第7話
最初に街へ出てから1ヵ月、それからも週一程度でジロと一緒に野菜類を買いに出ていた私。
そんなある日、森の入り口付近で武装した兵に声を掛けられた。
「すみませんが、マリアント様でしょうか!」
その言葉に警戒しながらジロの後ろに隠れ、様子をうかがう。
声を掛けてきたのは3人いる兵のうちの一人のようだ。
「私は、アールグレイ侯爵家に使えている者です。良ければ御父上であらせられるダイモンド様からの手紙を、受け取っていただければと思います」
そう言うと、その男は腰の剣を鞘ごと外すと、地面に置いた。それを見た後ろの二人も同様に剣を置いた。警戒心をなくすための配慮であろう。
ジロが差し出された手紙を受け取り私に渡してきたので、開けて中身を確認する。
正直私は、何が書かれていてもどうでもよかった。私を殺そうとしていたはずの男が何を言おうと今更もう遅いという感じであった。もちろん恨み辛みというのであれば破り捨てて男たちを罵倒してそのまま伝えろと言い放てばいい。そう思っていた。
だが、その手紙の中身はそんな内容ではなかった。
娘の私への懺悔と愛情あふれる文章の数々。そして自分たちが悪かったこと、それを十分反省していることを長々と書き連ねてあった。そして戻ってきてほしいと。ほしいものは何でも与える。贅沢な暮らしでもなんでも臨むといいと……
私はそんな言葉がまったく刺さらなかった。
その手紙の内容が嘘くさいとかそんなことは置いといたとしても、今のこの幸せな生活を手放すつもりはなかった。
「あの人には……もう忘れてくださいとお伝えください……では……」
そういって後ろを向き、歩き出した私の体が、ジロに抱きかかえられてふわりと浮いた。まだ男たちが引き留めようとこちらへ声をあげている最中である。つまりはその男たちが見つめる中のお姫様だっこ……恥ずかしくて死ねる……
私は、颯爽と駆け出すジロの腕の中で両手を顔に当てて耐えていた。なんたる羞恥プレー!これがあの父親だった男に詳らかに報告されると思うとさらに恥ずかしさが増した。
◆◇◆◇◆
「それで?忘れてくれと言われてそのまま帰ってきたっていうのか?」
「い、いえ!引き留めようと声を掛けたのですが、連れの男に抱きかかえれれて凄い速度で逃げられてしまって……あと、振り返りざまのその男の殺気が……思わず膝をつきそうになるぐらい強烈で……」
マリアントの父、アールグレイ・ダイモンドは頭を抱えた。
マリアントが捕まらなければ、アッサム侯爵も姉のロズエリアを早く嫁がせろ、と言ってくる。皇太子様の婚約者となっているのだがら断ることは容易いが、アッサム侯爵家との繋がりは強くしておきたい。
そんなことを考えるほど、イライラが募っていく。
「直接……説得してみるか……」
手紙であるから誠意が伝わらない。実の親子だ。直接会えばわかってもらえる。そう思って準備を進めるダイモンドであった。
◆◇◆◇◆
街での騒動があって1週間。
ねぐらとしている洞窟にお客さんがやってきた。
白い虎が1匹と尻尾が多い狐が2匹、小さい普通の狐?が2匹。
『おかしいなー。あの狼の魔力は感じるけどいないみたい』
『うむ……よもやこの人間に喰われたか?』
白い虎と大きい方の狐がこちらを見て首を傾げている。
「あっ!虎に狐!久しぶり!」
そう言うとジロが服を脱ぎ捨てると狼の姿へ戻っていく。
服を破かないようにと脱いでから戻るジロだが、私も随分なれたもの……嘘です。まったく慣れずその度に赤面してしまいます。
3匹の魔物は『おお』と驚き、人化についての話やこれもまでの経緯、私についても話し始めていた。
『ではそのマリネエとやら……ワラワ達にも名を付けるが良い』
小さいほうの狐から突然のお願い。それを聞いて大きい方の狐が『うむ』と頷き白い虎は『つけてつけてー!』とまとわりついてくる。大きいからちょっと怖い。
仕方なく私は思案する。
大きい方の狐はオスで3尾の狐というらしい。金色の美しい毛並みから『コガネ』と名付けた。
小さい方の狐はメスでコガネのお嫁さん。2尾の狐。うっすら赤みがかった美しい毛並みで『モモ』と名付けることにした。
白い虎は、コガネの知り合いで白とうっすら銀色の模様が入っている。白虎という魔物らしい。『レオ』と名付けたその子はコガネの知り合いらしい。
ついでにコガネとモモの子供という子狐にも名前を付けることとなる。二人に私がつけていいの?と聞くと「うむ」とモモが頷いたので、恐縮しながらも考えた。まだ幼いので普通の狐と変わらないその子狐。どちらも薄い金色に見える。
オスの方は『ダイ』メスの方は『ユズ』とした。橙に柚子……おいしいよね。
そしてまとめて撫でまわす。みんなもっふもふであった。撫でまわして魔力がふわりとしてなんとなく予想もできて……
案の定翌朝にはコガネとモモ、レオが人化していた。事前に言っていたのでクロの作った服を用意してあった。一応子供用にも用意してもらったけどそちらは使うことはなかった。残念。
しかしモモさん……喜びのあまり全裸でくるりとターンしないでいただきたい……。男性陣は全く気にしない感じではあったが、私が何か目覚めそうであった。だって綺麗なんだもん。
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