第13話 恋の予感

さようなら。


16年間.....思えば長いようで短い時間だ。

色々あったが今日でお別れだ。





童貞よ。





「そんなに硬らなくても平気ですよ?」



「は、はい」



奥に通され、柔らかい椅子の上で、出てきたお茶とお菓子を目の前に硬直していた。



「こんな如何いかがわしいお店で、すいませんね?私たち獣人はこんなことでもしないと生計を立てられなくて、奴隷から逃げるためには、多額の税を納める必要もあるので・・・」



もしかして勘違いか?



「えっと、お茶だけですよね?」



「はい!ですが、もし相手を探すと言うのならそれでも構いませんよ?強くて優しいアスタ様でしたら、どの子でも喜んでくれますよ!もちろん無料タダで」



「あ、いえ大丈夫です」



勘違いでよかった。


そんな思いは建前で、正直なところはお願いしたかった。しかし休暇中にそんな事をしているなんて罪悪感がある。それに知られた暁には、恥ずかしくてパーティーメンバーに顔向けできない。ザックは通ってそうだが。


それにしても酷い話だ。獣人ってだけで奴隷か水商売のどちらか2択歯科選べないなどあまりにも可哀想だ。


魔王になる男とは思えない考えに思わず自分自身に笑ってしまう。



(アテナさん?この世界の獣人ってどのくらいいるとかわかるの?)



【はい。おおよそ人種が9に対して獣人を含めたその他が1です。ちなみに人種が勢力を拡大する前数年前まではその比率は人間4。その他6でした。人種が増えたのもありますが、それ以上にその他の種族を人種が大量に減らしたため、このような比率に変化したようです】



たった数年でここまで比率が変化するなど一体どれだけの数の亜人やモンスターを狩ったのだろうか。僕なんかよりよっぽど魔王してるじゃないか人間は。だが腹が立つな。


考え込んでいると、不快な気持ちが顔に出ていたようで、ニーナさんは不安そうに震えまじりに声をかけてきた。



「あ、あのぉ?お気に召しませんでしたか?」



「あっ、いえとても美味しいです!考え事をしてたらついのめり込んでしまって。お恥ずかしい」



「それならよかった。大丈夫ですよ!しかし人間の方でもお優しい方がいるなんて驚きました。本当に感謝してもし足りないです」



「いえいえ。差し支えなければですが、あの袋に何入っていたか教えてもらっても?」



「はい。これなのですが…」



ニーナさんが袋から出したのは一つの指輪だった。


(これなんだ?)


【解析不能。しかしこの世界に存在しない強大な力を秘めた宝石をはめ込んだ指輪です】



まじか。この世界に存在しない物?つまり…異世界から渡ってきた時に授かれるって物の一つなのか…?


しかしなぜ異世界人でもないニーナさんが持っているか全く分からない。



「それをどこで手に入れたんですか?」



「私の物ではないんです。これはこのお店を守ってくれた恩人の方から預かっている物なんです」



その恩人が異世界人なのであろうか。



「その恩人ってどんな────」

「────ニーナ!恩人様がいらっしゃったよ!」


なんとタイムリーなこと。


奥から出てきたおばさんの猫獣人の女性に遮られてしまったが、本人がきたと言うのは好都合だ。是非コンタクトを取りたい。



「すいません…少し席を外しますね」



「よかったらついて行っても?」



「は、はい。構いませんが?」



ニーナさんと共に入り口に向かうと、フードを深くかぶった人?が立っていた。僕は背筋に電気が走る感覚を覚える。


見覚えがある姿だった。

それはこの世界で、金も頼れる人もいなくて食べ物に困っていた時にパンをくれた人。パンと水だけだったが、この世界で初めて触れた優しさの感動を忘れるわけがない。


いつか会いたいと思っていたが、こんなに早く会う機会に恵まれるなんて。


しかし声をかける前に、ニーナさんから指輪を受け取ると僕にとっても恩人の彼女はすぐに出て行ってしまった。



「ニーナさんすいません!お茶とお菓子美味しかったです!急用ができてしまったので僕ももう行きます!!それじゃあまた!」



「お、お待ちください!」



フードの人を追うため、お店を後にした。



「待ってください!」



追いかけると、何かと勘違いをしているのかスピードを上げて逃げてしまった。裏路地に入ったので後を追うと、危ないと感じ咄嗟に体制を低くした。



【スキル【殺気感知】を獲得しました】



紙一重でフードの女性から放たれる青白い電気を帯びた蹴りを避けた。戦う気などなかったが、拳を握り締め明らかに敵対している。


命の危険を感じ、僕も咄嗟に刀を抜く。



「何かと勘違いしてませんか!ただお礼を!!」



「お礼を言われることをしたか?そうやって近づいて指輪を奪うつもりだろ?それに武器を構えて.....」



言葉で弁解するのは無理らしい。今度は拳に電気を纏わせ突撃してくる中、刀を捨て目を瞑った。


目を開けると、目の前に握りしめられた拳があった。


怖っ・・・



「…すまない。どうやら君の言っている事は本当なのだろう。だが、大目に見てくれ。追われているのでな」



そう言うとフードの彼女は手を広げ肩を回した。僕も一息付き、地面に転がる刀を拾い上げ鞘にしまった。



「いえ、僕も突然追いかけたのが悪いですから」



「お礼と言ってたな?私が何かしたか?」



「覚えてないと思いますが、半年前くらいにパンと水を貰ったお礼です!」



「ん?あぁ.....ふふっ…はははっ!いや、すまない。そんなことのお礼を言うためにわざわざ追いかけてきたのか。君を覚えているよ。盗賊に金を取られた非常識な少年だろう?まさか半年ほどで、ここまで立派になるとは驚いた」



この人とまた会えて嬉しかった。しかも覚えていてくれるなんて!



「あのよかったら、顔見せてくれませんか?」



性別は前から声で女と想像ついていた。顔が見たいといのは、ただの興味だ。



「・・・。まぁ構わない」



フードを取り口元の布を解いて顔を見せてくれた。



「綺麗だ…」



つい、口から本音が漏れてしまった。


少しウェーブした銀色の長い髪。つり目で琥珀のような色の瞳。汚れてはいるが、なおも分かる色白で綺麗な肌。人間だと思っていたが、見慣れない獣の耳が付いていた。


あの指輪の持ち主が異世界人ではなく現地の獣人という事実よりも、その顔がドストライクでそれどころじゃなかった。



「世辞でも嬉しい。ありがとうな」



笑った時に見える八重歯も最高だ。


前世では、異性との絡みなんて母と妹くらいで一目惚れありえないと思っていた。しかしこれはあれだ。一目惚れだ。つい見惚れていると少し照れたように急いでまた顔を隠してしまった。



「君も顔は女らしく可愛いぞ?」



女らしい顔と言われるのは昔からのコンプレックスであり、言われたくないことだったが、彼女に言われるのは嫌ではなかった。


恋の力恐ろしや…



「あのよかったら名前を」



「あぁ。エレナだ」



「エレナさん…良い名前ですね!」



「そう言う君は?」



「アスタです!」



「ほぉ…てっきりソフィアとかリリーなど女っぽい名前かと思っていたが、男らしく良い名前だな」



何故だろう。これだけいじられて笑われているのに嬉しい。


恋って恐ろしやぁぁぁ

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