INSURGENT〜正義の魔王〜

あるご

プロローグ

第1話 死亡

カッコいい紋様の入った鎧と竜の巫女から託された白銀の聖剣を腰に携えた男が、真紅のマントを靡かせ、禍々しい城を見つめる。


ここは魔王城。


あと一歩。目の前でいやらしい笑みを浮かべるこいつを.....こいつさえ倒せば!


目を閉じ思い出す。


洗脳された心優しき魔人の洗脳を解き....数多の国を滅ぼしたゴーレムを破壊し.....爆炎を支配するドラゴンを倒し.....凍てつく心の魔女の心を溶かし.....堕天した神とも戦ってきた。


悠久にも思えた俺の冒険.....やっとだ。やっとこれで終止符を打つことができる。


姫とは幼き頃から城に忍び込み一緒に遊び笑い合った。平民と姫.....禁断の恋をした僕たちの絆は固く、将来を約束し合う仲だった。


それなのに.....魔王が姫をっ!


あの時から心に湧き上がる怒りの炎を力に変え、やっとここまで来たんだ。



「.....今助けるよ」


「行くぞ魔王っ!!」



「来い!勇者タイガぁぁ!!!」



・・・



「グハァッ!」



「これで終わりだ!エクスカリバぁぁ!!」



必殺技をくらった魔王の体から、紫のガスのようなものが漏れ出し、やがて跡形もなく消えていった。


魔王の消滅と同時に暗雲立ち込める空に無数の光の柱が現れ、数十年ぶりに空は綺麗な色を取り戻す。



「ついに・・・魔王を倒したんだ・・・」




だがこれで終わりじゃない。


ヨロヨロになりながらも俺は、姫が囚われている牢屋へと向った。


牢屋の姫は、純白のドレスに身を包む、宝石のような青い瞳を潤ませた、金色の長い髪がよく似合う絶世の美少女がいる。



「タイガ様!お助けいただきありがとうございます!」



姫の声は相変わらずハープのような心安らぐ声だ。牢から出た姫は僕に再度感謝の言葉を述べ、やがてその頬を赤く染め、抱きつきそして…



[キーン!コーン!カーン!コーンッ!!]



良いところだったのに・・・



ー早く帰りたいー



アスカワタイガはクラスの片隅で1人、意味もなくイヤホンをつけながらスマホをいじっていた。 


一般的な、なんの変哲もない黒ブレザーを着用し、目元が完全に隠れる長く無駄にサラサラとした髪。だが偶然がそれが生み出しただけで彼は手入れなどしたこともなければ、流行りの髪型にセットしているわけでもない。


そこそこ美形で中性的雰囲気の顔をしているが、それは異性にウケるかっこよさではなく、弱々しさや女々しさを感じさせる。


窓の方を向き、一台のスマートフォンを握りしめているが、その画面は真っ暗。空虚な瞳でボケっと空を眺めながら無意味に携帯を握る手を動かす。そうする理由は話しかけられたくないからだ。必死になにかしてますよ?アピールを毎日のように繰り返している。


もちろん、そんな事しなくても誰かに注目されることもなければ、話しかけられることもないわけだが…


毎日学校とういう名の監獄に閉じ込められ、勉強という拷問を受けていた。友人と呼べる存在もいない僕は、学生生活になんの楽しみも見出せずにいる。唯一学校に感謝することがあるとすれば学生料金くらいだ。1人カラオケに1人映画など学生のおかげで安く済む。


友人がいないとは言ったが、別にコミュ症でもなければ人見知りでもないはずだ。


虐められていた過去があったからだろうか。

友達を作る行為が.....誰かを信頼するのが怖いんだ。また裏切られるのではないだろうか。そんなことを考えてしまう。


そんなぼっち生活も中学に入ってからなので、今年で4年目に突入した。さすがに4年もぼっちでいると慣れてくるものだ。


授業中はモテモテな生活だったり、世界を救う勇者だったり、テロリストを倒す一般人だったりそんな自分を妄想して過ごす。休み時間はライトノベルを読んだりスマホゲームをして時間を潰している。


最近は、パズルをしてモンスターを倒す[パズモン]にハマっている。ハマりすぎてつい課金を繰り返して、今月のお小遣いがもう無い状況だ…授業中もクエストを周回したいが、もちろん授業中にやる勇気はない。

 

まぁ授業中は妄想の世界にいるため、ノートも取らないし、話も聞かない。


だが、幸いにも父親譲りで頭だけは良いため、授業に全く集中していないにもかかわらず学年上位に食い込む程度には点数は取れる。


そしてテスト返却の日はいつも、クラスの女子に「教えて欲しい!」とせがまれる。




・・・妄想をしている。


放課後は適当に寄り道をしながらいつもの妄想の続きをしている。妄想をしながらも、うざったい日差しを避けるように下を向きながらトボトボ早歩きで帰っていた。


季節は秋だというのに、汗が滲む残暑が続く。夏は嫌いだ。冬は着込めば問題ないが、夏はどれだけ薄着だろうと暑さからは逃れられない。

大昔の昆虫図鑑には蝉は夏の生き物と書いてあるがにわかには信じ難い。僕の知っているあいつらは秋から冬にかけミンミンジリジリ鳴いている。下を向きながら歩く僕の横目に、タンクトップに麦わら帽子を被った少年たちが虫網片手に元気よく走る。そろそろ秋といえばの虫取りのシーズン。僕も昔は父親と蝉やらカブトムシを捕まえたものだ。この時期は木には葉の一枚もついていないので昆虫を見つけるのも容易だ。


妄想から離れついくだらない事を考えていると、突然目の前で耳を裂くようなクラクションが聞こえた。見ず知らずの白髪のおばあちゃんが今にも大きなトラックに轢かれそうになっていたのだ。


どうしていいか分からず硬直していると、急に背中を押されたように身体が前へ前へと動きだす。気がつくと僕は無我夢中で走り、勢いを止められないまま、そのおばあちゃんを突き飛ばした。


次の瞬間、体に電気が走るような痛みを感じた。体がゴムボールのように何度か道路を跳ね、ゴミのように地面に転がる。


僕は意識が朦朧としながら地面に横たわっていた。どうやら車に跳ねられたらしい。


全身が冷たい.....まるで水に濡れているみたいだ。



「ーーーく!救急車!!」


「ーーやばくない?」


「ーーーだわ。まじグロい」



ーうるさい。もう寝たいんだー



不思議と痛みは段々となくなっていった。ただ周りにいる人がうるさい。妄想好きな僕は、人を助けて死ぬのはかっこいいと思っていた。


誰かのためになら、死ぬのも良いと。


だが実際にそんな状況になった時、僕はただイライラしていた。


なんであんなもう長くないようなババアを助けてしまったのだろう・・・


助けるんじゃなかった・・・


僕が死ぬくらいなら、いっそ世界なんて滅べば良いのに・・・


結局正義のヒーローは似合わないらしい。


やっぱり痛いなぁ・・・


ゆっくりと襲いかかる肉体的にも精神的にも来る苦痛が、僕に死を実感させる。


ー死にたくない、死にたくない、死にたくないー



何処からかサイレンの音がするが、その音は次第に小さくなっていく。


死に直面して心が壊れそうだったが、抗えない眠気に襲われ少し落ち着いてきた。



もう寝よう。



次の瞬間少年は、その短い生涯に幕を下ろした・・・・・・

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