第7話 仲間と魔法

レンとは、ギルドまで一緒にいたがそこで別れ、1人席に座る。


しくじった。バレないように気を使いすぎて考えが及ばなかったが、ほかの転生者のことなど探るべきだっただろう。


ギルドの酒場にて、一人で飲み慣れない葡萄の味がほんのりする酒を飲みながら考えていると、後ろから肩を2回ほどポンポンと叩かれる。



「あの、仲間の方を待っている感じですか?それとも.....もしかしてまだパーティー入ってないですか?」



振り返ると、同年代くらいの青年が笑顔で立っていた。

茶色混じりの赤い髪は逆立つくらいの短髪で、切れ目で整った顔立ち。クラスに1人はいるスポーツができる系のイケメン。体つきは細いが露出している腕や脚を見る限りしっかりと筋肉がついている。

黒く袖のない服の上からレザーアーマーと、甲の部分が硬そうな革になっている手袋を着用しおり、両腰にそれぞれ剣を携えている。その身なりはまさしく冒険者だった。



「ひゃ、は、入ってないですけど…?」



半年間、おやじ以外の人とほとんど関わっていないので、パーティーを組める人脈なんてあるはずない。


もしかすると万が一にもだがパーティーの勧誘だったりするかもしれなくもない。


どうやらその考えは当たっていたらしく青年は目を輝かせ、少し奥の席に座っていた2人の女性に声をかけた。



「こっち来いよ!この人いいんじゃないか!」



「本当?見つかったの!」



2人の女性が駆け寄ってくる中、青年は僕の顔に餌をねだる子犬のような視線を送りながら続けて話し始めた。



「あと1人探しているんです!よかったらうちのパーティーにはいりませんか?」



「強くないですよ?」



「強さなんて関係ないですって!僕たちもまだまだなので!」



この人たち裏切ったりしたいよな?最初に頭の中に思い浮かべたことはそんなことだった。


中学時代、僕は友達だと思っていたグループにいじめられ、それ以降.....仲間や友達と言うものに恐怖心を抱くようになった。もちろんこの人たちがそんなことをしそうだなんて、微塵も思っていない。


しかしトラウマというものはそう簡単に克服できるものではない。だがこの機会を逃すなんて勿体なさすぎる。人脈も実力もない僕に声をかけてくれる人なんて、もう現れないかもしれない。世界を救うとか割とどうでもいいけど、次死んだらどうなるかわからないし.....過去のことでクヨクヨするのはやめよう。数十秒の沈黙の後に、意を決して僕は答る。



「なら、お願いできますか・・・?」



勧誘してきておいて断るなんて無いだろうが、それでも不安で心臓がバクバクと脈を打っている。パーティーになる以上、魔王になることがバレる可能性も大いにある。バレた場合、この人たちに殺されるかもというデメリットもある。


だがそれと同等にパーティーメンバーが出来るのはかなりのメリットだ。


数がかなり減っているとはいえモンスターはいる。それらのモンスターを倒して経験値を稼ぎ、強くならないといけない。4人で効率的に戦えるなら、より早く強くなれるだろう。



「もちろんです!よろしくお願いします!」



手を出し握手を求めてきた青年の手を取ろうとしたが、その青年を押し退け、後ろから健康的に焼けた褐色肌に茶色のポニーテイルをした元気一杯の女性.....というより少女の方が似合う子が、ザックへと出した僕の手を、横取りする形で握り締め、ブンブンと上下に振った。



「私の名前はココ!職業は盗賊士だよ!こっちの子は、メロ!魔導士でね!めっちゃ強いの!で、これがザック。いたって普通の剣士よ〜 勇者様に憧れて二刀流なんてやってるの。全員ランクはベニね!」



確かにココさんの服装は、ヘソ出しのレザーアーマーに指の部分に穴が空いている二の腕に届くほど長い小手付きの手袋を身につけ、下も短いパンツを履いているだけの軽装備。まさしく盗賊らしい格好だ。



「はぁ!ちげーし!二刀流がやりやすいから!」



「はいはい。そうですか〜」



「おい!俺はリーダーなんだぞ!」



「取り得ないからリーダーにしてあげてただけですぅー」



「なんだと!」



「け、喧嘩はダメです〜!」



2人の喧嘩を、眼鏡をかけた垂れ目で、碧眼の緑と黄色のグラデーションをした真っ直ぐ伸びたロングヘアをした女性が、弱々しい声で仲裁している。


確かメロさんだったっけ。魔法使いと言われて絶対に1人は想像するであろう魔法使いらしい帽子を被り、灰色のホルダーネックのワンピースらしき物を着ている。服の上から、ふくよかな胸が強調されていて、一時期流行った童貞を殺す服みたいだ。その上からマントを羽織り背中には杖が携えてある。


こちらも絵に描いたような魔導士だな。


3人とも仲が良さそうで微笑ましい。その輪に僕も混じりたい.....友達が何年もいない僕は一瞬使命を忘れてそう思った。だが嫌なことに腰にぶら下がった悪魔から渡された砂時計が目に入り、出しかけた手をそっと戻す。


とりあえず、この人たちなら背中を預けられそうだ。もし仮に裏切るような行動を取ってきた場合は戦闘を避け、速やかに逃げよう。



「僕はアスタって言います。メロさんと同じく魔導士してます。ランクはまだコクです」



別にタイガって名乗ってもよかったが、どこで誰が聞いているかもわからない。


こっちの世界ではアスタってことにしよう。


まぁ、受付のお姉さんを含めて数名にはもう本名言っちゃったけど…



「よろしくなアスタ!ザックでいいよ」



「わかった。よろしくザック。ココにメロもよろしくお願いしまふっ」



か、噛んだ。



『よろしく!』



気がついてない??



「さっそくだけど、これから小鬼ゴブリン討伐に行かないか?アスタの実力も見たいし!」



また小鬼ゴブリンかよ!と言いたかったがグッと抑えた。



「構わないですよ!」



そんなこんなで昨日も来たはずのケルン大森林にいた。今回も!!小鬼ゴブリンの巣に向かうと言うことだ。


前回は結局巣にたどり着けなかったし.....昨日の失敗も含めて投げナイフやポーションを多めに持ってきた。


鑑定のレベルも上げたいので、道中に様々な植物なんかを鑑定しまくった。


しばらく歩いたところで、ココが突然、先程までの満面の笑みから真剣な表情に変わり、前方を指差しながら小声で「あそこ」と指を前方に向ける。

ココが指し示す方に目をやると、洞窟の入り口のような場所があり、その横に見窄らしい槍を持った2匹の小鬼ゴブリンがいた。



「見張りは私が片付けるね」



そうい言うとココは手を地面につけ猫が獲物に飛びつくような体勢になり、草むらから勢いよく飛び出した。疾風のような速さで張りの小鬼ゴブリンに近づき、腰に付けていた短剣であっという間に見張りを簡単に片付けた。


さすがは盗賊士。


盗賊士ってやっぱり探索も長けてるのかな?



【スキル[快速Lv1]を獲得しました】



ん?今どこにいかにも素早さを上げそうなスキルを覚える要素があったんだ?


疑問に思いながらもスキルが増えるのは嬉しいので、疑問を解消するのは後回し。


再び巣に目をやると、ココが入り口前で手招きをしているので、ぼくたち3人も入り口前まで走った。このままでは、全くのいいとこ無しで終わりそうなので刀を抜き、一呼吸置いてから、



「僕が先に入る」



そう言い、探知で入り口付近の小鬼ゴブリンを把握して、ココが倒した1匹の見張りの死体を掴み突入した。


昨日嫌というほど、小鬼ゴブリンの狡賢さを知ったので、死体を盾にしながら矢を防ぎ、入り口付近にいたすぐに5匹を倒した。


一部始終を見られていたようで、多少引かれたが.....気を取り直して、その後も順調に役割分担をしながら進む。


巣というだけあって、すでに100匹以上の小鬼ゴブリンを倒した。それでも次から次に湧いて出てくる。モンスターの数が減ったなんて嘘のようだ。


だが、うまく連携して闘ってるので苦戦する事も、極度の疲労を感じることもなかった。


そして先程からやたらアナウンスが流れる。



【魔法【火球ファイヤボールLv1】の習得に成功しました】



ほらまた。


…って魔法!!

魔法とは厨二病のロマンだ。

その魔法をついに僕が…感動っ!



意気揚々と歩き、見つけた小鬼ゴブリンに向かってさっそく手をかざし魔法を頭の中で選択する。


赤いイカニモな魔法陣が現れた。二重の円の中には八芒星があり読めない複雑な文字が至るところにある。数秒の時間の後に魔法の発動が可能なのを感じる。



「くらえっ!」


火球ファイヤボール!〉



僕は力の限り叫んだ。


魔法陣から収束した炎の球が勢いよく飛び出しっ.....



「…」



多分今、自分の顔がしわくちゃですごくブサイクな顔だろうというのはわかる。


メロの使っていた火球ファイヤボールは、拳ほどの大きさでゴブリンを一撃で葬った。


それに対して僕の火球ファイヤボールはビー玉程度の大きさしかなくゴブリンに当たって弾けて終わった。



ー思ってたんと違うー



心でそう叫んだ。

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