の自分はこの死体を前に顔色一つ変えることはなかった。仮にも悪魔なのだ。その影響なのかもしれない。

 

その死体に近づくと手を触れ三つとも収納した。素材が増えてラッキーくらいの感情だった。


その感情は危ないと思いつつもこれからする事を考えると、その感情を黙認するしかないのだ。



【警告します。こちらに殺気を持つ個体が10名ほど近づいてきます】



(あぁ。気がついてるよ。てかなんでアテナも殺気を感知できるんだ?)



【勝手に[殺気感知]を合成しました。合成しても[探知]や[殺気感知]の能力はあなたも使用できますのでご安心を】



(そうなんだ。別にそういう系のスキルなら勝手に合成して構わないから)



【ありがとうございます】



「おいおい〜お嬢ちゃん?こんなところで1人で何してるのかなぁ?」



お嬢ちゃんと言われるのはムカつく。



【逃げますか?】



(いいや?こいつらは実験台になってもらう。危害を加えてこなければ見逃すが、そうでない場合は…)



皆殺しだ。

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