第11話 火の試練(後編)

状況は最悪だ。


アスタとメロに後ろのやつを任せているが、体格もこっちより大きい。おそらくあっちの竜熊ドラゴングリズリーの方が強い。


俺たちが早くこちらを終わらせて合流しなければ、あいつらがやられてしまう。



「ココ!いつものやつだ!」



「わかった!〈不可視化インビジブル!〉」



ココが魔法で姿を消し、その間に俺が正面から突撃して跳び、上から斬りかかる。当然姿が見えている俺に攻撃を仕掛けてくる。


下がガラ空きになったところでココが懐に入り腹部を斬り裂き、俺は爪による斬撃を体を捻ることでギリギリで回避し、回転の勢いを乗せた上でスキルを発動させ、威力を底上げした一撃を背中にお見舞いする。



「いっくよぉ!斬撃スラッシュ!!」

「おらっ!二連斬撃ダブルスラッシュ!」




腹と背中を斬りつけたが、毛皮が異様に硬いため、たいしてダメージが通らない。このままではだめだ、リーダーである俺がもっと動かなければ。



「ザック!あの毛皮邪魔!あんたが斬った背中を集中して狙って削ごっ!」



「わかった」



それからは、どちらかが注意を引きつけ背中を斬り付ける。


しかし何度か繰り返すと、学習したのか火球ファイヤーボール火吐息ファイヤーブレスを連発して接近をさせないような攻撃をしてくる。


魔法を掻い潜りなんとか近づくと、ドラゴングリズリーの爪が赤黒い光を発しながらその爪で斬りかかってきた。剣で弾こうと爪に刃を当てると、ジュワジュワと剣が溶け出した。



「…っ!」



急いで剣を捨て、後ろに下がった。



「ギャグガァァァァァァァ!!」



何故かドラゴングリズリーの爪から徐々に溶け始めていた。叫びながらも手の一部を噛みちぎることで、竜熊ドラゴングリズリー自身は溶けるのを防いだ。


おそらく腐食の効果のあるスキルを発動させたのだろう。アレは威力こそ絶大だが、腐食に対する耐性がなければ自らもダメージを負ってしまう諸刃の剣。まさに絶好の好機。ココに合図を送り、一気に畳み掛けた。


二刀流が使えないのは痛手だが、一本でもとりあえずは戦える。


だが、この熊野郎は頭が良い。手を噛みちぎって溢れ出ていた血を口から糸を吐き出し巻きつけることで、止血をしていた。しかし弱体化したことは確かだ。先ほどより攻撃が当たる。


徐々に竜熊ドラゴングリズリーの反応が落ちてきている。魔法の使用回数も減ってきた。



「ココ!攻撃をしまくれ!俺が特大のぶち込んでやる!」



ココがうなずくと、短剣を地面につけ低い体制で、短剣を構える。



加速アクセル!!〉



スキルを発動させ、一気に突撃していった。

目にも止まらぬ速さで、全身を広く浅く斬りつけていった。さすが元[刹那の騎士]と恐れられたココ様だ。


俺はその間に体内の魔力を剣の先に溜める。


特殊効果こそ無いが、その分一撃のダメージが高い、俺がやっとの思いで身につけた自慢のスキル。剣を天高く構えると、青白い光の粒が集まり、やがて刃がほんのりと青白く発光を始める。 このスキルの最大の特徴は貯まれば貯めるほど威力が上がる。ココを信じ、俺は時間をかけ一撃で熊野郎を葬れるところまで貯める。



「これで終わりだ!俺の奥義!父なる聖剣グラム!!!」



そう声高らかに叫び、眩い剣を竜熊ドラゴングリズリーに振り下ろした。



間一髪だった。


なんとかメロの前に飛び込み、竜熊ドラゴングリズリーの一撃を受け止めた。ただ焦ってしまい、逆手で刀を持ってしまい力がイマイチ入らない。



「今のうちに下がってくれ!」



おそらくこれを押し返すことは今の僕には不可能だ。メロが下がったことを確認すると、刃を斜めにする事で、上手く爪の斬撃を受け流し、距離を取るため後ろに走った。



「危ない!後ろ!!」



メロの言葉に振り返ると、竜熊ドラゴングリズリーが好機とばかりに、僕の背中目掛けて飛びかかってきていた。振りかざしている爪は光っていた。斬撃スラッシュのスキルを発動したのであろう。



【スキル[斬撃スラッシュ]を獲得しました】



アテナのアナウンスを聞き、とっさに覚えたてのスキルを放った。



斬撃スラッシュ!」



ひぃぃぃ・・・


危なかった。スキルレベル的にも確実に勝てる見込みはなかったが、なんとか吹き飛ばされるだけで済んだ。


なんとか立ち上がり刀を構えようとしたが右腕が変な方向に曲がってしまい動かない。かなり痛いが耐えられる程度。脂汗を滲ませながら僕は左手に刀を持ち替えた。


利き手ではない手で待ったのでどうしても違和感があり、おそらく攻撃を受け流すなどの、器用なことはもう出来ない。



ザックとココは上手にやっているらしい。後方でいい感じに追い詰めている。



【スキル[硬糸]を獲得しました】 



(ちょ!一旦スキルのこととかいらない!集中させてくれ!)



【了解】



そしてザックの叫び声がこだました。



「これで終わりだ!俺の奥義!父なる聖剣グラム!!!」



【スキル[父なる聖剣]を獲得しました】



なんかごめんなさい。とてつもなく罪悪感を感じた。ザックとココは片方を仕留めたようだ。これで残すはこちら側のみ!



急いで4人が、一か所に集まった。どうせ僕は魔法をあまり使わないので魔法を連発することにする。



小回復ライトヒーリング

小回復ライトヒーリング

小回復ライトヒーリング



全回復とはいかないが、少しはマシになるだろう。



「なら私も!〈身体能力向上フィジカルアドバンテージ!〉」



体が赤い光に包まれ、体が動きやすくなった気がする。


竜熊ドラゴングリズリーは片方が殺されてから、こちらに手出しをしてこない。死体を見つめながら、ゆっくりと死体に近づいていた。何をするのかと思ったら、二つの頭で死体を食い始めた。



竜熊ドラゴングリズリーが悪食により、スキル[厚い毛皮Lv2]を獲得。それにより[厚い毛皮Lv4]と統合。[厚い毛皮Lv6]を獲得しました】



(まじかよ!ってか悪食って?)



【[悪食]他者を喰らうことで体力や魔力を回復します。稀にスキルも奪うことが可能です】



「あれを止めろ!体力を回復する気だ!」



「まじか!」



慌てながらメロを除いた3人が一斉に竜熊ドラゴングリズリーへと走り出す。



雷撃ライトニング!〉



メロが魔法で攻撃をして、他の3人で同時に斬りかかった。しかし竜熊ドラゴングリズリーは、こちらの動きを察して、大きな体ながら素早く後ろに下がり躱されてしまった。


剣を振った時に僕は、刀が手から滑り飛んでしまった。幸いにも近くに落ちたので急いで拾ったが、やはり利き手でも微妙なラインなのに利き手でない方の手で振る刀はもはやお荷物レベルだ。



【提案。記憶よりザックの剣術を解析することができます。実行しますか?】



(やってくれ!)



意味はわからなかったが、役に立つなら今はなんだって構わない。



「大丈夫か?いくぞ!」



ザックが先導し、再び3人で斬りかかろうと突撃した。



【解析完了】



そのアナウンスの瞬間、左腕でどう刀を振ったら良いか理解することができ、今度はしっかりと刃が竜熊ドラゴングリズリーの左前脚を捉えた。


ザックの動きをコピーした剣術で刀を振るっているので、3人とかなり連携を取れやすくなった。ゆっくりではあるが着実に、竜熊ドラゴングリズリーの体力を削っていく。


だが、一瞬でも隙を与えると大急ぎで死体に駆け寄り喰らって体力を回復されてしまっていた。


このままでは埒が明かない。



(アテナ。悪食をなんとかできないか?)



【可能です。スキル[異空間]で竜熊ドラゴングリズリーの死体を収納してしまえば良いのです。収納するには、触れることが条件です】



異空間!忘れてたけど便利だな!



「3人とも。まずは回復手段を断ちたい。あの死体を僕のスキルで消す。だからその間こちらに近づけないようにしてもらえるか!」



「任せておけ!ココは視界を奪え!メロは俺たちが接近できるようにアシストを!」



「「わかった!」」



僕が立案した案に疑問一つ出さずに、即座に行動してくれるのは本当に頼もしい。


なんとしても、期待に応えればいけない。

仲間を信じ生きている方の竜熊ドラゴングリズリーを無視し、死体に向かって走り出した。



爆破エクスプロード!!〉



メロが魔法で怯ませ、



閃光フラッシュ!〉



至近距離でココが視界を奪い、



父なる聖剣グラム!!」



先ほども見た必殺技を放った。


だがダメージは確実に与えているが、先ほどの個体とは違い、しぶとさも尋常じゃなかった。



死体にたどり着くと、刀を鞘に納め急いで手を伸ばした。異空間のスキルレベルが低いので、アテナの説明では両手で触れていなければならないらしい。つまり今の僕は完全な無防備。



【収納中です…収納可能までおよそ30秒】



死体は透明になっていき、ゆっくりとだが確実にその姿をなくしていく。しかしそれを見た竜熊ドラゴングリズリーは黙っていなかった。


足止めをしている3人を掻い潜り一直線に飛びかかってきた。だが、手を離すと切れてしまうので動くに動けない。



魔法盾マジカルシールド!!〉



ドラゴングリズリーの行手を阻むように目の前に紫色の大きな半透明の盾が現れた。だが少し硬い程度のガラスでしかなく、先程も見たスキル斬撃を込めた爪で引っ掻き簡単に破壊されてしまった。



【収納完了しました】



だがその一瞬の動作の遅延が功を奏し、メロのサポートのおかげでなんとか回復手段を立つ事に成功した。


僕は逃げるように急いでその場を離れ刀を抜いた。竜熊ドラゴングリズリーはかなりオコなようで、二つの頭が牙を剥き出しでこちらを睨んでいる。だが僕に気を取られている隙に、ココは後ろから飛びかかり短剣で頸を突き刺した。



「グガァッ!」



大きな声で一瞬吠えると竜熊ドラゴングリズリーは口から血を吐きながら倒れた。倒れた竜熊ドラゴングリズリーを見てザックがいらない一言を発する。



「やったか?」



定番のフラグだ。



竜熊ドラゴングリズリーによるスキル[激昂]の発動を確認。及び熟練度が一定に達したため[激昂]のレベルが上がりました。スキル[厚い毛皮Lv6][激昂Lv2][斬撃Lv3]を保有したため上位種への進化を開始しました】



「おい馬鹿!フラグ回収しやがって!まだだ!とどめを刺すぞ!」



「ふらぐ?なんだそれ!まぁまだ息あるなら仕留めるしかねぇ!」



「「斬撃スラッシュ!」」



ザックと共に斬撃を同時に放った。


しかし毛皮が硬すぎて歯が通らない。

明らかに先ほどより固くなっている。



「ちッ!」



【進化の成功を確認しました。燃龍熊ニーズヘッグベアが新たに誕生しました。進化した事により[竜麟]を消失。新たに[龍麟][竜爪][火斬撃ファイヤスラッシュ]を獲得】



それは毛のような細長い鱗に覆われ、右の頭は右の額に捻れた角が生え、左の頭は左の額に真っ直ぐな角が生え、全身マグマのような模様に変わり、先ほどより一回りくらい大きくなっていた。もはや熊と呼べるような見た目をしていない。間違えなくドラゴンと呼ぶ方が正しいであろう見た目をしていた。



(アテナ。こいつを鑑定)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

燃龍熊ニーズヘッグベアLv50[火属性]

[龍種]


体力 1292/3981

魔力 464/1048

知力 603

攻撃 6915

防御 2761

魔法攻撃 1742

魔法防御 700

素早さ 392


スキル[火無効Lv1][厚い毛皮Lv6]

[斬撃Lv3][火斬撃Lv1][竜爪Lv1]

[激昂Lv2][威圧Lv7][悪食Lv9]

[龍鱗Lv1][毒牙Lv1][弱肉強食Lv5]


魔法不明


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


体力と魔力は減少していたのが不幸中の幸いだろうか。しかしどう見ても、僕たちで勝てるレベルではない。


だがやるしかないのだ。


他の3人も腹を括って武器を構えている。

僕がビビってどうする。



「こいつはまずい・・・だが、負けるわけにはいかない!アスタと俺を主軸に、ココとメロで徹底的にサポートを!攻撃はしなく良いからな。いくぞ!」



「「「おう!」」」



ザックはやはりリーダーとしての才が素晴らしい。指示を聞き入れうなずき、ザックと合図を取ると2人で突撃した。


刀で必死に攻撃を受け止めながら斬るが、一撃一撃がズッシリと重く、折れた右腕の肘で刃を押さえなければいけないほどだった。


斬ったところで鋭い音が鳴り響くだけで、たいしてダメージを与えられない。



「「斬撃スラッシュ!!」」



2人同時に再びスキルを放つも、ニーズヘッグベアの攻撃で簡単に相殺されてしまった。



【熟練度が一定に達したため[斬撃]のレベルが上がりました】



おそらく斬撃ではなく、父なる聖剣を合わせればかなり良いダメージになるだろう。


しかしあのスキルはアテナの分析だと魔力を放つ単純な攻撃であり、かなりの魔力を消費すると言う。


お互い撃てるか微妙なところだ。



「…ザック!父なる聖剣グラムをもう一度撃てるか?」



「やるしかねーだろ!方法がある!メロ!魔力を剣に溜めるの手伝ってくれっ!」



「うん!」



「私が1人で引きつける!」



3人の会話を聞いてココが自ら囮を引き受けてくれた。



「・・・。わかった。死ぬなよ!!」



どう考えてもココ1人で止められる存在ではない。ザックにしてみても苦渋の決断であろう。しかし現状それしか方法がないのだ。



「メロ!僕の刀にも頼む!」



「おっ?なんだ?お前も必殺技あるのかよ」



笑いながらザックが質問してきた。緊張をほぐすために作った笑いだろう。ザックの笑顔にはいつものような元気は無かった。



「あぁ!とっておきのヤツあるぞ!」



その気持ちを蔑ろにしないために人生で1番の笑顔を貼り付けた作り笑いで返した。



「きゃっ!」



その時ココの悲鳴が聞こえた。ココを見ると、右腕が斬り飛ばされ宙を舞っていた。今すぐに助けに行きたいが、ここで中断すれば全滅してしまう。見て見ぬ振りをして、急いで魔力を刃に溜めた。



「行けるか?」



「当たり前だ!ザック!」



メロのおかげで残り少ない魔力でも、魔力が最大まで刀に溜まり光り輝いていた。

ココがフラフラになりながらも上手く距離を取ったの確認して僕とザックは互いに頷く。



「「父なる聖剣グラム!!!」」



同時に放った二つの父なる聖剣グラムは一つに重なり熱龍熊ニーズヘッグベアに直撃した。これで倒せなかったらもう打つ手がない。



しかし妄想をしてたときのように上手くはいかない。煙が晴れてきて見えたのはまだ倒れていない姿だった。



「クソ!もういっぱ・・・っ」



少しでもダメージを与えなければいけないのに、攻撃スキルを撃とうとした途端、視界がぼやけ鼻血が吹き出してきた。



【警告。体内の魔力が1割を切っています。これ以上酷似する場合は命の危険に陥ります】



魔力が切れても死ぬ可能性があるなんて初耳だぞ。体に倦怠感や目眩の症状が現れろくに刀すら握れない。


ザックはその様子を見て一瞬微笑み1人で突っ走っていった。あれだけ魔力を使うスキルを3発も撃っているザックも危険な状態だろう。それなのに仲間の命を第一優先に動いていた。


ザックの後ろ姿はまさに英雄だった。



「やっちまえ!!」

「いっけぇ!!」

「倒しください!」



決意した彼を止めるのはもはや侮辱に当たる。3人で背中を押すことしかできなかった。

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