第10話 火の試練(前編)

この二ヶ月間が勝負だ。


もしこの期間にある程度強くなれなければ詰みだろう。しかも強くなるだけではなく、情報収集も同時に行う必要がある。


僕も馬鹿ではない。二ヶ月間本気で鍛えたところで、他の転生者の足元にも及ばないのはわかる。知識を得て、念入りに作戦を練って・・・汚い手を使ってでも勝つ。



7日後ギルドにて.....



「というわけで、飲み過ぎて金がなくなった!なので今日はクエストに向かうぞ」



ザックがそんな事を言い始めた。個々では毎日ザックと会ったりしていたが、パーティーとして集まったのは一週間ぶり。全員が集まるとなんだか笑みが溢れてしまう。レベルを上げるためにもクエストに行くのは賛成だ。



『おお〜!』



クエストに行く提案にココとメロも同調しているところを見ると、おそらく2人も結構使ってしまったのだろうか?かく言う僕も持続型パッシブスキルをオフにできると知り、酔ってみるためにお酒を大量に飲んでみたり、ポーションを買ったりとした結果お金をかなり使っている。


しかしクエストはやはり魔物の減少の影響なのか、高難易度のものが多い。小鬼ゴブリンの討伐などのクエストが張り出されているのは結構レアだ。


4人で審議した結果、掲示板の中から、ケルン大森林の少し先にあるブレーメン火山地帯に存在している双頭の巨大な熊、竜熊ドラゴングリズリーの討伐を行うことになった。名前の由来は、ドラゴンすら捕食する強さを持っている熊だかららしい。


前回のクエストのおかげでパーティー全体がランクソウに昇格したおかげで難易度の高いクエストでも簡単に許可が下りたのだ。


流石に難易度が高いので1日準備をして、翌日に向かった。



「あつーーーーい!」



ココが叫んだ。


ブレーメン火山地帯には簡単にたどり着いたのだが、肝心の竜熊ドラゴングリズリーがどこにもいない。活火山がいくつもあり気温は常に40℃近くまで上昇し、場所によっては60℃とか超えてくる場所も存在するそう。茶色くゴツゴツとした硬く歩きにくい地面がどこまでも広がり、草木などほぼ存在しない。まさに極限の地だ。


今回討伐目標の竜熊ドラゴングリズリーも強力なモンスターだが、受付のお姉さんによると、マグマの中に潜み獲物を見つけると長い触手でマグマに引き摺り込んでくる溶岩液体マグマスライムや、マグマを泳ぐとても硬い漆黒の鱗で覆われている装甲魚プレコなどという名のモンスターの方が厄介で注意するべきとのこと。



「おい、アスタぁー本当にドラゴングリズリーっているのかぁ?」



「お前がこのクエスト受注したんだろうがザック!」



「喧嘩しないでくださいよぉ〜より暑くなります!」



暑いしもう疲れた。



【スキル[火耐性Lv1]を獲得しました】



「おっ、少しだけ暑さが和らいできたな」



「ザック〜。メロ〜。アスタが暑さで脳味噌が溶けたみたい〜」



「は?なわけないだろ!火耐性を獲得したんだ。僕が獲得したんだからお前らもそろそろ獲得できるんじゃないか?」



「羨ましい〜。火属性の攻撃を受けたわけでもないのに、そんな簡単に獲得できるなんてラッキーだよぉ〜」



それは意外だ。嫉妬のスキルの発情条件が整っていないしので、ココが言った通りならおそらく、今回スキルを簡単に入手できるのは転生者の特権なのだろうか。それとも知力が高いからだろうか。答えは後者だろう。なぜなら転生者特権は僕には無いのだから。だがアテナに聞いてもよくわからないそう。


道中では特にモンスターとも遭遇することなくダラダラと歩いたが、肝心のターゲットが見当たらない.....暑さから解放されたい一心であたりを見渡していると、


【約90メートル先の洞穴に竜熊ドラゴングリズリーらしき存在を発見しました】



ほんと守護者アテナさんが優秀。



「3人とも、多分この先にドラゴングリズリーがいるぞ。注意しろ」



「アスタって、探知も持っているんだ!しかも私がまだ見つけられてないってことは私よりスキルレベルも高いのかぁ〜すごいね!!」



「ココも積極的に使っていけば上がるさ!」



ココとそんな話をしていると、前方に大きな岩と岩が重なり生まれた洞穴が現れた。穴の広さそこそこで中に入って戦闘をするのは難しそう。ザックが恐る恐る中を覗くが、薄暗く中の様子はわからないそう。

仕方なくメロが魔法でちょっかいをかけて洞穴の奥にいるであろう竜熊ドラゴングリズリーを出す作戦になった。


少し離れそれぞれが武器を抜き、今回の主役を待ち構える。



「行きますよ?」



息を呑みながら全員がコクリと頷く。

3人の同意を確認したメロは緊張から唾をゴクリと大きく飲み込み、魔法陣を展開させる。



雷衝撃サンダーショック!〉



メロの魔法陣から放たれた青白い電流が洞穴の壁を駆け巡り奥へと消える。その瞬間、穴の内部で何かが動くのを感じそして.....



「グラガァァァァァァ!」



洞穴の奥から大きな咆哮が聞こえてきた。



「ひぃぃいい」



メロは内股で漏らしそうな格好の悪い走り方で慌ててこちら側に戻ってきた。


遅れてズシズシと洞穴の中から大きな足音が聞こえてきた。



【警告。竜熊ドラゴングリズリーがもう一体接近しています。おそらく、つがいかと思われます】



今の俺たちでは流石に二体はキツすぎるぞ?

慌てて俺は3人に叫んだ。



「まずい!お前らもう一体後ろからくるぞ!」



「は!?マジかよ…」



その言葉のザックを含め3人とも動揺していた。もちろん僕も動揺している。


しかしさすがリーダー。ザックは動揺していても的確に指示を出した。



「よし、俺とメロで洞穴の奴を殺る!メロとアスタで後ろからくる奴を殺ってくれ!」


「メロ!俺たちに防御系の強化魔法を!」



「わかりました。〈鉄壁の体アイアンスキン〉」



鉄壁の体アイアンスキンにより一時的に防御、魔法防御の上昇を確認】



そして二体の竜熊ドラゴングリズリーが姿を現す。赤い毛皮に覆われた筋骨隆々の立派な肉体。大きさは二本足で立てば4mほどはあるだろう。鋭い爪、血の匂いを微かに感じる牙。殺意むき出しの目。そして頭は確かに二つあった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

竜熊ドラゴングリズリーLv48 [火属性]

[竜種]


体力 1982

魔力 981

知力 389

攻撃 2441

防御 3412

魔法攻撃 999

魔法防御 267

属性耐性 750

素早さ 481


スキル[火無効Lv1][厚い毛皮Lv4]

[斬撃Lv3][激昂Lv1][威圧Lv7]

[悪食Lv9][竜鱗Lv3][毒牙Lv1]

[弱肉強食Lv5]


魔法解析不可

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

竜熊ドラゴングリズリーLv34 [火属性]

[竜種]


体力1532

魔力712

知力391

攻撃2076

防御2681

魔法攻撃1400

魔法防御190

属性耐性632

素早さ539


スキル[火無効Lv1][厚い毛皮Lv2]

[斬撃Lv5][威圧Lv7][悪食Lv2]

[硬糸Lv3][腐食の鎌Lv1] 


魔法[炎吐息ファイヤーブレスLv3][火球ファイヤーボールLv2]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


お前らも竜の仲間なのかよというツッコミは置いておいて、めちゃくちゃ強い。



「やばいな・・・」



ザックの言葉に僕たちは息を呑んだ。



それは圧倒的な強者だった。


洞穴で寝ていた竜熊ドラゴングリズリーはもう一体よりレベルが低く、普通に勝てるだろう。


しかしそれは4人で戦う事でだが…



現状は劣勢だ。


正直レベル40前後の2人が戦えるレベルではないだろう。



だが、ザックとココはとても良いコンビネーションで翻弄している。


こちらも負けてられない。

だが、まだ彼女らと関わって日が浅すぎる。

とりあえず今はメロのことを少しでも知ろう。



(メロのステータスは?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

メロ Lv26 [雷属性]

[妖精種][人間種][魔導士Lv4]


体力 450

魔力 900

知力 500

攻撃 90

防御 310

魔法攻撃 843

魔法防御 691

素早さ 517


スキル[雷耐性Lv1][火強化Lv1]

[光強化Lv2][魔法強化Lv1]

[肉体脆弱Lv1]


魔法[火球ファイヤーボールLv3][雷撃ライトニングLv2]

麻痺霧スタンミストLv1][爆発エクスプロードLv4]

鉄壁の体アイアンスキンLv5]

小回復ライトヒールLv3][身体能力向上フィジカルアドバンテージLv1]

魔法盾マジカル・シールドLv2]


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スキルを得るのがレアなものなら、魔法もこれだけ覚えているのは、多分すごい才能を持っているということなのだろうか?


どれをみても沢山の活用法がありそうな、素晴らしい魔法ばかりだ。



【警告。炎吐息ファイヤーブレスの発動を確認。体力を7割削られてしまうので必ず避けてください】



(げっ、まじかよ)



アテナのおかげで、攻撃を予測することでギリギリ躱すことができたが、もう一つの頭の口から飛んできた火球ファイヤーボールは躱せずに直撃してしまった。


器用すぎるだろとそう思った。


もし今のが火吐息ファイヤーブレスならもっとやばかった。


体力を確認すると3割ほど削られていた。

火球ファイヤーボールも連続で喰らうと、簡単に殺されてしまう。



小回復ライトヒーリング!〉



体が一瞬緑色の光に包まれると、それと同時に体力が回復するのを肌で感じた。


メロは続けて攻撃魔法を唱える。



火球ファイヤーボール



竜熊ドラゴングリズリーの左頭に直撃した。しかし全く効く様子はない。当たり前だ。スキル[火無効]どう見ても火を無効化しそうだ。



「メロ!多分こいつに火属性の魔法は効かない!」



「そうなんですね!ならっ・・・!!」



メロが次の魔法の詠唱を始めたが竜熊ドラゴングリズリーは標的をメロに変え、メロに突進していった。


間に合うか!



「メロっ!!」



ドラゴングリズリーはメロに思いきり爪で斬りかかった…

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