堕落
第2話 輪廻の神サラ
16歳という若さで死ぬとは思わなかった。
車に撥ねられ次に目を開けた時、僕はその時とは別の場所にいた。
白を基調とした石造りの屋根の無い神殿。
その中心の床に寝ていたのだ。でも明らかに普通の場所ではない。常に霧が立ち込めており、霧に目を凝らすと金粉が混じっているように光り輝いており神秘的でどか不気味。空も僕の知る青空ではなく、宇宙空間を直接投影している感じ。まるでプラネタリウムのよう。
こんな空間は知らないし、地球に存在するとも思えない。病院でもなければ日本でもましてや地球でもない気がする。結果的に天国というのが個人的に一番納得がいった。思い返す限りでは地獄に墜ちるような事は、小学生の頃に嫌いだった奴の定規をこっそり窓から投げ捨てたり、好きな子のリコーダーを舐めたくらいだ。それ以上はしてないので、天国に行けるのは多分当然であろう。
心なしか不思議とこの場所に来てから、腹も減らないし、眠気もない。幸福感が溢れ気持ちが穏やかになる。
しかしこんな空間に、何も説明無しで放置されていることに幸福感があっても流石に不満を覚えた。もう数時間は放置させられている。
一生このままだったりして?
ある仮説では天国とは退屈という苦痛に満ちた場所であり、地獄よりも酷い環境と言われていたが、あながち間違いではないかもしれない。
そんなことを考えているとどこからか、自然と心が穏やかになる不思議な女性の声が聞こえた。
「遅くなり申し訳ありません。私は輪廻を管理する者で名前をサラ・ローシと申します」
声のする方を向くと、白い翼を生やした、背中を覆うほどの金髪な絶世の美女が降りてきていた。服も白い布を巻いているだけで谷間も丸見えだし下もかなり際どいので目のやり場に困る。
彼女のあまりの美しさに言葉を失っていると。
「あ、あのぉ・・・?」
声をかけられハッと我に帰った。
「すいません。えっと…サラさんが.....その、あまりにも美しくて・・・」
家族以外と話すの久しぶり+女性+可愛い。この組み合わせは、僕にとって天敵だ。さらにサラッと恥ずかしいことを言っていまい、頭の中で悶えていた。
「そうですか。聞いておきたい事はありますか?」
笑顔で今世紀最大の恥ずかしい言葉をスルーされて、僕の心の体力はすでに0だった。
だが聞きたいことは色々あったので気を取り直して・・・
「まず、僕は死んだんでs────」
「────はい」
言い切る前に答えてきた。
さっきまであったドキドキはかき消された。普通この手の質問を即答するか?それに何の感情もこもっていない淡白な「はい」
普通は「落ち着いて聞いてください」とか「残念ですが・・・」とか言うものだろう。
もしかして常識がないのか?それとも.....
ーこいつ馬鹿なのかー
まぁ天使?の常識なんか知らないし、毎日何万人も死者が来るだろうから一々丁寧に対応していたら時間がないの.....かも?
考えても仕方がないので、気を取り直して次に気になっていることを聞いてみることにした。
「あ、あのおばあちゃんは大丈夫でしたか?」
「はい。あなたのおかげで生きていますよ!」
よかった。助けた直後はあまりの痛みや死に対する恐怖から庇ったことを後悔してしまったが、今落ち着いて振り返るとおばあちゃんが助かって良かったと思う。これで結局助けられなかったとか、犬死でしかない。
少しでも意味のある死で────
「────ですが、あなたが突き飛ばしたので思いっきり転んで右腕を骨折しました.....何でもう少し優しく押さなかったのですか?」
いらないことを言うこの天使のような悪魔を一度ぶっ飛ばしてやろうかと思った。
ーこいつ馬鹿なのかー
再びそう思いながら悪魔を睨んでいると、悪魔が天使のようにら微笑みながら口を開いた。
「あなたには、二つの選択肢があります。一つはこのまま輪廻転生をすることです。今世は男性でしたので次は女性に生まれ変わりますね。あなたの場合は今でも十分女性っぽいですが!」
この悪魔は笑いながら気にしていたことを言ってきた。決めた。こいつぶっ飛ばす。
だが.....女に転生するのは悪くない。
「もう一つは?」
恐る恐る聞いた。
この悪魔は何を言い出すかわからない。
「世界を滅ぼす魔王として、異世界に前世の記憶を持ったまま転生することができます」
「・・・・・は??」
予想が的中し、そしてこう思った。
ーこいつ馬鹿なのかー
「輪廻転生コースで」
悪魔が提示した選択肢に対して即答した。
「・・・え?」
「・・・え?」
ただ答えただけなのに驚かれた。そして驚かれたことに驚いた。
「魔法とかありますし、えっと、その、ゲームっぽくてあなたなら楽しいと思うのですが・・・」
確かに魔法が使えるゲームのような世界になら転生したい。しかし世界を滅ぼす魔王なんてなりたくない。世界を助けてちやほやされたい。女の子に囲まれて生きていたい。
「確かに惹かれますが、世界を救う勇者とかになりたいです」
悪魔はその言葉を聞いて顔を赤くしながら
「ゆ、勇者はもう十分送りました・・・」
「ただ、送りすぎちゃってぇ.....その.....魔物がほとんど殺されてしまい人間族が増えすぎてしまい.....自然が破壊されて.....逆に世界が滅んでしまいそうなんですよ.....」
数時間トイレを我慢させられているかの如くモジモジしながら言っている悪魔を見て、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「だからその、世界のバランスを取り戻すために人間族の減少と、モンスターという名の生物の増加をしてもらいたくて」
急に淡白な口調に戻ったかと思うと、なんともファンタジーとはほぼ遠い注文だ。
どうやら世界を滅ぼす魔王ではなく、世界を救う魔王になれという事らしい。
まぁファンタジーっぽい世界なら人間以外にもケモ耳美女や魔族のお姉さんのような女の子たちもいるかもしれない。その子たちにならチヤホヤしてもらえるのでは.....?
そうなれば話は別だ。よし決めた魔王になる。モテるためにやるぞ.....そしてヤるぞ.....
なら攻略するためにも、敵対する羽目になる他の転生者について聞いておくべきだ。
「ちなみに、何人そっちの世界に送ったんですか?」
「50人ほどです」
いくらなんでも多すぎる。こいつ本当に馬鹿なんだなと再認識をした。
「魔王になるためには力が必要です。しかし世界を滅ぼす魔王になるあなたには他の転生していった者たちとは違い、言うなれば悪の化身となる訳です。もしそちらの世界で死亡した場合は輪廻転生は不可能となり、地獄の最下層にて耐える事ない痛みと飢餓感を背負いながら拷問を受け続けることになります。転生者たちはすでに向こうの世界で過ごし始めて最低でも5年は経っているのでとてつもない力を有しています。とても難しい話ですが、頑張ってください」
「残された時間も少ないので最弱の人種ではなく無理矢理ですが、悪魔種として転生させます。さらにすでに向こうの世界で存在しているスキルを2つ付与します。本来貴方に特別な力を宿すことすらタブーなので、これが限界です。あとは自力で何とかしてください!」
絶望しかない。いくらなんでも50人のチーターたちと戦うなんて不可能だ。それに地獄になんか行きたくない。やっぱり女として輪廻転生しよう。
「では、スキル【鑑定】と【創造】を贈呈します。あなたは第五世界人の中では珍しく、すでにスキルを一つ保有しているので、これで三つですね。あなたが魔王となり、世界の崩壊を防ぐことを祈っています」
「では、頑張ってきてください」
ん?了承なんてしていない。この悪魔強引に転生させるつもりらしい。
「聖なる古き支配者。燃えよ。光れ。その大いなる力を与えよ。我が望む場所へと彼を転移させよ。聖なる古き支配者。燃えよ。光れ。その大いなる力を与え.....」
悪魔は手を胸の前で重ね合わせ何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。すると驚くことに背後にゲームやアニメでよく見るような青白い魔法陣が展開される。
「まて!僕は輪廻転生コースを選んだんだけど?」
「え?この流れだと了承してくれたのかと・・・もう遅いですから覚悟を決めてください!」
ーこいつ馬鹿なのかー
そう心で呟きながら必死に抵抗したが、抵抗虚しく体が宙に浮き始めた。
足元を見るともう膝下が無くなり太腿も激しい光に包まれ透け始めている。
「いってらっしゃい!!」
「ふざけるなぁ!.....ぁ」
悪魔に笑顔で見送られながら、異世界に飛ばされた。ここに来て分かったことが一つだけある。
ーこいつ馬鹿だー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふぅ.....」
どっと来る疲れにため息をつき、右手を摩りながら女神サラは肩を落とす。
女神といえど、彼女は治安のいい第五宇宙に存在する地球担当の神であり、ある程度の力は与えられているものの無限の力を持ち合わせているわけでない。なので強い魔法を使うと流石の神といえど疲弊するのだ。
そんな女神の背後に突然、影が忍び寄る。
「お疲れ様です」
「うわっ!びっくりした!」
サラに忍び寄ってきた影の正体は、同じ服装をした金髪のポニーテールをした別の女性だった。服装はサラとあまり大差ないが、サラの方が若干、生地の質感や装飾の有無で見劣りしており、階級の差が現れている。そんな彼女はサラの補助役フィランス・ラピィ。
「もーやめてよ」
「失礼しました。それで彼は?」
「あぁもう送ったわ」
「今度こそ成功するといいですね」
「そうね.....あんなことまでしたんだもの」
サラが摩っている左手に、補助役の女性が優しくその左手を両手で覆いぎこちない笑顔を見せた。
ため息をつきサラは寂しそうに頷き、それに応えるようにラピィ頷く。2人は互いに見つめ合い、そしてゆっくりと空を仰いだ。
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