第10話
「あっ大丈夫っぽい?なんで?私あれで刺されたよね?……あーそうか……」
「クロの服はあんなのじゃ貫けないよ。でも痛かったよね。今日は僕がなでなでしてあげる!」
察した私にその事実を再度突きつけながらお腹を撫でるジロ。
やめて!恥ずかしい!悲劇のヒロイン気取ってしまった私は顔を両手で覆って悶えてしまった。でもそれなりに痛むお腹にジロの温かい手は心地いい。なにこの生き地獄?いや天国?もうどうにでもしてー!
私の意識はもう姉とかどうとか一切どうでもよくなってしまった。できれば穴を掘って埋まりたい……
「こら!離しなさいよ!私を誰だと思ってるの!次期王女よ!えらいのよ!」
「うっさい黙れこの女!殺されたいのか!」
クロのその言葉に悶えていた私もドキッとしてしまい慌てて起き上がる。
「クロ!放してあげて。私はなんでもないわ。心は少しやばいけど体は大丈夫だから!ほらみてっ!」
私は自分でも何言ってるんだと思ってしまうほどの語弊でクロを説得した。
「おお!マリ姉、大丈夫だったんだな、よかった」
はじける笑顔をこちらに向けたクロが姉を離してこちらへ戻ってくる。
「ロズを離さんかこの化け物どもめ!」
そのクロに向かって剣を叩き込もうと走り込んできた男がいた。
父だったその男の斬撃をクロが冷静に躱していく。そしてクロの風の刃により切り刻まれる長剣。それを見て男は本日二度目の地面に膝を付けた。
「か、家宝の宝剣が!こ、ま、ぎ、れうぅ……」
そしてそのまま後ろに倒れ意識を失った。
その頃には、洞窟の入り口に私の今の家族が戻ってきていた。兵士たちを阻んでいた魔法も解かれていた。護衛達がこちらに刃を向けて警戒していたがそこに母だった女が怒鳴り声をあげた。
「さっさとここから帰るわよ!もう一秒でもいたくないわ、こんなところ!」
勝手に尋ねておいて酷い言われよう。
「早く帰ってくれますおばさん?あっ……」
少しイラっとしてしまい思わず口が動いてしまった。慌てて口をふさぐ。だがもう遅い。ジロやクロも「帰れおばさん」と口走る。モモさんは分かってるんだろうな「ふふふ。おばさんは帰れって。これはまた辛辣じゃの」と……
そして当然のごとく真っ赤になりながら、そのくやしさを地面にぶつける母だったおばさん。
「何してるの!このうすのろ!帰還札だしなさい!はやくーーー!」
ヒステリックに叫びながら近くの兵が差し出した札をむしり取ると父だったおじさんと姉だった……なんだろう。姉だったものか。それにふれながら札を破く。そしてその場から消えていった。
同じように兵たちが各々にかたまってその札を使う。そして誰もいなくなった……と思ったらタキシードを着た身ぎれいな男、前世の知識でいったところの執事さんと思われる格好の男が残っていた。
その男は、こちらに深々と礼をすると、収納と思われる空間から大きなバスケットを取り出すと地面に置いてから懐から出した札を破き消えていった。
「なんだこれ?」
レオがそのバスケットを見ると大きなバスケットにいっぱいの果物が入っていた。そして一枚の手紙も……
洞窟に戻り疲れを癒すように座り込む。さっそくバスケットの中から桃のようなものを取り出して食べてみる。この森にはないものだったから少し涎がでそうだった。
齧り付くとやっぱり桃のような味でやばい……うまい!ジロたちもそれぞれ好きな果物を取って齧り付いていた。みんな喜んでいるようだ。そして目線は手紙に向いた。あの執事さん……洗礼の儀の時にいたかも……
そう思いながら見た中身は、私に対する謝罪の言葉が綴られていた。
冒険者を引退した私を拾ってくれた旦那様への恩と、それにより助けることができなかった私への謝罪。この手紙が渡っているということは話しは決裂となったであろうということ。当然こうなることは解り切っていたことなども書かれてあった。
あの父だったおじさんの手紙とは違う、本当に心のこもった謝罪の手紙に見えた。
そういえばその執事風の男の人、汚れ一つ無かったな。きっとすごい冒険者だったのかも!そんな妄想をしてしまう。異世界に来たのだから冒険者って道もあるのかな?と思ったが、実際私はもふることしかできないから向いてないな。と思い直した。
でもいつかジロたちとこの世界を回ってみるのもありかも!そう思うとまた胸がドキドキと震えるのが分かる。本当にいつの日か……
その日は人化したみんなと丸まって寝た。なんとなくそうしたかったから。
その幸せがいつまでも続きますように……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます