第14話 逃走

結局、エレナさんとかれこれ数十分ほど裏路地で話していた。だが楽しい時間もすぐに終わろうとしていた。


頭上にあった太陽が傾き始めたのをエレナさんは確認し、はぁとため息をつく。



「長く話しすぎた、そろそろ行かねば…アスタ。君とはまたどこかで、会いたいものだ。それに綺麗など初めて言われた。世辞でも本当に嬉しかったぞ」



もっと話したいし、出来れば一緒にお出掛けなんかもしてみたいか.....これ以上引き止めるのも悪い。そう思いエレナさんとともに、裏路地から出た。


しつこい男は嫌われると本で読んだ事があるからな。




「おい。あのクソアマ見失うとか、死んだ方がいいだろ」



「申し訳ありませんユウト様!探しているのでしばしお待ちをっ!」



白い線の入った黒い半袖ロングコートの内側に鉄の鎧を身につけ、両腕には包帯を巻いている。ボサボサのセンター分け、赤い瞳に異世界にそぐわないピアスを幾つも耳につける少年が、40代にしては老けて見える薄汚れた鎧を装備する白髪の男を責める。



「分かったから消えろ」



「はいっ…」



面倒くさい。銀髪の女が持っている指輪を回収するためなんかに駆り出されたのだ。指輪には莫大な力が封じ込められているとかなんとか。

だが俺はそんな物に興味はない。強い相手と戦って力をつけたいだけだ。



「おいアイデン。消える前に腹が減ったから、なんか買ってこい」



「了解です」



アイデンともう一人、深緑色のローブに金色の装飾が施された豪華な弓を装備したスタンリーって名前の若い兵士の俺の三人はパーティー。うちの国の王様の使えねー騎士よりは、よっぽど良い。転生者ほど強くはないがそれに劣らない力を持ってるし、俺の言うことを聞くからな。


ボケーと通行人を眺めていると、裏路地から面白そうな奴が現れた。明らかに日本人のような顔立ち。転生者全員の顔は覚えている。だがあんな奴は見たことがない。



「面白そうなやつだなぁ〜あの女。鑑定しちゃお〜」



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タイガ Lv40[闇属性]

[縺ゅ¥縺セ]

[魔導士Lv2]


体力 737

魔力 1086

知力 1341

攻撃 709

防御 964

魔法攻撃 849

魔法防御 410

素早さ 1111


スキル[創造Lv5][繧峨∪縺ッLv1]

[嫉妬Lv1][怠惰Lv1][苦痛耐性Lv5]

[毒耐性Lv1][思考加速Lv3][投擲Lv2][農家Lv3][快速Lv2]

[硬糸Lv1][斬撃Lv1][父なる聖剣Lv1] 


魔法[火球ファイヤーボールLv1][閃光フラッシュLv1]

小回復ライトヒールLv1][麻痺霧スタンミストLv1]


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「おーおー。情報がいっぱいだねぇ。スキルの数も多い。それに俺の鑑定はレベマの10だぞ?文字化け?があるって…当たりだな。面白そうなやつだ。女じゃなくて男ってのが残念だが…タイガ?日本っぽい名前だが紛らわしいだけかぁ?」



「スタンリー。あそこにいるローブ着た男女分かるか?あれ射抜いてみろ」



「良いのですか?」



「あぁ。許可しよう。だがそれ以外の奴には当てんなよ」



「わかりました」



スタンリーの狙撃の技術は高く、3キロ先のリンゴでさえ確実に射抜く。



「では、行きます」



「あぁ」



[思考加速]に[予知]を極めたスタンリーはタイガって奴の動きを読んだ上で放った上で[分身デコイ]に〈不可視化インビジブル〉を発動し纏わせた矢は、やはり本物の矢の飛ぶ方向へと走り出そうとしている。スタンリーの予想通りだろうが.....



「おっ、やっぱり避けたか」



だがあの男は急激に動きを止め矢をギリギリのラインで躱してみせる。まるで攻撃を見切ったように。



「避けられてしまうとは…私もまだまだなようで…もうわけありません」



「いや、構わない。だがあの男女おとこおんなは捕まえたい。追うぞ」



「かしこまりました」



男は明らかにこちらを凝視している。場所がわかるのか。いや.....鑑定を持っていれば当然か。

すぐに男は慌てた様子で、自らの背丈より大きな銀髪の女を抱き抱え、俺たちから距離を取るように走り出す。何故あの女を連れていく必要があるのだろうか。


「かんてーいっと」



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エレナ Lv61 [雷属性]

[獣人種]

[武闘士Lv8][盗賊士Lv2]


体力 3490

魔力 946

知力 976

攻撃 4705

防御 3721

魔法攻撃 657

魔法防御 1744

素早さ 2684


スキル[野性の勘Lv4][遠吠えLv2]

[厚い毛皮Lv2][快速Lv1]

[身体強化Lv6][雷強化Lv4]  

[攻撃強化Lv7][威圧Lv3]

[火脆弱Lv5][毒脆弱Lv1]

[斬撃脆弱Lv8][雷大耐性Lv4]

[避雷針Lv4][帯電Lv5]

[飛電Lv9][雷轟電撃Lv2]

[隠密Lv9][斬撃Lv5]

[麻痺牙Lv8][噛砕きLv6]

[獣化Lv10][雷纏Lv7]

[強打Lv10][雷強打Lv5]

[強蹴撃Lv3][恐怖邪眼Lv1]


魔法[雷吐息ライトニングブレスLv3][狼雷ウルフサンダーLv7]

 

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本当に当たりだなぁ今日は。銀髪女の名前は確かエレナとか言ったもんなぁ!



「おい!あの抱えられているやつ、探してたエレナとか言う奴だぜぇ〜?一石二鳥だな!」



「左様ですか。では、あの走っている方は護衛か何かでしょうかね?」



「知るか。捕まえればいい話だ」



「はっ!」



必ずあの女を捕まえてやる。そしてタイガとかいう男にはたんまり楽しませてもらう。俺は背中から剣を抜き、時計台から飛び降りた。




【警告。何者かに狙われています】



俺が長く引き留めたせいでエレナさんが狙われているのか。



(どこからだ!?)



【真後ろの時計台です】



後ろを振り返ると細い糸のようなものがこちらへ飛んできている。


糸は近づくにつれ形が変わり、遠くからでは分からなかったがそれは矢のようだった。



【魔法[分身デコイ]を習得しました】



【本物は透明化しています。みえている矢は分身デコイによる複製です。動く必要性はありません】


びっくりした。偽物と分かってても矢が飛んでくるのコワイ。


地面を見ると透明化が解けた矢が突き刺さっている。突き刺さった矢を見たエレナさんは目を一瞬大きく開け、すぐに威圧感のある険しい顔に変わった。



「ちっ!すまない!私のせいで君を危険な目に合わせてしまったようだ!」



「大丈夫ですよ!」



僕は慌ててエレナさんの許可も取らず、本で読んだファイヤーマンズキャリーという人の持ち方で、正対したエレナさんの腋の下から自分の首を差し入れ、そのまま担ぎ上げ走り出す。



「何をする!降ろせ!」



自分でも驚くほどの手際の良さで、エレナさんを抵抗する暇もなく抱き上げ走り出したため、走り出してから抵抗をされる。だが今更置いて逃げる気もない。



「嫌です!恩人を殺させはしないっ!」



エレナさんを狙ったであろう弓兵と、もう1人黒いローブと黒剣を持った日本人っぽい顔立ちの少年が俺たちを追いかけてきている。とてつもない速度だ。


すごくまずい気がする。確実に転生者だ。

しかもいきなり敵対反応を示されるなんて。今の僕で勝てるわけがない。



「君では無理だアスタ!私を捨てて逃げろ!」


 

「うるさいですよ!いいですか?うちの故郷では、女性は男が死んでも守らないといけないものなんです!!!」



だが今更、彼女を差し出すようなマネはしたくないし、腹を括るしかない。



「君の故郷は、面白い風習があるのだな。しかし、君が命をかけてまで守るようなことはしてないだろう!」



「ほんと黙って守られてて下さい!たしかに!そんな義理はないかもしれないです!けど、あなたに一目惚れしたんです!だから守らせて下さい」



「っく!私なんかより良いメスなんて他にいるかでもいるだろう!差別対象である獣人の私なんか好きになるものではない!」



もういい知らない。自分の魅力をわかってなさすぎだ。無視してやる!



(アテナ!追いつかれそうなんだけど、なんとかならない?)



【かしこまりました。今からナビゲートするので指示通りに全て動いて下さい】


(わかった!)



【スキル[快速]を発動して下さい】


(おっけー!)



一度だけ使ったことはあるが、快速は一気に速くなるから酔う。しかしそんなことで嫌がる暇などない。



快速アクセルっ!!」



【後ろに手をかざして火球ファイヤーボールを撃ち、二つ目の路地で右に曲がって下さい】



火球ファイヤーボール!〉



当たるわけもなく簡単に躱されてしまったが、恐らく当たらない前提で撃てと言っているのだろう。


ハノーファーが入り組んでいる街で良かった。一直線なら、もう捕まってもおかしくなかっただろう。



【その先に三つの曲がり角があるので、左に行ってください。直線と右側に分身デコイを放って下さい】



分身デコイ発動!」



【言わなくても発動できますよ。ですが好調です。次の角で大通りに戻り直前にまた分身デコイを放って下さい】



(はいはい。ごめんなさいね!)



再び分身デコイを放ち大通りに急いで走った。



【独断で追ってきている2名の者を鑑定しましたが、ほとんどが不明でした。しかし両者とも[探知]を持っている事は判明したので、ある程度突き放さなければ逃げる事は不可能です。快速を連発して下さい】



言われた通りに快速を連発したが、別に使った分だけ速さが増すわけでもない。

逆にオンオフを繰り返すので、使い続けるより遅くなっている。恐らくスキルレベルアップを狙っているのだろう。



【熟練度が一定に達した[快速]のレベルが上がりました】



スキルレベルが上がり、さっきよりも速く走れるようになったのを感じる。



【ここをまっすぐ行ってください】


【警告。一名が追いついてきます】



快速のレベルが上がりさっきよりも速く動いてるはずなのに…いくらなんでも速すぎる。



(どうすればいい?)



【戦闘で勝つ事は不可能です。現在様々な案を作成中です…全力で逃げてください】



「君程度ではすぐに追いつかれてしまうと思っていたが、やるな!私も少しくらいは何かせねばな」



さっきまで黙って担がれていたエレナさんが突然口を開き、手をかざしながら魔法を放った。



狼雷ウルフサンダー!!〉



普通に驚いた。


狼を模ったような青白い光線が、激しい音と共に地面を抉りながら真っ直ぐと飛ぶ。そして追ってきている者に直撃した。その威力といい、速度といいえげつなかった。少年は攻撃をくらい一度は止まりはした。が跪くこともなくまたすぐに走り始めた。



「まじかよ!あれくらって動くの!?」



「やはりか…あれはかなり強いぞ。追いつかれたら二人とも簡単に殺されるだろう。いいのだぞ?私を捨てても」



「諦めてくれたと思ったとに、またそれですか?黙っててください!」



「ふふっ。私を庇った時点で、君も殺す対象だろうな。アレを相手取った所で私も殺されるだろう。わかった。私は大人しく君に命運を託すとでもしよう」



【エレナにもう一度魔法を撃ってもらってください。そしてその隙に、数回分身デコイを放ってください】



「エレナさん!もう一度あれ撃てますか?」



「黙ってて欲しいのではなかったか?まぁいい。できるが仕留める事はできないぞ?」



「僕の質問だけに答えてください!お願いします!」



「了解した。〈狼雷ウルフサンダー!〉」



エレナさんが撃った瞬間に分身デコイを6回ほど放った。先ほどより怯む時間が短く、すぐに動き始めた。しかし分身デコイの量が多くさすがに戸惑っているようだ。


止まったと思ったら、相手は手を空にかざした。



【警告。Sランク魔法がきます。このままでは全滅です。残された手は彼女を置いて逃げることのみです】



えすらんく?兎に角やばそうだ。

だがエレナさんを見捨てるという選択肢が無い以上、離れる以外にできることがなかった。



「アスタ!あの魔法はやばいぞ!君はよくやった!もういい!」



「はぁ!!〈拘束バインド!〉」



【敵の魔法がキャンセルされました】



「アスタぁっ!!こんなところで何やってんの?」



天真爛漫で元気な高声。

そんな知り合いは1人しかいない。



「ココ!」



「そ・れ・に!担いでる人は誰〜?誘拐でもしてるのぉー?」



「はじめましてだな。誘拐されているわけではない。彼に助けてもらっている」



「そうだぞ!人聞き悪いこと言うな!」



「ならいいんだけど!じゃあ、あっちの黒いおにーさんは敵だねっ!てか分身デコイなんて覚えてるんだ!いいねっ!とりあえず私が先に行って馬車を捕まえとくからすぐにきて!」



「わかった!」



偶然会っただけなのに、状況の飲み込みがめちゃくちゃ早い。前を見ることなく、僕たちに手をブンブン振りながら、後ろ走りで走るココの速度は凄まじく、あっという間に姿が見えなくなった。



「君の仲間か?彼女とても頼もしいな」



「ほんとですよ。片腕を失ったばかりなのにあれだけ頼りになるんですから!」



僕もここが走って行った方向へと一心不乱に走り続けていると、



「こっち!!!」



馬車を捕まえたココ手を振り僕たちをが 呼んでいた。



「アスタ。おろしてくれ」



「今更っ────」

「────大丈夫だ君たちにここまでしてもらっておいて、助けてもらわないなんて薄情な真似はしない。だがあの敵がもう来ている。出発する前に追いつかれては共倒れだ!それとも君が一目惚れしたと女の力が信用できないのか?」



「ずるいですね…わかりました」



エレナさんを下ろすとココと馬車に乗り少し移動するように馬車の運転手に告げた。



「あの人は?来ないの?」



「大丈夫だ。すぐ乗ってくる」



そう。エレナさんなら必ず。

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