第4話 冒険開始.....?
【職業[魔導士 Lv1]を獲得しました】
その瞬間、頭の中に魔法に関する知識が記憶された.....気がする。
「もう一枚とかもらえたりしませんか」
タダでもう一枚貰えるのは無理だと分かっていたが、念の為聞いてみる。
「金貨10枚かかりますがよろしいですか?」
「持ち合わせがないのでまた今度」
銅貨だったり金貨だったり、日本で言うところの硬貨だったり紙幣だったりってことなのだろうか??
やはり世の中、金が全てのようだ。
(鑑定。この世界の通貨について教えて)
【解答不可】
(え、じゃあ金貨とは?)
【銀貨30枚分の価値のある硬貨】
(わからねーよ!!)
本当に不便だ。一つ一つ聞かないと答えてくれないっぽいしなぁ。
…面倒くさい
(銅貨とは?)
【流通している中で価値が一番下の硬貨】
ふむふむ。
(銀貨とは?)
【銅貨30枚分の価値がある硬貨】
仕組みは鑑定のおかげで少し理解はできた。
銅貨が1番下のお金で、銅貨30枚と同等の価値があるのが銀貨。銅貨900枚または銀貨30枚と同等の価値があるのが金貨.....と。
しかし物価がよくわからないので金貨だの銀貨だの資金としてどのくらい揃える必要があるかもわからん。
だが、生きていくためにどうしてもお金を稼がないといけない。
掲示板で依頼を受けようと覗いてみた。しかし今のレベルで受けられる依頼が見当たらない。
[分布不明の
[コトブス山の頂上に生息する
[ハム湖の奥地に生息する
[ケルン大森林に生息する
[ブレーメン火山地帯に生息する
難度とか色々わからないことだらけで、イマイチピンとこないが、モンスターの名前から察するに、今の僕には絶望的にも思えたが、その中に農業の手伝いというクエストがあった。
農家なら危険もないだろう。それに銀貨5枚といい感じの収入だ.....多分。
僕は掲示板からその依頼書を破り取り、すぐに受付のお姉さんのところへ持って行った。
「何すんですか!」
そして怒られた。どうやらその依頼書の下に書かれている番号を受付で言うことで依頼の契約をするのが普通で、破る必要は全くないとか。
説教が終わると逃げ出すように、実際に農業を営む人のところに向かってみた。
ボロボロな民家が立ち並ぶ、見るからに貧困そうな小さな村。ただでさえ、ギルドのある街から距離があるこの場所のさらに端の端にある、他の家々から比べれば立派に見える大きな木造の古民家。
恐る恐るノックをするも返事が無い。何度かノックしたが、明らかに人のいる気配がないので仕方なく裏へと回ると、そこには複数の小屋が中心にある立派な畑を囲うように建ち並んでいる。
その畑に目を凝らすと1人の影が見えた。
あの方が依頼主であろう。
「すいません!依頼を受けた者ですが!」
最初の印象が大事だと思い、大きな声で作業をしている人に声をかけた。
「おうそうか!いきなりですまねぇが、ここ一体に水を撒いてくれ」
初老で顎髭を伸ばし、振りの深い顔が笑顔で手振りをしながら指示をしてきた。声を聞く感じ優しそうな人で安心した。
急いで水を汲みに行こうとすると。
「どこいくんだ!スキルとか魔法使えねーのか?」
「は、はい」
「チッ」
「…」
どうやら使えない判定をされたらしい。他に当てもないので、働かせてもらえないのは困る。
「ま、魔法は使えませんが、なんでもします!お金が無いんです!雇ってください!」
必死に訴えた。
「依頼書には、水にまつわるスキルや魔法が使える奴って書いたんだが?」
「あっ!僕昔から暑がりで汗なら.....」
「なんか言ったか?」
初老の男性の圧力がすごい。
「じょ、冗談ですよ.....確かに、冒険者として駆け出しで役に立たないかもしれません。でも他に行くあても金もないんです。できないなりに一生懸命に働くので、どうか!雇ってはいただけないでしょうか」
もう泥水を啜る生活は嫌だ。その一心で地面を舐める勢いで深く土下座をする。
「はぁ・・・。いいか?飯は二食。寝床は向こうにある馬小屋。一日銅貨5枚!」
「え?」
「何してる。とっとと畑に水撒け」
どうやら雇ってくれるらしい。
銀貨5枚じゃなくて銅貨5枚なのが気になるところだが、依頼の条件に合っていないので仕方がないだろう。
それに今の状態でモンスターと戦える自信が無いので、農業を頑張るしかない。
僕は急いで仕事を始めた!
この農業を営むこの人はなんと、この道50年の大ベテランの人間ではなく
名前はラーフさんと言い、僕はおやじの愛称で呼んでいる。
農家の仕事は思いのほか大変だ。
毎日朝4時に起きて、レンガ作りの立派な小屋にいる、三本角のムッキムキの牛っぽいモンスターの小屋掃除を行い、メスの個体からは乳搾りをする。
そして自分より大きな鶏の餌やりをして卵を回収する。
餌は穀物類ではなく、血の滴る新鮮なお肉。鶏の分際でまさかの肉食なのだ。
わざわざ餌やりと卵の回収だけのために、鉄の鎧を身に纏ってバレないように慎重にやる必要がある。
たまにバレて、僕が食べられそうになることもしばしばあった。
面白いことに、デカいくせに卵のサイズは前世の世界と変わらない一般的な大きさだった。だが一回の産卵で20個ほどと卵の数が多い。
朝の仕事が終わると、おやじの手作りの朝ごはんを食べる。おやじの手料理は薄味の野菜を中心としたもので、どれも絶品だ。
ちなみにおやじが作る中で、僕のお気に入りはフワトロのオムレツと、野菜ゴロゴロの優しいスープの二つ。
朝ごはんを食べ終えると、後はひたすら畑の雑草を抜き水を撒いたり、残っている毒々しい紫の斑点模様の豚っぽいモンスターの餌やりや、僕の住処でもある馬小屋の掃除などひたすら肉体労働をする。
休みの指定はなく、疲れたら庭の芝の上でぼんやりと勝手に休憩をしている。休んでると「働け」とおやじは言うが、働いてる時は水を持ってきてくれたり「疲れてねぇか?」とか聞いてきたりもする。まさにツンデレだ。
いつも全て終える頃には日が暮れていた。
仕事が終わると、近くの川で汗を流し、夜飯を食べて眠る。前世では考えられないような健康的な生活だ。
お風呂が恋しいが、どうやら風呂に毎日入ること自体、富裕層の人にしかできない贅沢らしい。
そんな生活が3日ほど経った時、いつものように作業をしていると.....
【経験値が一定に達したため、レベルが上がりました】
突然の鑑定のアナウンスに驚いたが、やっぱりゲームのようにレベルという概念があるのか。しかし、農業でレベルが上がると思わなかった。
レベルが上がったりすることは嬉しいのだが、鑑定というスキル名なのに勝手にアナウンスされることに疑問を抱いたが、便利であることに変わりはないので気にしないことにする。
レベルが上がると知ってからは、今まで以上に仕事を頑張り、気がつけばそんな生活を半年も続けていた。
転生時は頸が少し隠す程度しかなかった髪の毛は、肩まで伸び、ひょろひょろだった足や腕もまぁそれなりに筋肉がつき逞しくなった。
(今のステータスとスキルは?)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アスカワタイガ Lv15
[悪魔種][魔導士Lv1]
体力 400
魔力 312
知力 960
攻撃 ???
防御 ???
魔法攻撃 ???
魔法防御???
属性耐性 ???
素早さ ???
スキル[鑑定Lv2][創造Lv1]
[苦痛耐性Lv4][思考加速Lv2]
魔法無し
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
不明が多いのは相変わらずだが、体力や魔力や知力なんかを知れるのは喜ばしい。
レベルもかなり上がったことだしスキルも新たに2つ獲得できた。
スキルにもレベルがあったので上がるのでは?と思っていたら案の定上がった。
苦痛耐性がLv4にもなった理由としては、働き始めて一ヶ月経った時に、芝刈りをしている最中に、使っていた鎌を誤ってお腹にぶっ刺してしまったからだ。
血を吹き出しながらギャーギャー叫んでいた。体力が9くらいまで無くなっていたときには、本気で死を覚悟したがおやじがなんとか助けてくれた。
まぁそのあと数時間にも及ぶ説教と硬い拳から繰り出される拳骨を貰ったが.....
今となってはスキルのレベルが初めて上がったり、おやじに看病してもらったりと、良い思い出だ。
「に〜ちゃん〜きたぞぉ!」
過去の思い出に浸っていると、現れたのは無地のタンクトップに短パンというなんともテンプレ装備を身に付ける坊主頭の少年。
「きょうは、どんなおもしれぇもの見せてくれるんだ?」
「ふっふっふっ.....」
僕は馬小屋から駆け足である物を取ってくる。
その物を少年の前で天高く掲げる。
「うぉぉ!すっげぇっ!!!」
興奮に満ちた輝く瞳、少し声が裏返っている大きな歓声。少年の反応は百点満点だ。
僕の手にある物は、近くの川で取れる粘土質の土で作った女の子のフィギュア。
お小遣いが乏しい中学時代の僕ではフィギュアは高級品だったので自作していた。そんな趣味がこんなところで役に立つとは.....
「さぁ少年!どーする!?」
少年は困った表情で自作の女の子のフィギュアを眺め、そして指を軽く鳴らし渋々な表情で一言。
「.....オレが川で拾ったこの光り輝く石でどーだ!」
少年の手には、燻んだ半透明の小石が握られている。鑑定の結果は水晶の欠片だそうで、この世界では特別珍しくもない。
だが商売目的というよりは、寂しさ解消で少年と絡んでいるので僕は水晶の欠片で取引を成立させた。
その後しばらく少年と川で遊び、サボりがバレておやじの怒号と共に解散した。
不定期に来てくれる近くの小さな村に住んでいる少年は、歳下ではあるもののこの世界では大先輩であり、世界の情報を得ることができるので感謝している。
現地民との交流も立派な異世界攻略の鍵だ。
次の日、少年以外では珍しい来客が訪れた。
頬のこけた見窄らしい服を着ている三十路は超えているだろう女性。
「はぁ.....はぁ.....すいません、ラーフさんはいらっしゃらないでしょうか!?」
どうやら彼女は、おやじの客らしい。隅に置けないジジイだ。一回りくらい違う女性と親密だなんて.....
「生憎おやじは街へ作物を売りに出てますよ」
「そ、そうですか.....」
彼女は肩を落とし落胆している。どうやらオヤジの愛人というわけではない様子だ。仕方がないので僕が代わりに話を聞くことにした。
どうやら、よく遊びに来る少年の母親らしい。
そして.....
「息子がこの付近に生息するモンスターに連れ去られたのです.....どうか、どうか!息子を助けてください!!」
とのことだ。うむ.....困ったものだ。
まだ戦闘経験すらない状況で、モンスターといきなり実戦は気が引ける。
だが少年を見殺しにするほど僕も鬼ではない。悪魔だけど。
「こう見えても、僕も冒険者の端くれです。よかったら僕が行きますよ!」
こうして母親の情報を頼りに向かった場所は、村から少し離れた腰ほどの草が生い茂る草原地帯。武器も無かったので、農作業で使う鎌を片手に恐る恐る草むらで痕跡を探す。
1時間ほどの捜索の末、ついに何か大きな者が通った跡を見つけた。
「草が踏み倒されてるな。こっちの方向か.....」
痕跡を辿りながらさらに歩くこと数十分。辿り着いた先にあったのは、大きな穴。
正確には見つけたのではない。
下を見てなかったものだから穴に滑り落ちたのだ。しかし穴の中に落ちてすぐ、何者かが啜り泣く音が聞こえてきた。
「おーい」
音の主は、僕の声に気がつくと一目散に僕めがけて走ってくる。
「ずびっ.....にいちゃん.....」
声の主は攫われた少年。
良かった。擦り傷がちらほら見える程度で、無事のようだ。
少年の無事に安堵したのも束の間.....
僕の声に反応するものがもう一つ。
白く長い毛に赤くパッチとしたお目々。可愛らしい耳に、ちっちゃな丸い尻尾。そして口からは赤い液体が溢れ、右手にはがっしりと狼のような犬のような生き物を掴んでいる。
2メートルほどの二足歩行の兎!
あら可愛くない。
いやいやいやいやいや.....
「にいちゃん!!!」
「やるしかないか」
手に持つ鎌を投げ捨てた僕は、冷や汗をかきながら少年の手を握り締め、必死に兎から逃げた。
「いやぁぁぁっ!!!!」
半分パニックを起こしながら奇声を発し、穴を急いで駆け上がり、草むらの中を走り抜ける。
少年は涙を堪えて絶えず発しているのに対し、僕はパニックで奇声を発し続けている。
やっとの思いで村の近くまで逃げたが、村が見えてきて安心したのか、少年の足がもつれ、共に倒れてしまった。
「ぐがぁっ!!!」
大きな口をニチャッと開け、嫌な笑みを浮かべる。獲物を追い詰め楽しんでいるのだ。
「こ、このやろっ!こいやぁぁ!」
高く汚い声でモンスターを威嚇する。
だがハムスターが怒った鳴き声を上げても可愛い程度の感想しかないのと同じ、このモンスターには可愛らしい鳴き声にしか聞こえないのだろう。怯む様子もなく、徐々に距離を積めてくる。
僕は絶望の中、背後に倒れている少年に声をかける。
「ここは僕に任せて逃げて!時間は稼ぐ.....ってあれぇ〜?」
後ろを振り向くと、すでに少年は全力疾走で村の中へと逃げていた。
くっ.....なんて逞しい少年なのだ。
「っしゃ!やったるでぇ!」
兎はその大きく腕を振り上げると同時に、その肉体は瞬間的に、その腕を残し肉塊へと姿を変えた。
次に聞こえたのは、落雷でも落ちたのかというほどの強烈な覇気のある怒号。
「バカヤロウ!!!」
そこには、血塗れで両刃の斧を片手に立つオヤジがいた。
「あれほど、村外れの森には行くなと言ったろうが!」
オヤジの顔は怒りというよりは、焦りや焦りからくる苛立ちを感じられるような表情だった。
僕のことを心から心配していたのだろう。
小さくバカヤロウ.....と再び呟きながら、太い腕で僕を抱き寄せる。
そして申し訳なさそうな顔をしながら、母に連れられ少年も近づいてくる。
「置いて逃げちゃって.....ごめん..なさい」
「へへっ!いやいやあれが正解だよ!無事で良かった!」
「う...うんっ!ありがとうにいちゃん!」
「おうよ!」
少年と別れ、家で数時間にも及ぶ説教されたのはまた別の話.....
そんなトラブルもありながら僕は更なるレベルアップを重ね、毎日を大事に生きた。
今日も少年にあげる物を考えつつ、作業をしていると突然、空に亀裂が入りいつか見た光る遺跡が姿を現した。そして亀裂から何か飛び出してきた。
「うわぁ〜!!!!!たすけてぇぇぇ!!!!」
「来んなよ」
つい心の本音が声に出てしまった。
亀裂からでてきたソレは、一番会いたくないあの馬鹿悪魔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます