第8話

新たに人化してしまった三人。


コガネさんは金髪ですらっとした色白クール系イケメンに、モモさんはうっすら桃色ヘアが煌めく美人。素敵なボディーが羨ましい……。レオはまあ……私と同じ年くらいの銀髪で可愛い系な男の子になっていた。何か目覚めてしまいそうになる。

最近は目の保養しかしていない私は幸せ過ぎてつらい……


あと、コガネさんはしっぽが5本に、モモさんは3本に増えていたという。二人ともとても喜んでくれた。そのことを聞いたジロもクロも、実は人化してから同様にかなり能力が上がったという。

人化したことによる影響でパワーアップ!そんなスキルだったようだ。自分の事ながらめちゃ凄い!と思った。


私は、モモさんに「マリネエのおかげじゃ」とその立派な胸に抱き寄せられた。何か目覚めそうになった……そう、これは今世の12年間では感じられなかった……前世で幼いころに感じた……母への気持ち。

私は少し泣きそうになりながら、モモさんの胸に顔を埋め両手で抱き着いていた。そして何時もとは逆にモモさんに頭をモフられた。なんか幸せ。


結局、広い洞窟ということもあって、そこでみんな仲良く生活することになった。

特にモモさんとは協力して料理なんかも覚えてくれたので助かった。女性一人では大変なあれこれもあるしね。何度か街に行っては包丁や鍋なんかも追加で手に入れ、かなり人間っぽい生活ができるようになったので、本当に毎日が幸せであった。


◆◇◆◇◆


「まだつかんのか!」


大声で先頭を歩いている男に声を掛けるのはマリアントの父、アールグレイ・ダイモンドである。


「ねえ!本当に私も行く必要があるんですか?あなた!あんな、出来損ないのためになんで私がこんな暑苦しいところを……」


母、アールグレイ・ローズマリは慣れない森を、護衛の兵に手を引かれ、文句を言いながら歩いている。


「まったく!あのバカな妹のせいでこんなことになるなんて……こんなことになるなら、あのまま屋敷で飼いつづけ、今までのように優越感に浸る道具として、たまに会うだけの存在にしてくれれば良かったのに……お父様のせいで余計な手間になってしまったわ!」

「おい!ロズ!パパだって色々考えてるんだ!黙ってなさい!」


マリアントの唯一の支えだったはずの姉、ロズエリアも日々溜まったうっぷんが最近解消手段がなくて困っていたため、愚痴ってしまったが珍しくそれを父にたしなめられたことにイライラがさらに募る。


「も、もうすぐなはずです」


先頭を歩いていた冒険者がそう口にする。追跡というスキル持ちの冒険者と一緒に、魔物との戦いに慣れた者たちを50名ほど雇っての死の森への訪問であった。途中、猿や虎の魔物が襲い掛かり冒険者の半分は負傷したため自前の帰還札で戻っていた。


そして、その多くの資金を消費して、やっとマリアントがねぐらとしている洞窟前まで到着した。


「ここが?こんな洞穴にあの子がいるというのか……」

「ほんと!笑えて来るわ。ホームレス以下、虫唾が走るわ!」


父と母だった二人は、娘の安否を気遣う言葉は出てこない。

そして、そのタイミングで警戒したジロが洞窟からゆっくりと出てくると、その望まれない訪問者たちを睨みつけていた。


◆◇◆◇◆


「マリ姉、何かきた。多分人間……いっぱいきた」

「そうみたいだな」


ジロとクロが警戒した顔をこちらに向けて報告してきた。

人間?なんで?遭難した冒険者か何かなのだろうか?そう思っていたらジロが「様子を見てくるから動かないでいて」と洞窟から出ていった。


「なんだ!お前たちは!」


ジロが威嚇するような声で叫んでいるのが聞こえた。


「わ、私だ!ダイモンドだ!マリアント!いたら出てきておくれ!可愛い私のマリアント!」


その声を聞いて私が……心底気持ちが悪いと思った。何をいまさら……可愛い?私が?生まれた瞬間から処分することを考えていたあの男が?ありえない!気づけば私は能面のような顔をしていかもしれない。

何も考えたくなかった……


そんな私を察したようにモモさんが「大丈夫じゃ」といって抱きしめてくれた。柔らかい肌が心地よかった。


「どれ、私も行ってこようかの。万が一があってはいかんだろう」

「じゃあ俺も」

「僕はここにいようかな」


コガネさんとクロが洞窟の入り口まで向かい、レオは私のそばに寄り添ってくれた。


「こっこらっ!はなさんか!やめっいたたた……」


ジロが貴族らしい派手な服を着た男の背をつかんでここまで運んできた。


「マリ姉。とりあえずこいつ連れてきた」

「おお!マリアント!私の可愛いマリアント!」


その男の言葉を聞いて全身に鳥肌が立つ。ここまで来るのに苦労したのだろう。派手な服はぼろぼろ。髪も乱れ顔もくたびれている……こんな顔してたんだ……考えてみれば父の顔なんてほとんどまともに見た経験がなかった。

そんな物言わぬ私に、何を勘違いしたか男がその場で膝をついた。かなり躊躇していたが……膝をつこうと地面を見てそれから数秒、膝を折るが完全に地面を付けようかやや迷う。そしてやっと地面に膝を付けて顔をしかめながら引きつった顔を下げた。


「マ、マリアント!戻ってきておくれ!」

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