第15話 エレナVS転生者?

「っち…分身デコイか。スタンリー!俺は左に行く。お前は右行け。それが分身デコイなら真ん中行け」 



「かしこまりました」



本当にあの男女は面白い。先ほどまで使えなかったはずのスキルを使っている。


やはり転生者か?


しばらく進むと、再び分身デコイで撹乱しようとしている。大通りとさらに路地に続く道だ。頭は切れるようだが、詰めが甘い。路地側は走るには狭すぎる。ましては人を担ぎながら通るなど無理だ。迷いなく大通り方面に行った。


だがそっち系のスキルを覚えていない俺は、分身デコイを一体一体鑑定しないと見分けるのが難しくどちらにしても面倒くさい。



「さっきより速くなってやがるな…快速のスキルレベルが上がったのか」


「クックッ。本当に面白い奴め。だが、快速の上位スキルの[神速]から逃げられるかな?」



もう少しで追いつく。



狼雷ウルフサンダー!!〉



突然魔法が飛んできた。走りながら体を捻り回避したつもりだったが、魔法は俺の動きに合わせるように曲がり直撃した。追尾型の魔法らしい。厄介だ。だが大したことない。


手で魔法を防ぐと、俺は神速スーパーアクセルを発動させて追いかけた。すると再び魔法が飛んでくる。



狼雷ウルフサンダー!〉



うざったい。しかし2発目となると慣れてくるものでいちいち避ける動作を入れずに、歩みは止めずに手で魔法を防いだ。


俺の腕巻いてある包帯はただのおしゃれではない。歴とした魔法道具で、魔法限定で1日に一回だけ完全に防ぐことができる。こんなところで両腕分消費するのは勿体無い気もするが、仕事を早く終わらせるためなら構わないだろう。



無垢なる炎ヴァージン・ウリエルで消し飛ばすか」



魔法を撃とうと詠唱を始めた時、どこからともなく麻縄のようなものが俺目掛け飛び、腕を巻き込み胴体をぐるぐる巻きにする。



拘束バインド!〉



拘束されること自体は一瞬で外せるので問題は無いが、魔法をキャンセルされるのはうざい。


その間に拘束バインドを使った女はすぐに何処かに行ってしまい、肝心の本命もわからなくなってしまった。しかし分身デコイっぽいのをガン無視して進むと、一台の馬車とメインの女が立っていた。



「貴様を通す訳にはいかない」



「いいねぇ。お前獣人の中でもレアな人狼だろ?しかもその上位種と来た。顔を隠してるみたいだが俺には意味がないぞぉ?人狼の上位種となればそこら辺の雑魚よりは楽しめそうだ」



「すまないが、遊んでいる暇はない」



「安心しろよ。お前の都合なんて知らねーから」



自慢の愛剣であるクラレントを背中の鞘から抜く。透き通るほど綺麗で赤い刃。力任せに振るうために、与え刃先を短く設計したサーベル型の剣。


剣を抜くほどの相手は久しぶりだ。剣を握る手に少し違和感があり、お手玉のように剣を右手へ左手へ移し替えながら慣らす。



「ほら来いよ?」



人差し指でクイクイと挑発をしながら、俺は戦える楽しみから思わず笑みが溢れる。



「なら遠慮なく行かせてもらうっ!〈雷吐息ライトニングブレス〉」



女は先ほど見せた魔法とは違い、口を開き白く光る光線を口から吐き出す。吐息ブレスは一部の種族しか使えないランク魔法であり、その上威力もかなりものだ。1発程度くらっても特に問題は無いが、スキル獣化ジュウカを警戒し、剣に魔力を込め魔法を叩き斬る。



狼雷ウルフサンダーッ〉



「芸がないな....っ!」



驚いた。追尾型なのを利用し、魔法を真横に放つことで俺への着弾を遅らせ、魔法を唱え終えたと同時に女も飛び出し、魔法の着弾に合わせるように、電気を帯びた拳で殴りかかってきたのだ。



「ははっ!戦い慣れしてるなぁ?」



「それほどでもないさ」



そのまま接近戦にもつれ込み、俺が放つ剣による薙ぎ払いを強蹴撃キックのスキルで威力を上昇させた右足での蹴りで受け止め、軽く飛び上がるともう片方の足にも同様のスキルで威力を上昇させた蹴りを放つ。


つかず両手で掴んでいる剣を片手に持ち変え、飛んでくる蹴りをもう片方の手でがっしりと捕まえ、威力を利用して後ろへと女を投げ飛ばす。


無様な姿を拝んでやろうと背後を振り返ると、ほぼ同じタイミングで女は舞い散る瓦礫のは変を蹴り、飛んできた石の破片が俺の頬を掠める。


頬から零れ落ちる血を手で拭い、俺は隠しきれない高揚感から身震いした。魔王が死んで以来、俺を楽しませてくれる相手はいなくなった。決戦の果てに掴んだのは、偽りの平和による退屈。だがそれを壊す力は今の俺には無い。アイツ・・・のように更なる高みへ行くために、俺はこの女も、あの男女も踏み台にする。


再び女に急接近し剣での攻撃を仕掛けるも、雷を纏った腕で女は受けるの一点張り。躱す訳でもなくひたすらに受け流す。拳如きで俺の剣を防ぐことには多少の驚きはあるものの、攻撃に転じる暇が無いらしく飽きてくる。 



「どーした?もう終わりかよ」



「くっ.....〈雷吐息ライトニングブレス!〉」



苦し紛れの一発だろう。もはや威力も先ほどと比べ見劣りする。



「馬鹿が!もっと楽しませ……あぁ?」



躱す価値もないと、俺は女の一撃を手で弾き返した。だが同時に身体が締め付けられるような感覚に襲われ、思わず膝をつく。



「君が馬鹿でよかった。麻痺だ。流石に動けまい。確かに君は私なんかより全然強いが、相手を舐めるのは良くないぞ?全ての雷属性の攻撃魔法には麻痺の危険はあることくらい知っていることだろうに。次は気をつけると良い。さらばだ」



そう言うと、女は走り出した馬車に飛び乗り、走り去ってしまった。



【熟練度が一定に達したため[麻痺耐性]を獲得しました】



アナウンスとともに少し動けるようになり、追っかけようと思ったがあいつらが強くなって俺を楽しませてくれたほうが利益があるとそれ以上の追走を諦めた。



「くくっ。せいぜい強くなれよ.....?」



「すいません。事情を聞き急いできました。これリンゴです。それで奴らは?」



「逃げた。リンゴサンキュー」



髪をたくし上げ、貰ったリンゴを一口齧る。口に広がる酸味と甘味がだるい体に染み渡る。



「ふぅ。スタンリーを呼び戻して帰るぞ」



「よろしいのですか?」



「もう飽きたからな」



「はっ!」



またあいつらが楽しませてくれる事を期待しながら、俺らは自国へと帰った。






エレナさんたちから少し離れた場所で馬車を停めてもらい、俺は彼女の帰りを待った。



「お客さん!あそこの2人が騒ぎ起こしてんですがぁ…あれを乗せるのはちょっとねぇ」



「うるさいですよ。これで満足ですか?」



ポッケに入っていた金貨を一枚馬車の運転手に渡した。



「へいっ!三人揃うまで待機してます!」



金貨は大金だったが、待ってもらうためなら安いものだ。


もしかしたらという心配も杞憂で終わり、エレナさんはあの男を止めて馬車に乗り込んできた。



「遅れてすまない。行こう」



「発車してください!」



「了解ですっ!」



出発してからしばらくして、落ちついつたところでエレナさんが口を開いた。



「2人とも礼を言う。ありがとう」



「いえいえ!お礼ならアスタに言ってよ!私は馬車呼んだだけだし!そう言えば名前言ってなかった。私はココ!あなたは?」



「いやいや。ココのおかげでもある。私はエレナだ」



「顔みたい!」



「フフッ。君たちは似ているのだな」



エレナさんの顔を再び拝むことができて、内心ココによくやった。と言った。



「へぇ〜人狼なんだ!しかも人間っぽい感じ上位種?」



なんか馬鹿っぽいと思ってたけど、2人の会話聞いてるとココが頭良く見えるなぁ。エレナさんって上位種?なんだ。



「上位種になると、熱龍熊ニーズヘッグベアみたいにゴツくなるものだと思ってたわ」



「あれこそ特殊でしょ」



熱龍熊ニーズヘッグベアと戦ったことがあるのか?君たちは相当な実力者なのだな。ココの言うとおり私は人狼の上位種だ」



「やっぱりそうなんだね!昔に私がいたところにも獣人の上位種の子がいたよぉ!」



「ほぅ.....ぜひ今度会わせて欲しいものだな」



「いいよー!で、エレナはなんで追われているの?」



「この指輪が目当てだろう。とある勇者様からあずかている物なのだが、これはとてつもなく強い力があるらしい。これを狙って私を追う連中も多い」



「大変じゃん!ならさ?ならさ?うちのパーティーに入らない?」



「君は話を聞いていたか?私が入っても迷惑なだけだ」



「大丈夫だよ!私たちも強いもん!仲間がいればエレナも安心できるでしょ?そうだよねアスタ?」



今日のココの言動は素晴らしいすぎる。


同じパーティーに入ってくれれば、毎日エレナさんを拝める。何がなんでも入ってもらうしかない。



「その通りだよな!僕たちもエレナさんがいたら心強いし!」



「だよね!」


「ね?アスタもこう言ってるでしょ?入って!」



「では、こうしよう。君たちの他の仲間にも事情を包み隠さず話して誰か1人でも拒否すれば、私は入らない。だがそれでも全員同意してくれた際には…お世話になるとしようではないか」



「うん良いよ!」



ザックにメロなら承諾すると信じている。

いざとなれば、どんな手段を使ってでもっ!

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