第5話 冒険開始ッ!
天から降ってきた悪魔は落ちる寸前で、風に煽られたように体がふわっと浮き、綺麗に着地した。頭から落ちればよかったのに。
「何しにきた?」
僕は悪魔に尋ねた。
内心は帰れ!と思っている。
「い、いや!半年もの間何してるんですか⁉︎」
何を言うか。
お前が強いスキルやステータスをこっそりでも与えてくれれば.....せめて困らないくらい金をくれていればこんな事してない。
そんなことを思ったが、グッと心の底にしまった。
「いや、レベルも上がるし金も貯まるし」
淡々と答えた。
「タイガさん?あなたは世界を滅ぼす魔王にならねば、この世界は滅びるんですよ?」
「言ってることが矛盾してるだろ」
呆れながら言ったが、悪魔が慌てている様子を見るのは面白かった。
「だいたい滅びるって言っても、そんなすぐにでもないんだろ?」
「…えっと、だいたいこのまま行くとあと半年くらいです」
ナニソレキイテナイ。
流石に十年近くはあるものだと思っていた。
確かにあと半年で滅びるなら.....ってか、転生する時点で1年しか猶予がないと言って欲しかったものだ。
「いや、最初に言ってくださいよ」
言葉は冷静でも内心はめちゃくちゃ慌てていた。だが、同時に希望も持っていた。
わざわざ干渉してくると言う事は、強いスキルやら魔法をきっと授けてくれるのであろうと思ったからだ。
「…」
「では、もう時間がないのでなんとか頑張ってくださいね!」
結果から言うと、あの悪魔に期待したのが馬鹿だった。
世界が滅びるまでのカウントダウンを記した砂時計だけ渡された。
ちゃんと焦らされるのがムカつく。
でも去り際に、有益な情報を得た。
この世界は転生者が来る以前は魔法やスキルの概念すら無かったそうで、転生者を送る際に、世界を改変して無理矢理スキルや魔法をねじ込んだそうだ。
いくら神様と言えど?世界改変にもルールがあるそうで、それが絶対公平。
簡単に説明すると、転生者だけがスキルや魔法やを使えては行けないらしい。全ての種族、生き物がが公平にスキルや魔法を使える必要性がある。
神達は日本で流行ってる超人気ゲームの数々を参考にしたようで、妙に親近感のあるという違和感はここからきていたらしい。
でも転移者は特別で、この世界に送られる際に経験値ボーナスになるものと、本人が望んだ効果を持つ唯一無二のスキルや魔法か武具を渡すことが許可されているようです。
だが俺の場合は別。悪魔だから育ちが早いらしいから関係ないかもだが、経験値ボーナスは無いし、この世界に元からあるもの以外の魔法もスキルも与えられてない。
無理ゲーじゃね?
しかし言い訳して時間を無駄にするのも勿体ないので、行動に移すことにした。それはすでに半年もの間、お世話になっていたラーフさんのところを去ると言う事だった。
とりあえず、その日の仕事を終わらせて夜飯の時、正座をし、覚悟を決めて切り出した。
「おやじ、すいません。やることできました。なので明日ここを出て行きます」
おやじはこちらを振り返ると、何一つ表情を変えることなく一言。
「こっちも半年間も孫が出来たみてぇで楽しかった。ありがとな」
その言葉に涙が溢れてきた。
魔法も使えず、チビで力仕事も最初は全くできない僕を雇ってもらった。それだけでなく、暇な時にはドワーフの本職である剣作りや防具作りについても教えてもらった。まるで父親といるような毎日はとても楽しかった。
前世の僕の本当の父親は僕が生まれてすぐに死んだらしい。父親が生前、世界一の名医と呼ばれるほどの天才医師でたんまりと貯金しており、お金に関しては苦労しなかったので、一応は感謝している。しかし父親がいないのが普通だったからこそ、優しいおやじを父親の代わりと感じていた。だからこそ離れるのが辛い。
慣れたボロな馬小屋生活も最後だと思うと少し寂しく思えた。
二つある馬房のうち、馬がいない方が僕の部屋。廃材で作った荷物置きの棚と机。あとは藁に布を被せただけの貧相なベッド。
隣には相棒もいる。
「じゃあな〜!マレンゴ」
マレンゴなる僕の同居人ならぬ同居馬とも今日でお別れだ。勝手にそう呼んでいるだけのこの馬とも、寒い時はマレンゴが過ごす馬房にお邪魔させてもらい、体を寄せ合い一緒に寝たりしていた仲だ。俺の言葉にヒヒーンっと悲しそうな鳴き声をあげている。
翌日。
ついに旅立つ時がきた。
おやじに恩返しするためにも、世界を滅ぼさせてたまるかと、決心をして出発しようとした。
その時.....
「待ちな」
僕を呼び止めたおやじの手には黒いローブと刀のような剣があった。
そしておやじはその二つを渡してくれた。
「タイガ。お前冒険者なんだろう?そんな格好じゃいけねぇよ。大したもんじゃねぇが、俺が打った刀だ。こっちローブは薄いが防御力を高めてくれるし、破けにくく燃えにくい。チビなお前には重い防具よりこっちの方がいいだろう。あとこいつは今まで働いた分の金だ」
「本当にありがとうなおやじ。あとチビじゃねーよ」
泣きながらそれらを受け取ると、ローブに袖を通し刀を腰に装備して涙を拭いた。
そして笑顔で手を振りながら出発した。
街に戻ると、半年ぶりにギルドに足を運んだ。
相変わらず難しそうなのものばかりだったが、
受付のお姉さんは、僕を見るなり農業をしていたはずなのに冒険者らしく武器を持ち、立派な身なりになって帰ってきた姿に驚いていた。
まぁ僕・・・魔導士なんですけど!
まぁ僕・・・魔法覚えてないんですけど!
「もちろん受けることは、可能なのですが難度の都合上、推奨されているランクに満たないので、パーティーを組んで複数人での攻略が望ましいかと…」
「ん?ランク?」
「はぁ。ちゃんと読んでないのですね」
たしかに、冒険者となった時に貰った本に色々書いてあったが全く目を通さなかった。
呆れられるのも無理はない。
「すいません読んでないです」
「分かりました。一度だけ説明しますね?」
「冒険者にはランクがあります。下から
「上がるといい事あるの?」
「はい。高収入が見込めるクエストを斡旋させていただきます。そのほかにも、こちらの酒場の料金が割り引かれたりと様々な優遇を受けられます。しかし冒険者の増加に比例して、依頼の取り合いで繁殖力が強い雑魚のモンスターか、強力なモンスターのほぼ2択になっており、現在では上のランクに上げることが大変難しくなっているのが現状です」
「ほぉ〜」
普通に冒険者として楽しみたいと思ってしまった。ランクを上げて強い敵と戦う。やはりゲームとしての色合いが強い気がする。こんな状況でもなければいいのだが、今は楽しそうな冒険を無視して強くならねばいけない。
どうしても時間がないのだから。
「で、な、難度ってなんですか?」
「はぁ.....」
先ほどよりも大きくため息を吐かれ、もはや軽蔑のような冷たい目を僕に向けながらも説明してくれた。
お姉さんの説明によると、難度は下からE.D.C.B.A.S.SSと分かれており、詳しく言えば、Eはどのランク帯でも依頼をこなすのが容易。
Dは初心者向けだが、白や黒のランクだと依頼をこなすのがやや難しい。
Cはそこそこ経験の積んだ冒険者でなければ難しいが銅以上なら余裕。
Bは銅以上のベテラン冒険者でなければ難しい。
Aは銀以上の冒険者でなければ依頼をこなすのがほぼ不可能。
Sは金以上の冒険者でなければ依頼を受けることすらできない。無理難題。
SSは白金以下では対処は不可能。白金ですらこなせるか微妙。
これら難度は冒険者の死亡率を減らすために設けられたもので、C以下の難度に関しては適正に満たなくても受付からの忠告と失敗した場合に罰金が発生する程度で受注自体は可能だが、基本的にそれ以上の難度の場合は後述する場合を除き受注ができないようになっている。
またC以上の難度には後ろに +か−がついていることがある。−は適正ランクに満たなくてもこなせる可能性があるため、適正ランクより低くても受注ができる。
逆に +は適正ランクでもこなせるか微妙で、適正ランクに到達していてもギルドの信頼度によって受注できるかが決まるらしい。
ちなみに
「あまり知り合いもいないのでこのクエスト一人で受けます」
「か、かしこまりました」
止められるかと思ったが、真剣な眼差しにでも負けたのだろうか?
受付のお姉さんにお礼を言って、僕は準備をするためにギルドを出た。
事前に受付のお姉さんからもらった情報だと
言われた通りにお店で、
それだけでオヤジからもらったお金はほぼなくなった.....が初めての戦闘を目前に、ゲームっぽい感じがしてウキウキしていた。
若干の不安と楽しさのドキドキを噛みしめながら街を出た。
ーいざ戦闘へ!ー
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