第9話

「マ、マリアント!戻ってきておくれ!」


私はこの世界にも土下座ってあるんだなーと少し関心した。ただそれだけだった。洞窟内の少しの沈黙に反して、外では騒ぎの声が聞こえてきた。護衛なんかを連れてきたのだろう。聞いたこともある女の声……母だった人の声もあった。

コガネさんとクロが怒鳴っている声が聞こえる。


「私が、私たちが間違っていたんだ。戻っておいで……こんな洞窟での暮らしはつらいだろ?美味しいものも温かい部屋も用意する。あとな、結婚相手もみつけてきたんだ。同じ侯爵家だ!侯爵家のお嫁さんなら贅沢な暮らしが待っている!幸せになってほしいんだ!」


その言葉を聞いて、私は思わず楽しくなってしまった。「ふふ」という声が漏れてしまった後は我慢ができずに笑ってしまう。「あははは」とお腹を抱えるほどに笑ってしまった。ちょっとマジでおなか痛い。

この男は……他所へ嫁がせるために私を呼び戻したかったのかと。お姉様は皇太子様と結婚されるものね。私に利用価値があると気づいた……だからこんな森の中に危険を冒してやってきたのだろう……バカらしくて笑えた。


「そ、そうか!嬉しいか!パパはな!お前の幸せを考えていたんだ。まかせなさい!今こそお前の願いを全て叶えてやろう!」


勘違いしたその男は立ち上がり、膝の汚れを掃うようにしながらそう言ってのけた。


「バカじゃない?私の幸せはここにあるの。あんたみたいな男の顔なんて二度と見たくないわ!さっさと帰って!」


結構な大声が出た。すごくスッキリとした私がいる。直接文句が言えるのはいいものだ。そう思ってしまった。


「マリ姉嬉しそう!」


レオが私の腕にしがみつて喜んでいる。

目の前の男は自体が飲み込めていないようで真顔になっていた。面白い顔。


「マリーーー!私よ!ロズよ!お願い顔を見せて!」

「お姉様!」


遠くから聞こえた声に少し心が弾む。こんなところにお姉様が……気づけは私は洞窟の入り口まで走っていた。ジロとモモさん、レオも一緒に付いてきてくれたようで、外の光を浴びた私の横に付いていてくれた。

そして威嚇するように入り口の少し前に立っていたクロとコガネさんもいた。


「お姉様!」


目に映るのは沢山の武装した兵と母だった女、そして唯一の心の支えだった姉の姿が見えた。


「マリ!良かった……生きていたのね……」


私は泣き崩れるお姉様のもとに走り寄った。途中ジロたちが止めようとするが、それを「大丈夫だから」といって手で制した。そしてお姉様に抱き着いた。

ああ、こんなに汚れてしまって。私は持っていたクロからもらったハンカチで、姉の汚れた頬を拭く。


「マリ……一緒に帰ろう?なんならこの人たちも一緒に……守ってくれてる人たちなんでしょ?」

「お姉様……そうなの。このジロって子が殺されそうだった私を屋敷から攫ってくれたの。このハンカチも服も……クロが作ってくれたの。そしてやさしいモモさんとコガネさん、そして可愛いレオも……みんなやさしいんだ」

「そうなんだね。じゃあいっぱいお礼しなきゃね」

「うん。でもね……だから……お姉様とは一緒にいられない。ここが私の今のお家だから……」


私は、泣きながらそう言った後、姉の見たことのない冷たい真顔をみて胸が苦しくなった。

そして次の瞬間には、本当に痛みを感じてうずくまった……お腹に突き刺さる痛みを……


「何がここがお家よ!あんたは黙って帰ってきてあのおやじに嫁げばいいじゃない!ついでにこの男たちは私がちゃんと養ってあげるわ!みんな見目がいいからね!」


はあはあと肩を上下させながら姉の初めての怒号を聞いていた。その手にはきらりと光るナイフがあった。そうか。あれで私は突き殺されるのか……

そう思った時にはもうすでに姉はクロに取り押さえられていた。周りの護衛は母だったものも含め、コガネさんの氷の柱とモモさんの茨の壁で近づくことができないようになっていた。

そして私は、ジロとレオに守られながら洞窟の入り口の方へと連れられた。

かなりの衝撃を受けたお腹を押さえる……私はこれで死んでしまうのかな?やだな……せっかく幸せになれると思ったのに……


「ジロ……ごめんね」


不安そうに見つめる二人にお別れの言葉を必死で考えた。あまりうまい言葉が出ていない。何よりさっきの姉の豹変に頭が混乱している……でも時間はあまり残されていないことは分かっている……

だってさっきから私のお腹からはダクダクと血が流れ出て……流れ出て?……ないっ!!!


「あっ大丈夫っぽい?なんで?私あれで刺されたよね?……あーそうか……」

「クロの服はあんなのじゃ貫けないよ。でも痛かったよね。今日は僕がなでなでしてあげる!」

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