第11話
『ある執事の憂鬱』
私の名前がエドガー・トレモロス。元S級冒険者であり、現アールグレイ家の家令をしている。
冒険者として名を馳せた私は、その功績を認められ騎士爵を頂いた。しかし貴族としての振る舞いが分からず早々に挫折した。なんであんなに地位だ名誉だと騒ぎ立て、政略などに明け暮れるのかが理解できなかった。
まっとうに善行を積めば認められるというのに……
そうして騎士爵を持ちながらも、新たに執事としての人生を歩み始めた。ちょうど軍を指揮するアールグレイ侯爵家で、執事を募集しているということも聞きつけ応募した。
旦那様は冒険者だった私を特に気に入っていただき、今では家令としてこの家のすべてを取りし来る大役を仰せつかっていた。そして12年と少し前、待望のお子様が生まれるということで、私もふくめ家中が明るい光に照らせれているようだった。
そしてこの世では忌み子と囁かれている双子がお生まれになった。
私は当然のようにお二人とも仲睦まじく暮らす未来を思い浮かべた。所詮忌み子など迷信。実際貴族でも双子はたまに生まれ、それでも一つ違いの兄弟姉妹として育てるという話も聞く。
話しに聞くだけでもそれなりにあるのだ。秘密裏にそうなった事例ももっとあるだろう。そもそもが双子がだめな理由がお家騒動に発展しやすいからというところもある。だから女子の双子になんのの憂いもない。
だが旦那様と奥様は違ったようだ。
その悪しき習慣によりマリアント様は離れに隔離されてしまった……それとなく気にかけ、旦那様にも苦言を呈したこともあった。しかしそれは聞き入れていただけなかった。
お付きの侍女にもちゃんと面倒を見るように言ったが「奥様からのご命令ですので……」と聞き入れてくれなかった。首にすると言った時には奥様から直接お叱りがきたほどたった。なぜそこまで……と思うほどだった。
そして洗礼の儀……やはり処分するのだと……そしてその役目はお前だと告げられた時、私はいっそマリアント様を連れてここを出ようかとも思った。しかしそうはならなかった。私が手を下すまでもなく何者かに攫われたと……
屋敷の警護にからは「黒い狼に乗っていた」というバカな話が報告された。
狼に咥えられていた、ではなく乗っていた?もしやお目覚めになったスキルは『もふり』の効果で……スキルの名前の意味は分からないが、テイマーのように動物や魔物を使役する力なのか?
いやいやそんなこともないだろう。テイマーの様なスキルなら旦那様も処分なんて言葉が出てこないだろう。でもそれが未知のスキルであったなら……そんな願望のような思いで獣たちと暮らすマリアント様を思い描いた。
そしてマリアント様が生きている……そんな話を聞いた時の私が……自分でも信じられないほどの喜びが感じられた。それと同時に、保護するとの旦那様の言葉を聞いた時、本当に殺意を覚えた。
保護するといってもあの有名な下種男のもとに送り出すのは分かり切っていた。報告ではマリアント様は見目麗しい男性と共に幸せそうに暮らしているらしい。その暮らしを邪魔するなら……関わったもの皆殺ししてもいい……
冒険者だった頃の血が騒ぐ気もした。
結果、私が手を出すこともなく、マリアント様のそばにいた仲間たちが兵を退けた。いざとなれば私がすべてを終わらせる気で付いてきたのに。安堵と共に何もできなかった自分を恥じた。せめてもの謝罪の言葉を綴った手紙を残した。
しかしそんなもの、マリアント様には何の価値もないだろう。知らない誰かの無様な言い訳。
さあ、そんな役立たずな私の今できることをやろう。
旦那様がこれ以上、変な気を起こさないように。なーに、今度は冒険者としての経験が生かせる。私から見てもあの仲間たちは異質。ランクが違っていた。それを旦那様に告げ、二度とかかわらない方がいい。
旦那様、奥様のお命を守るため。そう告げればよいだけの簡単なお仕事。せめてもの償いであった。
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